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一本の片向き矢印


 夜。
「イリヤ大丈夫か?」
 熱で倒れたと聞いて心配で仕方なかったのでイリヤの部屋を訪ねた。
 こんな時間まで来なかったのは白龍がずっと付き添っていたから。
「もう大丈夫」
「そっか。アリババとなんかあったのかよ」
「えっ?」
「いや、なんかあいつ調子変だったから」
「もしかしてアリババに会ったわけ?」
 あ、やべっ。
「あぁまぁ。白龍はよく知ってるけどあいつのこと知らないし……」
「なんで」
「イリヤが心配で」
「意味わかんねえ。アリババは悪いやつじゃない」
 そうだよな。アリババがお前のこと好きだって知らねーもんな。そうなるよな。
「妹が心配なんだよ。だから関わるやつのことは知っておきたいというか」
「お兄ちゃんぶらないで。それから別にアリババとはなんもない」
「いいじゃねーか。それならいいけど」
 絶対なんかあったな。隠してるのわかりやすい。でもイリヤが言いたくないなら深く聞かない。ムカつくけど、白龍といるイリヤは嬉しそうだったし可愛かったから。妹の可愛い姿が見れたんだ我慢してやる。
「風邪引きには優しいんだ」
「俺はいつも優しいんだけど?」
「嘘だ」
 イリヤが笑う。こういう何気ない会話が嬉しくて俺も笑ってしまう。
 兄として妹には幸せになってほしい。多分当然のこと。
「早く寝ろよ」
 ポンと頭に手を置き、そう言って俺は部屋を出た。
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