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「幸せ」とは何か


 白龍はイリヤの抱える闇の大きさを知らない。知りたいけれど、知ってしまうのが怖い。だから、何も知らない振りをして生きる。

 白龍とイリヤ、二人きりの部屋。訳あって二人で留守番をしている。
「白龍、どうかしたか?」
 イリヤのことを考えているうちに険しい表情になっていた白龍はイリヤ本人に声を掛けられてしまった。
「いや、なんでもない」
「ならいい」
 短い会話、訪れる沈黙。もう慣れた。
 イリヤは誰が好きなのだろうか? 突然浮かぶ疑問。
 白龍は気付いたらイリヤのことが気になっていた。それが恋愛感情だと気付くのにはかなりの時間がかかった。まさか好きになるとは思っていなかったから。
「……なぁ、イリヤ」
「うん?」
「幸せか?」
 突然俺は何を聞いているのだ、と白龍は聞いたことを後悔する。
「わからない」
「わからない?」
「うん、よくわからないのだ。不幸だとは思わないから幸せなのかな。白龍は?」
「私は……」
 言葉に詰まる。自分のした質問に答えられない。何を持って幸せなのだろうか。
「……多分、幸せ。こうしてイリヤといれるだけで私は幸せだ」
「多分って。わからないのとあまり変わらないじゃない。聞いておきながら」
「し、仕方ないだろう? 聞き返されると思ってなかったのだから」
 慌てる白龍に思わず笑ったイリヤを見て白龍も笑った。
「白龍がそう言うなら俺も幸せだな。白龍とこうやって笑っていられるのだから」
 その言葉に白龍は泣きそうになった。なんとか堪えて誤魔化すにも限界を感じた白龍は顔を背けて勝手に流れてくる涙を拭う。
「どうかした?」
「目にごみが入ったみたいだ」
 よくある定番のセリフで誤魔化す。自分でも泣くなんて思ってなかった白龍は戸惑った。
「そうか。背中もたれていいよ」
「ありがとう」
 振り向くとイリヤの背中があった。
 イリヤの優しさに甘えてもたれかかる。彼女は気付いているのだ。
 情けない、と白龍は思う。誰よりも強くありたいと頑張ってきたのに、たまに弱さが露呈してしまう。
「可愛いな、男のくせして」
「煩い」
 その弱さをイリヤは「可愛い」と笑っていた。

 こうやってイリヤが笑ってくれるならそれでいい。それで少しでも抱えている物の負担が軽くなればもっといいのだが。
 いつか想いを伝えて、両想いになれれば、はっきり「幸せ」と言えるようになるだろうか。

・*・*・

 未来の自分はちゃんと彼女を救えているだろうか。もしかしたら自分の方が救われているかも知れない。
 情けない自分を浮かべて白龍は苦笑する。

 いつかの未来。
 二人仲良く手を繋ぎ、笑いあっている。
 「幸せ?」と聞けば「幸せ」と返ってくる。
 何でもない日々。
 それはまだ白龍の描く理想の夢でしかないけれど。


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