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迷子のお姫様
あるところに、王子様とその王子に仕える者のたいへん仲の良い二人がおりました。よくある主君と家来の関係とは少し違っているので見かけは親友そのものです。
そんな二人の元に異国からの迷子のお姫様がやってきます。迷子の姫は別の国で自国に帰る道を探していましたが、見つける前にそこで生きるのが苦しくなってここにやってきたのです。手をさしのべてくれたのは王子でした。
明るい王子の性格もあって三人はすぐに仲良くなりました。そして一緒に姫が帰れる方法を探すのでした。
そんなある日のことです。
「なあ、シンク。オレかジャミルか選んでくれ!」
扉をノックせずいきなり姫であるシンクの部屋に入ってきた王子カリムが、シンクの状況を確認することなく言いました。
「カリムちょっと落ち着け。悪いなシンク」
後ろからやってきた王子と主従関係にあるジャミルが詫びを入れます。
悪い、と言われてもシンクは何がどうなってるのかまだ状況を掴めていません。朝起きて、さあこれから準備をするぞってところだったのでいまいち頭が回っていないのです。
「シンク答えてくれ。オレは早くハッキリさせたいんだ。ジャミルも気になるだろ?」
「気にはなるが大事な話だぞ。もう少し慎重に、」
「ジャミルは慎重すぎるんだ」
「待って」
なにこれどういう状況? と言いたげにシンクは二人の会話を遮ります。
話が進めば進むほど意味がわからなかったからです。
「ねえ、ちゃんと説明してほしい」
「ああそうだな、少し急ぎすぎた。実は――」
事の発端は昨夜。
「どうしようジャミル・・・・・・」
「どうした? そういや今日一日調子が悪そうだったな。体調が良くないなら早く寝ろ」
「いや、そうじゃなくて・・・・・・俺、シンクのこと好きになっちゃったんだ」
「何を今更。前から好きだろう」
「そうなんだけど、そうじゃなくて。前は友達として好き! って感じだったんだけど、多分、恋愛として好きになった」
「え?」
ジャミルは驚きました。カリムにとって恋愛なんて遠い存在で、もしも恋に落ちたところでその感情が何かわからず悩むと思っていたからです。だから答えを出せているカリムに驚き、ずっと一緒にいて何でも察してきたはずなのに悩んでいたのを気づけなかったことにも衝撃を受けたのです。
「それでオレ、思ったんだ。ジャミルもシンクのこと好きだろ?」
「は?」
何を言い出すんだこいつは、とジャミルは顔をしかめる。
「そんな顔するなって。オレわかるんだ!」
「なんでお前に俺の気持ちがわかるんだ」
「ずっと一緒にいるんだから当たり前だろ!」
「そう言われても俺は別にあいつのことをそう思ったことはない」
ないはず、でもそれはただ考えないようにしてただけで実はそうなのかもしれない。なんて考えていたらわからなくなってっきました。
「オレだけ抜け駆けみたいになるのは嫌だからシンクに選んでもらおう!」
「シンクが俺らを好きだとは限らんだろう?」
「好きじゃないと決まったわけでもないだろ! よし、今から」
「ちょっと待て。さすがにこの時間からは非常識だ。明日にしろ」
「わかった。明日一緒にシンクに確認しに行こう」
「・・・・・・てなわけで今に至る」
「なるほど・・・・・・?」
なるほどなのか? とシンクは思いつつもカリムらしいっていえばカリムらしいけど、と妙に納得してしまいます。
「だからシンク決めてくれ」
「それって、選んだ方と恋人になるってこと?」
「恋人がどんなもんかはよくわかんねーけど、そういうことだ」
「わからないくせに自信たっぷりだな」
「カリムらしいね。いきなり恋人とか言われてもなあ・・・・・・そんなこと考えたことなかったから」
「わかった! 意識してもらえるようにちゃんと思いを伝えるから聞いてほしい!」
