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一本の片向き矢印


「白龍」
 俺はシンドバッドに呼ばれた白龍と交代するためイリヤの部屋を訪れた。
 もうそんな時間か、と白龍は立ち上がる。
「じゃあね、イリヤ」
 そして眠るイリヤの頭そっと撫でて離れる。
「アリババ殿あとは頼みました」
「わかった」
 白龍はそっと部屋を出て行った。
「嬉しそうな、寝顔」
 そんなイリヤが愛しくて、でも幸せに出来ない自分が苦しくて、複雑だった。
 イリヤを壊してしまいたい。
 自分でもよくわからないけど、イリヤを傷付けたくなる。それは自分のものにならないとわかっているからだろうか。
 でも悲しい思いはさせたくない。幸せでいてほしいんだ。どうすればいい?
 もうどうしていいかわからなくて、気持ちをぶつける場所がほしくて、剣で自分の腕に傷をつけた。
 血が床にポタポタと落ちる。
「ハァハァ……」
 ボーっと赤く染まる腕と床を見つめる。
「……!?」
 ああ、起きてしまった。見られたくなかったのに。
 目を覚ましたイリヤが慌てて血の流れる腕をつかむ。
「なにしてんだ」
「こうするしか自分押さえらんねーんだよ」
 泣きそうでそれを誤魔化すように声を荒げた。上手く自分がコントロールできない。
「俺は、お前が……!」
 好きだと言ってしまえば楽だと思う。でも飲み込んだ。
「なに?」
「なんでもない」
 イリヤは重そうな足取りで包帯取りに行く。
「お前病人だろ寝てろよ」
「いいから。手、貸して」
 血のあふれる傷口に包帯を巻いていった。こういうところは女子だ。
「オレ、病人に何させてんだか」
「寝たら楽になったから大丈夫。薬も効いたみたいだしな。……よし終わり」
 そう言ってほほ笑むイリヤの血のついた手をつかみキスを落とす。
「ありがとう」
 我慢出来なかった。手だし大丈夫。笑って誤魔化してみる。
「え」
 戸惑うイリヤ。やっぱり誤魔化切れないか。
「これで我慢つっーか……忘れてくれ。てか優しくするのは白龍だけにしとけよ」
 オレ、何言ってんだろう。わけがわからない。
「え、あ、アリババ」
「ほんとありがとな」
 全くこの状況を理解出来ないでいるイリヤに一方的に礼を告げ、逃げるように部屋を出た。
 ちゃんと看病してくださいって白龍に怒られるな。イリヤも無茶しすぎだって怒られるんだろうな。あいつ真面目だから。
「くそっ」
 立ち止まり、思いっきり壁を叩く。
 振動で傷が痛んだ。でも胸の締め付けはそれより痛かった。
「どうしたらいいんだよ……」
 言わなきゃ伝わんねーのに、関係壊したくなくて伝えられない。それでいて気付いてほしいと思ってる。臆病なのにワガママだ。

     *

「はぁどうしたら」
 外の風に当たろうと屋上にきたがそう簡単に気分が晴れるわけもなく、ため息をつく。
「テメェらしくねーな」
 聞き覚えのある、そして聞きたくないやつの声がした。
「お前は」
 振り返り、それがジュダルだと確信し腰の剣に手をかける。
「今日は戦いに来たんじゃねーよ」
「じゃあなに」
「……イリヤが好きだって噂耳にしたから見に来たんだよ」
「なっ……! もしかしてお前もイリヤが好きなのか?」
  てかなんでそれ知ってんだよ。俺は誰にも。
「なんでそーなるんだよ」
「じゃあなんで」
 それ以外に理由が思いつかないんですけど。
「友達だから?」
「ふーん。ていうかさ、なんで俺がイリヤを好きだって知ってんだよ」
「お前わかりやす過ぎるんだよ」
「え。はぁ?」
 わかりやすいってどういうこと?
「ははは。おもしれーな」
「笑うな」
「それでこそお前だ。――イリヤを好きでさいてくれてありがとな」
 そう言ってジュダルは消えてった。
 お礼を言われた意味を俺は理解することが出来なかった。
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