一本の片向き矢印
白龍とモルジアナと三人で稽古をしていた。
「おはよう」
そう挨拶をしに行ったらなぜか稽古をする流れになってしまった。
わたしは白龍が好きだった。でも白龍の綺麗な青い瞳に映るのはモルジアナ。
どうして、叶わない恋が存在するのだろうか。
「私は用があるのでこの辺で」
しばらくしてモルジアナはそう言った。
「モルジアナ殿、ありがとうございました」
二人きりにしないでよ……。
「ありがとう」
泣きそうになりながらお礼を告げる。
「こちらこそありがとうございました。白龍さん、イリヤさん」
丁寧にお辞儀をしてモルジアナは部屋を出て行った。
「イリヤ、少し休憩しよう?」
「あ、うん」
白龍は二人きりになると敬語をやめる。その特別が嬉しかったのは白龍の気持ちを知るまで。そのあとはただつらいだけだった。
「……」
あれ、視界がぐらぐらする。ちょっとやりすぎたか……。
「イリヤ!?」
倒れたわたしに白龍が駆け寄る。
「ちょっと、疲れただけだから大丈夫」
「顔赤いし、熱あるんじゃ……よいしょ」
白龍にお姫様抱っこされた。
「軽い……ちゃんと食べてる?」
ばか。
「食べてる」
「なら、いいけど。無理はダメだよ」
「わかってる。というか下して」
「ダメ。部屋まで連れて行く」
白龍はそのままわたしの部屋まで運んだ。
「ちょっと待ってて」
ベッドに寝かし部屋を出ていく。
優しさがつらい。
そして戻って来た白龍が手にしていたのは水の入ったグラスと薬だった。
「これ、飲んで寝たほうがいい。自分で飲める?」
「うん」
起き上がって白龍からそれらを受け取り、苦い薬を水で一気に流し込む。
「苦い」
「仕方ないよ」
白龍が笑う。つられてわたしも笑う。
「あのさ、白龍」
再び横になって名前を呼ぶ。
「ん?」
「寝るまで、手繋いでもらっていいかな……」
二人きりになるのが嫌だったはずなのに、気づいたらそう口にしていた。
何も言わず白龍はわたしの手を握る。
やっぱり優しいね、白龍は。
今日くらい優しさに甘えてもいいよね。きっとあとでつらくなるだけだけど今は幸せがほしい。
わたしに気持ちが向いてないと思うからつらいんだ。だから今だけモルジアナのことは忘れよう。
「ありがとう」
わたしは目を閉じた。