やんわり断ろうと思ったシンクでしたが、強い意志のカリムには効果がないようでした。
「オレはシンクにずっと笑っててほしい。幸せにすごしてほしい。だから笑わせるし、あらゆるものからシンクを守る! シンクが誰かのものになるなんて嫌だ」
「カリム・・・・・・誰のものにもならないよ。私なんかと付き合ってもいいことなんてないから」
一応姫ではあるもののそれする物はなく自国への帰り方もわからない今、姫という肩書きは何の役にも立たないのです。
「私なんか、とか言うな。俺も君には笑っててほしいなとは思う。急に決めろと言われても無理だろうからゆっくり考えてほしい。俺ら以外に好きな人がいるならそれでもいい。しっかり答えが聞きたい」
「ジャミルまで・・・・・・」
いつどこに二人が私を好きになるターンなんてあった? シンクは思い返してみてもさっぱり検討がつきませんでした。
もしジャミルを選んだら二人の関係が変わってしまうんじゃないか、かといってそんな理由でカリムを選ぶのは失礼だし、そもそも恋愛感情的に二人のことを好きなのか。あれやこれやと悩みはつきません。
「もしかしてお前のいた国に好きな人いたのか!?」
「姫君なんだから許嫁くらいいたかもしれんな」
「好きな人はいなかったよ。決められた人はいたけど、その人と結婚するのは嫌だったし。異国に飛ばされてちょうどよかった」
結婚は一生のことだからちゃんと愛する人としたい、それがシンクの考えです。
「よかったー」
「カリム、めちゃくちゃ安心してるところ悪いんだけど、だからって今はまだどちらかを選ぶなんて出来ない。ちゃんと答えたいから考えさせてほしい」
「そっか、うん。わかった。デートしよう! 両方とデートすれば考えやすいんじゃないか?」
「え、あ、うん」
カリムによるカリムらしい提案によってシンクは二人とデートをすることになりました。
果たして姫はどちらかを選ぶのでしょうか?
この続きはまた次回。
2022.02.01
羽流さんお誕生日記念(遅刻)
あるところに、王子様とその王子に仕える者のたいへん仲の良い二人がおりました。よくある主君と家来の関係とは少し違っているので見かけは親友そのものです。
そんな二人の元に異国からの迷子のお姫様がやってきます。迷子の姫は別の国で自国に帰る道を探していましたが、見つける前にそこで生きるのが苦しくなってここにやってきたのです。手をさしのべてくれたのは王子でした。
明るい王子の性格もあって三人はすぐに仲良くなりました。そして一緒に姫が帰れる方法を探すのでした。
そんなある日のことです。
「なあ、シンク。オレかジャミルか選んでくれ!」
扉をノックせずいきなり姫であるシンクの部屋に入ってきた王子カリムが、シンクの状況を確認することなく言いました。
「カリムちょっと落ち着け。悪いなシンク」
後ろからやってきた王子と主従関係にあるジャミルが詫びを入れます。
悪い、と言われてもシンクは何がどうなってるのかまだ状況を掴めていません。朝起きて、さあこれから準備をするぞってところだったのでいまいち頭が回っていないのです。
「シンク答えてくれ。オレは早くハッキリさせたいんだ。ジャミルも気になるだろ?」
「気にはなるが大事な話だぞ。もう少し慎重に、」
「ジャミルは慎重すぎるんだ」
「待って」
なにこれどういう状況? と言いたげにシンクは二人の会話を遮ります。
話が進めば進むほど意味がわからなかったからです。
「ねえ、ちゃんと説明してほしい」
「ああそうだな、少し急ぎすぎた。実は――」
事の発端は昨夜。
「どうしようジャミル・・・・・・」
「どうした? そういや今日一日調子が悪そうだったな。体調が良くないなら早く寝ろ」
「いや、そうじゃなくて・・・・・・俺、シンクのこと好きになっちゃったんだ」
「何を今更。前から好きだろう」
「そうなんだけど、そうじゃなくて。前は友達として好き! って感じだったんだけど、多分、恋愛として好きになった」
「え?」
