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桜、散る


 とある本丸にいつも一緒で、でも対である双子のような刀剣の神たちがいました。
 そこの主である審神者は二人のことが大好きでした。
 一人は初桜という粟田口のお姉さんです。
 もう一人は一期一振という粟田口のお兄さんです。
 二人はともに自分がきょうだいの一番上だとライバル視しつつも、信頼し合っていました。
 そして、想い合ってもいました。まだお互いそのことに気付いてはいなかったけれど。

 ある日のことでした。
「主、聞いてほしいことがあるのですが……」
 一期が審神者の元にやって来ました。
「今夜、告白しようと思う」
「初桜に?」
 一期は恥ずかしそうに頷きます。
「頑張って応援してるよ」
「ありがとう。今夜話があるとだけ伝えてきます」
「いってらっしゃい」
 大好きな二人がついに結ばれる。審神者は嬉しい気持ちでいっぱいでした。二人にずっと一緒にいてほしくて、二人で当番を組ませたり戦場に向かわせたりしていたのです。
 そんな幸せなときでした。時間遡行軍の動きを感じたのは。
 今、二人を戦場へは行かせたくない。けれど、遠征に行ってる人や帰ってきたばかりの人を除くと行かせられる人は限られている。二人を向かわせなければならない。泣く泣く命令を下しました。
「一期ごめんなさい」
「大丈夫です。これが私たちの使命ですから。あれは夜、帰ってからでも遅くはありません」
「うん、気を付けて」
 二人なら大丈夫。ほかにも仲間はいる。多少怪我はしてもみんないつも無事に帰ってきてくれるじゃない。
 審神者は祈りながら部隊を見送ったのでした。

 しかし帰ってきた彼らの様子はいつもと違っていました。
「え、嘘……初桜……?」
 一期に抱きかかえられた初桜は力が抜けていて少しも動きません。しかしその表情は苦しみではなく、安堵と言ったほうがいいような安らかさです。
「守れなかった」
「何があったの?」
 ちゃんと主として、部隊長の話を聞かなくては……審神者は動揺を抑えて、なるべく冷静に一期へ問いかけます。
「……私がいけなかったのです。目の前にばかり気を取られて背後からのやつに気が付かなかったから、だからこの人が--」
「ごめん、私が行かせたりなんかしたから」
 胸騒ぎがしたのに行かせたことを審神者は後悔しました。
「いや、主は悪くない。悪いのは私です。しかしどうして、攻撃せずにただやられたのでしょうか」
「多分、一期を大切な人を、守りたくて必死だったんじゃないかな」
 ああ、だからこの表情(かお)なんだと審神者は納得したのでした。大切な人を守れて安心したんだ、と。
「っ--ばかだな」
 一期も気付いたようでした。瞳から溢れた涙が静かに頬を伝っていました。

 それから、初桜は弔われました。
「ありがとう、大切な人--今度、あの話の続きを聞いてほしい」
 一期のその言葉で、審神者は絶対二人をまた一緒にしてみせると決意したのでした。


おわり。


(17/9/19)
Privatter
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