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願い事 ※学パロ
彼女のことを好きだと気付いたのはいつだったか。彼女が他の誰かと話す姿を見て胸の奥がぎゅーと締めつけられた。
「……」
目の前で眠る彼女の髪にそーっと触れる。寝不足から倒れた彼女は今、保健室のベッドで寝ている。
授業をサボってここにいること起きたら彼女は怒るだろうか。何を抱えているのかわからないけど、何かを抱えているのは確かで、寝不足の原因もこれだと思う。話してほしいけどきっと話してくれないんだろうな。
「……んっ」
「イリヤ?」
彼女が目をさました。
「……はくりゅ……ここは?」
まだ半分寝ている彼女が可愛い。
「保健室だよ。まだ寝とかなきゃ」
「いや、大丈夫」
可愛いの一瞬だったな。普段も可愛いけど……って何言ってるんだ。
「大丈夫って……寝不足なんだから。これ以上無理したらもっと大変なことになるよ」
「これくらい……」
起き上がった彼女はふらっと崩れる。
「だから言っただろ」
彼女を支えてゆっくり寝かせる。
「わかったから白龍は授業行け」
やっぱり言われた。
「ちゃんと寝てくださいよイリヤさん」
「なんだよ急に気持悪い」
「余計な考えごととかしないでねってこと」
「……」
ああ、やっぱり何か抱えてる。勘違いなら良かったのに。
「俺には何考えてるかとか、抱えてるかとか、全然わからないから……でも、」
一呼吸。
「それを言ってほしいとかじゃなくて、心配してる人がいるってこと知っててほしい」
「白龍……」
「教室戻る」
自分勝手。逃げるように保健室を出た。
昼休みにご飯届けに来よう。ちゃんと寝ててくれればいいな。きっと今しか寝れないから。家に帰したって大人しくしてるとは思えないし、もしかしたら家庭に何か問題があるかもしれないから。
途中から授業を受ける気にもなれず、どこかでサボろうかと思ったが聞き流せばいいのだと気づいてちゃんと教室に戻った。
「はぁ……」
教科書とノートを開いてみるも、ため息が出る。
全てを受け入れてあげられればいいのだけど、それが出来る自信はない。ダメなやつ。 そんなので彼女を守ることなんて……くそっ。
悔しくて不甲斐なくて、先生の声は頭に入らず抜けていく。聞き流すつもりがなかったとしても聞き流していた。そんな感じで授業は彼女のことを考えているうちに終わっていた。
お昼休み、保健室へ昼ご飯を持っていくと保健の先生に「シーっ」とされた。どうやらちゃんと寝ているようだ。
「あの、これ。彼女が起きたら食べさせてください」
「優しいのね」
「幼馴染ですから」
「そう」
先生はこれ以上何も言わなかった。
ああ、自分だって誰にも言えず抱え込んでいるじゃないか。幼馴染なんて便利な言葉で誤魔化してる。今の関係を壊してしまうのが怖くて結局「好き」と伝えられない臆病者。その言葉は一瞬で世界を変える凶器。
しばらくカーテンの向こうに眠る彼女の方を見て考えていたが、
「失礼しました」
寝ている彼女に何か出来るわけでもない、ただ苦しくなるだけならいない方がいい。そう思って保健室を出た。
そういや、幼馴染で長く一緒にいるのに俺は何にも知らないんだな。
放課後、彼女を迎えにまた保健室へ行った。先生は席を外しているようだ。
「イリヤ」
カーテンを開くと彼女は携帯を見ていた。
「起きてたんだ」
「寝すぎて寝れなくなった」
「足りないくらいなのに」
寝だめは出来ないって言うけど。
「寝れないものは寝れない」
「じゃあ何で教室に荷物取に行かないの?」
「誰かに会うのが面倒だから」
「なるほど。じゃあ代わりに取って来ようか?」
「それはいい。自分で行く」
もう少し頼ってくれればいいのに。ってこんな男じゃ頼りないかな。
「じゃあもう少ししたら教室戻って、帰ろう」
「うん。今日は色々ありがとう」
「俺に出来ることってこれくらいしかないから」
「――白龍だって、何か悩みがあれば話してほしい」
「ありがとう。何かあったら真っ先に相談する」
好きの気持ちに鍵を掛けて何もないと嘘をつく。俺が彼女の変化に気づくように、彼女も俺の変化に気づいているのだろうか。だとしたらこんな簡単な嘘すぐにバレる。
「無理に笑わなくていいよ。今じゃなくていいから、いつか話して」
やっぱりバレてる。
「イリヤも無理はダメだから。話せないなら話さなくていい。でもこんな風に倒れるようなことはもうあってほしくない」
「ごめん」
謝る彼女はいつもの強気とはかけ離れてか弱かった。
イリヤがいなくなるのが怖い。時々彼女はスッとどこかに消えてしまうんじゃないかって、そう思う時がある。
「あら、まだいたの?」
先生が帰って来た。
「誰もいないのはまずいと思って先生待っててあげたのにそれはないです」
彼女がため息をつく。
「ごめん、ごめん。ありがとう。もう帰りなさい」
「イリヤ、教室に鞄取に行こう」
「うん」
二人並んで廊下を歩いた。
今はまだこの普通でいられる幸せを感じていよう。それがいい。知らないことがあった方が幸せを保てるのかもしれない。