ジャミルは驚きました。カリムにとって恋愛なんて遠い存在で、もしも恋に落ちたところでその感情が何かわからず悩むと思っていたからです。だから答えを出せているカリムに驚き、ずっと一緒にいて何でも察してきたはずなのに悩んでいたのを気づけなかったことにも衝撃を受けたのです。
「それでオレ、思ったんだ。ジャミルもシンクのこと好きだろ?」
「は?」
何を言い出すんだこいつは、とジャミルは顔をしかめる。
「そんな顔するなって。オレわかるんだ!」
「なんでお前に俺の気持ちがわかるんだ」
「ずっと一緒にいるんだから当たり前だろ!」
「そう言われても俺は別にあいつのことをそう思ったことはない」
ないはず、でもそれはただ考えないようにしてただけで実はそうなのかもしれない。なんて考えていたらわからなくなってっきました。
「オレだけ抜け駆けみたいになるのは嫌だからシンクに選んでもらおう!」
「シンクが俺らを好きだとは限らんだろう?」
「好きじゃないと決まったわけでもないだろ! よし、今から」
「ちょっと待て。さすがにこの時間からは非常識だ。明日にしろ」
「わかった。明日一緒にシンクに確認しに行こう」
「・・・・・・てなわけで今に至る」
「なるほど・・・・・・?」
なるほどなのか? とシンクは思いつつもカリムらしいっていえばカリムらしいけど、と妙に納得してしまいます。
「だからシンク決めてくれ」
「それって、選んだ方と恋人になるってこと?」
「恋人がどんなもんかはよくわかんねーけど、そういうことだ」
「わからないくせに自信たっぷりだな」
「カリムらしいね。いきなり恋人とか言われてもなあ・・・・・・そんなこと考えたことなかったから」
「わかった! 意識してもらえるようにちゃんと思いを伝えるから聞いてほしい!」
やんわり断ろうと思ったシンクでしたが、強い意志のカリムには効果がないようでした。
「オレはシンクにずっと笑っててほしい。幸せにすごしてほしい。だから笑わせるし、あらゆるものからシンクを守る! シンクが誰かのものになるなんて嫌だ」
「カリム・・・・・・誰のものにもならないよ。私なんかと付き合ってもいいことなんてないから」
一応姫ではあるもののそれする物はなく自国への帰り方もわからない今、姫という肩書きは何の役にも立たないのです。
「私なんか、とか言うな。俺も君には笑っててほしいなとは思う。急に決めろと言われても無理だろうからゆっくり考えてほしい。俺ら以外に好きな人がいるならそれでもいい。しっかり答えが聞きたい」
「ジャミルまで・・・・・・」
いつどこに二人が私を好きになるターンなんてあった? シンクは思い返してみてもさっぱり検討がつきませんでした。
もしジャミルを選んだら二人の関係が変わってしまうんじゃないか、かといってそんな理由でカリムを選ぶのは失礼だし、そもそも恋愛感情的に二人のことを好きなのか。あれやこれやと悩みはつきません。
「もしかしてお前のいた国に好きな人いたのか!?」
「姫君なんだから許嫁くらいいたかもしれんな」
「好きな人はいなかったよ。決められた人はいたけど、その人と結婚するのは嫌だったし。異国に飛ばされてちょうどよかった」
結婚は一生のことだからちゃんと愛する人としたい、それがシンクの考えです。
「よかったー」
「カリム、めちゃくちゃ安心してるところ悪いんだけど、だからって今はまだどちらかを選ぶなんて出来ない。ちゃんと答えたいから考えさせてほしい」
「そっか、うん。わかった。デートしよう! 両方とデートすれば考えやすいんじゃないか?」
「え、あ、うん」
カリムによるカリムらしい提案によってシンクは二人とデートをすることになりました。
果たして姫はどちらかを選ぶのでしょうか?
この続きはまた次回。
2022.02.01
羽流さんお誕生日記念(遅刻)
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