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おとぎのせかい。


 微かに聴こえる曲に耳を傾けながら庭を歩く少女は綺麗なブルーの髪を揺らしている。向かうは大切な場所。
 そこにぽつりと存在する二輪の花は他を寄せ付けないオーラを放っている。
「やっと、私だけのモノが出来た」
 愛情込めてずっと育てていた花が咲いたのだ。
 パープルとピンクの美しい花のそばにしゃがみ込む。
「ずるいなぁ」
 水をやりながら少女は笑う。
「……敵わないよ」
 零れ落ちる雫を拭った。


 奏でられるメロディーはとても心地よい。
 男はバルコニーで外を眺める女に近付いて声をかけた。
「今は踊りたくないかな?」
「いいえ、そんなことないわ。あなたと触れ合えるのだもの」
「そう、それはよかった」
 時の流れ行く速さは変わらないはずなのに、そこにはゆったりとした時間が流れていた。
「では、参りましょう」
 男はそっと女の手を取り、室内へ招き入れた。
 そして踊りだす。
 それは舞っているようにも見えるほど美しく軽やかで目を奪われてしまう。そこは二人だけの空間で、二人にだけ時が流れる。
 ふわりと揺れる髪、その度に香るシャンプーの匂い。
 五感を使っているのに、確かに感じているのに、まるで時間が止まったように二人以外の人たちは動かない。動けないともまた違う動くという概念が消えてしまったかのよう。
 ああもうわけがわからないね。難しい話は終りにしよう。二人が幸せならそれでいいのだから。
「あなたの手、あたたかい」
「君と繋がっているからね」
「ふふふ」
 女は話しかけたと思えば雑談はよろしくないと言わんばかりに小さく笑みをこぼして無言になる。
 男も何も言わない。女をリードしながらただ踊る。時間も忘れて二人は舞い踊る。

 しばらくすると、スーッと音楽は鳴り止んだ。それを合図に二人の足も止まった。秀麗な舞踏は終わったのだ。始めてからどのくらい経ったかはわからない。けれど時間などどうでもいい。
 幸せだったのだから。
 観衆の人々はゆっくりと動き出した。
 しかしまだ余韻で今まで通りには動けない。少女もその一人。
「花と同じね」
 あの花と同じで美しい。あの花と同じで人を寄せ付けない。
「……愛している」
 その呟きは自分への確認。悲しいけれど、つらいけれど少女の気持ちは変わらない。二人が好き。いや、好きの二文字なんかでは表せない。
「お花にお水をあげなくちゃ」
 少女はそっと二人に背を向けた。
「リオ――」
 背後で自分を呼んでいるような気がしたけれど振り返らなかった。


(14/05/29)
Privatter
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