ずっと彼女の隣りにいられますように。
(14/01/16)
彼女のことを好きだと気付いたのはいつだったか。彼女が他の誰かと話す姿を見て胸の奥がぎゅーと締めつけられた。
「……」
目の前で眠る彼女の髪にそーっと触れる。寝不足から倒れた彼女は今、保健室のベッドで寝ている。
授業をサボってここにいること起きたら彼女は怒るだろうか。何を抱えているのかわからないけど、何かを抱えているのは確かで、寝不足の原因もこれだと思う。話してほしいけどきっと話してくれないんだろうな。
「……んっ」
「イリヤ?」
彼女が目をさました。
「……はくりゅ……ここは?」
まだ半分寝ている彼女が可愛い。
「保健室だよ。まだ寝とかなきゃ」
「いや、大丈夫」
可愛いの一瞬だったな。普段も可愛いけど……って何言ってるんだ。
「大丈夫って……寝不足なんだから。これ以上無理したらもっと大変なことになるよ」
「これくらい……」
起き上がった彼女はふらっと崩れる。
「だから言っただろ」
彼女を支えてゆっくり寝かせる。
「わかったから白龍は授業行け」
やっぱり言われた。
「ちゃんと寝てくださいよイリヤさん」
「なんだよ急に気持悪い」
「余計な考えごととかしないでねってこと」
「……」
ああ、やっぱり何か抱えてる。勘違いなら良かったのに。
「俺には何考えてるかとか、抱えてるかとか、全然わからないから……でも、」
一呼吸。
「それを言ってほしいとかじゃなくて、心配してる人がいるってこと知っててほしい」
「白龍……」
「教室戻る」
自分勝手。逃げるように保健室を出た。
昼休みにご飯届けに来よう。ちゃんと寝ててくれればいいな。きっと今しか寝れないから。家に帰したって大人しくしてるとは思えないし、もしかしたら家庭に何か問題があるかもしれないから。
途中から授業を受ける気にもなれず、どこかでサボろうかと思ったが聞き流せばいいのだと気づいてちゃんと教室に戻った。
「はぁ……」
教科書とノートを開いてみるも、ため息が出る。
全てを受け入れてあげられればいいのだけど、それが出来る自信はない。ダメなやつ。 そんなので彼女を守ることなんて……くそっ。
悔しくて不甲斐なくて、先生の声は頭に入らず抜けていく。聞き流すつもりがなかったとしても聞き流していた。そんな感じで授業は彼女のことを考えているうちに終わっていた。
お昼休み、保健室へ昼ご飯を持っていくと保健の先生に「シーっ」とされた。どうやらちゃんと寝ているようだ。
「あの、これ。彼女が起きたら食べさせてください」
「優しいのね」
「幼馴染ですから」
「そう」
先生はこれ以上何も言わなかった。
ああ、自分だって誰にも言えず抱え込んでいるじゃないか。幼馴染なんて便利な言葉で誤魔化してる。今の関係を壊してしまうのが怖くて結局「好き」と伝えられない臆病者。その言葉は一瞬で世界を変える凶器。
しばらくカーテンの向こうに眠る彼女の方を見て考えていたが、
「失礼しました」
寝ている彼女に何か出来るわけでもない、ただ苦しくなるだけならいない方がいい。そう思って保健室を出た。
そういや、幼馴染で長く一緒にいるのに俺は何にも知らないんだな。
放課後、彼女を迎えにまた保健室へ行った。先生は席を外しているようだ。
「イリヤ」
カーテンを開くと彼女は携帯を見ていた。
「起きてたんだ」
「寝すぎて寝れなくなった」
「足りないくらいなのに」
寝だめは出来ないって言うけど。
「寝れないものは寝れない」
「じゃあ何で教室に荷物取に行かないの?」
「誰かに会うのが面倒だから」
「なるほど。じゃあ代わりに取って来ようか?」
「それはいい。自分で行く」
もう少し頼ってくれればいいのに。ってこんな男じゃ頼りないかな。
「じゃあもう少ししたら教室戻って、帰ろう」
「うん。今日は色々ありがとう」
「俺に出来ることってこれくらいしかないから」
「――白龍だって、何か悩みがあれば話してほしい」
「ありがとう。何かあったら真っ先に相談する」
好きの気持ちに鍵を掛けて何もないと嘘をつく。俺が彼女の変化に気づくように、彼女も俺の変化に気づいているのだろうか。だとしたらこんな簡単な嘘すぐにバレる。
「無理に笑わなくていいよ。今じゃなくていいから、いつか話して」
やっぱりバレてる。
「イリヤも無理はダメだから。話せないなら話さなくていい。でもこんな風に倒れるようなことはもうあってほしくない」
「ごめん」
謝る彼女はいつもの強気とはかけ離れてか弱かった。
イリヤがいなくなるのが怖い。時々彼女はスッとどこかに消えてしまうんじゃないかって、そう思う時がある。
「あら、まだいたの?」
先生が帰って来た。
「誰もいないのはまずいと思って先生待っててあげたのにそれはないです」
彼女がため息をつく。
「ごめん、ごめん。ありがとう。もう帰りなさい」
「イリヤ、教室に鞄取に行こう」
「うん」
二人並んで廊下を歩いた。
今はまだこの普通でいられる幸せを感じていよう。それがいい。知らないことがあった方が幸せを保てるのかもしれない。
ずっと彼女の隣りにいられますように。
(14/01/16)