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アリババ→イリヤと見せかけたアリババとモブ女の可能性がある
名前は知らない。正確には覚えてない。ただ嫌なことを忘れさせてくれた。
イリヤが白龍と楽しそうに会話をしているのを見た日、俺は現実から逃げるようにお姉さんたちのいる店へ行った。
その店で相手をしてくれたお姉さんと今、同じベッドで寝ている。裸で。もう今日で何度目だろう。
時刻は八時。朝からこんなことを考えている自分に嫌気がさす。いつも朝は現実を連れてくる。せっかく忘れられたのに。
「アリババ?」
「ん?」
モテない俺がこうしているのは夢なんじゃないか。名を呼ばれる度にそう思う。朝が来て夢は覚めたはずなのに夢なんじゃないかって錯覚する。
「次いつ会ってくれる?」
「いつでも」
「前はアリババから求めて来たのにね」
「そうだっけ?」
テキトーに笑って誤魔化す。前は現実から逃げるのに必死だった。必死すぎてよく覚えていない。
「今日は王様と食事会があるって言ったよね?」
「うん」
「そのあと、何時になってもいいからここへ来て。待ってるから」
「わかった」
返事をして起き上がった。今日は夜の食事会以外にもすることがたくさんある。
彼女が起きる様子はない。仕事まで時間があるからまた寝るのだろう。
「……私は愛してるから」
着替えを済まし、部屋を出る俺に彼女は消え入るような声で言った。それに俺は返事をしなかった。
*
あれからも何度も彼女と夜を過ごした。
けれど、俺が彼女を好きになることも、気持ちが楽になることもなかった。むしろどんどん辛くなる一方だった。
どうせ叶わないんだ。さっさとイリヤと白龍が付き合ってくれればいいのに。
彼女といた部屋を後にし、自分の部屋に戻る途中イリヤの部屋が目に入った。
……泣いてる?
扉の隙間から泣いてるイリヤが見えた。
「イリヤ!」
気付いたら俺はイリヤの部屋に入り抱きしめていた。ほっとけなかった。
「アリ、ババ……」
「どうした?」
頭をポンポンと撫でながら訊ねる。
けれどイリヤはなにも答えない。
「大丈夫。俺がいるから」
見てなかったせいで逃げてたせいでなにがあったかわからないのが辛い。
ばかだな。
やっぱりイリヤが好きだ。
もう彼女と会うのは終わりにしよう。
今度は逃げないでずっと見てるから、イリヤを悲しませたりなんかしないから。
もう忘れなくていい。結局忘れられなんかしないんだから。
(13/04/17)
名前は知らない。正確には覚えてない。ただ嫌なことを忘れさせてくれた。
イリヤが白龍と楽しそうに会話をしているのを見た日、俺は現実から逃げるようにお姉さんたちのいる店へ行った。
その店で相手をしてくれたお姉さんと今、同じベッドで寝ている。裸で。もう今日で何度目だろう。
時刻は八時。朝からこんなことを考えている自分に嫌気がさす。いつも朝は現実を連れてくる。せっかく忘れられたのに。
「アリババ?」
「ん?」
モテない俺がこうしているのは夢なんじゃないか。名を呼ばれる度にそう思う。朝が来て夢は覚めたはずなのに夢なんじゃないかって錯覚する。
「次いつ会ってくれる?」
「いつでも」
「前はアリババから求めて来たのにね」
「そうだっけ?」
テキトーに笑って誤魔化す。前は現実から逃げるのに必死だった。必死すぎてよく覚えていない。
「今日は王様と食事会があるって言ったよね?」
「うん」
「そのあと、何時になってもいいからここへ来て。待ってるから」
「わかった」
返事をして起き上がった。今日は夜の食事会以外にもすることがたくさんある。
彼女が起きる様子はない。仕事まで時間があるからまた寝るのだろう。
「……私は愛してるから」
着替えを済まし、部屋を出る俺に彼女は消え入るような声で言った。それに俺は返事をしなかった。
*
あれからも何度も彼女と夜を過ごした。
けれど、俺が彼女を好きになることも、気持ちが楽になることもなかった。むしろどんどん辛くなる一方だった。
どうせ叶わないんだ。さっさとイリヤと白龍が付き合ってくれればいいのに。
彼女といた部屋を後にし、自分の部屋に戻る途中イリヤの部屋が目に入った。
……泣いてる?
扉の隙間から泣いてるイリヤが見えた。
「イリヤ!」
気付いたら俺はイリヤの部屋に入り抱きしめていた。ほっとけなかった。
「アリ、ババ……」
「どうした?」
頭をポンポンと撫でながら訊ねる。
けれどイリヤはなにも答えない。
「大丈夫。俺がいるから」
見てなかったせいで逃げてたせいでなにがあったかわからないのが辛い。
ばかだな。
やっぱりイリヤが好きだ。
もう彼女と会うのは終わりにしよう。
今度は逃げないでずっと見てるから、イリヤを悲しませたりなんかしないから。
もう忘れなくていい。結局忘れられなんかしないんだから。
(13/04/17)