tkrb
2人だけの秘密
大好きなあの人を捜して辿り着いた場所は、火薬と血のにおいが混じる戦場だった。
ツンとした臭いが鼻に刺さると吐きそうになる。腐った場所はいつだって嫌いだ。
もし、あの人がこの場所にいたら、あの人も誰かを殺していることになるのだろうか。
*
「いち兄ッ!」
「ーーっ。薬研」
一瞬、驚いたような表情を見せたものの、すぐに穏やかないつものいち兄の顔に戻っていた。
「いち兄、どうして」
「それはこちらのセリフです。どうしてこんなところにいるんです?」
「いち兄を捜してたからに決まってるだろ。何やってるんだよ」
「仕事、だよ」
そう言って笑ういち兄の身体に付いた赤黒いシミ。
ああ、やっぱり誰かを殺したんだ。
「オレも手伝う。仕事って」
「気持ちは嬉しいけど手伝いは必要ないし、もう帰りなさい。私の無事は確認出来たでしょう?」
「オレだって人ぐらい殺せる」
つい声を荒げてしまった。
「だとしても、薬研は殺めるべきではない」
「いち兄ばかりにさせられるかよ」
「かわいい弟が傷つくところは見たくありませんから」
「オレは負けない」
オレだって、日々の鍛錬で強くなった、つもりだ。そりゃいち兄に比べたらまだまだかもしれないけど。
「弟たちが心配するでしょう?」
「それはいち兄も一緒だ」
弟たちはいち兄を待ってる。それは昔も今も変わらないしすごく心配もしている。
「だといいのですが。さ、早くお帰りなさい。その移ってしまった血と火薬のにおいはちゃんと落とすのですよ。あと弟たちをよろしく頼みます」
「ちょっと待てよ」
なんだよ一方的に。胸がざわざわした。もう会えないようなそんな気がした。なのに、
「まだ仕事があるから、じゃあね」
そう爽やかな笑みを向けるいち兄に何も言えなかった。引き止めたいのに声が出なくて、遠くなっていく姿をただ見つめることしか出来なかった。
*
あれからしばらくしたある日のこと。
「ただいま」
「ーーッ」
目の前に現れたその人は、紛れも無いあの人だった。
「どうしてそんなに驚いているの?」
「いや、だって」
一期一振は復讐に呑まれて死んだって噂が……いや、信じてたわけじゃないけど。けど、あれからずいぶんと時間がたったし、その間何もなかったし……。言葉にならない想いはあふれて止まらない。
「弟たちは?」
「……寝てる」
「そう」
「……着替えたら?血がすごいよ」
ああ、人を殺して来たんだな。あの時よりたくさんの人を。
「ああそうだね。においはお守り……じゃなかった、この匂い袋を擦り付けて消せたかなって思うんだけどね。薬研がくれた匂い袋はなかなか優秀で助かったよ」
「ッ!?」
え、オレがあげた匂い袋をお守り代わりに……?
言い直したけれど、たしかにお守りと言った。混乱して上手く理解が出来ない。今、目の前にいるだけで奇跡だというのにこの人はなんという爆弾を落としてくるのだろう。
「これしっかり洗濯すればとれるかな。身体も洗いたいけどみんなを起こしたらまずいから明日かな」
「……やってみる。怪我はない?」
「ああ、返り血だけだよ」
「……ならよかった」
ーー本当によかった。
「死んだかと思った?」
「笑いごとじゃない!めちゃくちゃ心配したんだぞ!」
「すまない。お前じゃないけど、私は負けないし、だから死なないよ」
「--」
「ずっと薬研のそばにいる。もう仕事は終わったから。心配かけてすまなかった」
頭を優しくなでられて、ぶわっとあふれた涙は止まらなくて、何も言えなかった。その代わり力一杯抱きついた。
(17/6/19)
大好きなあの人を捜して辿り着いた場所は、火薬と血のにおいが混じる戦場だった。
ツンとした臭いが鼻に刺さると吐きそうになる。腐った場所はいつだって嫌いだ。
もし、あの人がこの場所にいたら、あの人も誰かを殺していることになるのだろうか。
*
「いち兄ッ!」
「ーーっ。薬研」
一瞬、驚いたような表情を見せたものの、すぐに穏やかないつものいち兄の顔に戻っていた。
「いち兄、どうして」
「それはこちらのセリフです。どうしてこんなところにいるんです?」
「いち兄を捜してたからに決まってるだろ。何やってるんだよ」
「仕事、だよ」
そう言って笑ういち兄の身体に付いた赤黒いシミ。
ああ、やっぱり誰かを殺したんだ。
「オレも手伝う。仕事って」
「気持ちは嬉しいけど手伝いは必要ないし、もう帰りなさい。私の無事は確認出来たでしょう?」
「オレだって人ぐらい殺せる」
つい声を荒げてしまった。
「だとしても、薬研は殺めるべきではない」
「いち兄ばかりにさせられるかよ」
「かわいい弟が傷つくところは見たくありませんから」
「オレは負けない」
オレだって、日々の鍛錬で強くなった、つもりだ。そりゃいち兄に比べたらまだまだかもしれないけど。
「弟たちが心配するでしょう?」
「それはいち兄も一緒だ」
弟たちはいち兄を待ってる。それは昔も今も変わらないしすごく心配もしている。
「だといいのですが。さ、早くお帰りなさい。その移ってしまった血と火薬のにおいはちゃんと落とすのですよ。あと弟たちをよろしく頼みます」
「ちょっと待てよ」
なんだよ一方的に。胸がざわざわした。もう会えないようなそんな気がした。なのに、
「まだ仕事があるから、じゃあね」
そう爽やかな笑みを向けるいち兄に何も言えなかった。引き止めたいのに声が出なくて、遠くなっていく姿をただ見つめることしか出来なかった。
*
あれからしばらくしたある日のこと。
「ただいま」
「ーーッ」
目の前に現れたその人は、紛れも無いあの人だった。
「どうしてそんなに驚いているの?」
「いや、だって」
一期一振は復讐に呑まれて死んだって噂が……いや、信じてたわけじゃないけど。けど、あれからずいぶんと時間がたったし、その間何もなかったし……。言葉にならない想いはあふれて止まらない。
「弟たちは?」
「……寝てる」
「そう」
「……着替えたら?血がすごいよ」
ああ、人を殺して来たんだな。あの時よりたくさんの人を。
「ああそうだね。においはお守り……じゃなかった、この匂い袋を擦り付けて消せたかなって思うんだけどね。薬研がくれた匂い袋はなかなか優秀で助かったよ」
「ッ!?」
え、オレがあげた匂い袋をお守り代わりに……?
言い直したけれど、たしかにお守りと言った。混乱して上手く理解が出来ない。今、目の前にいるだけで奇跡だというのにこの人はなんという爆弾を落としてくるのだろう。
「これしっかり洗濯すればとれるかな。身体も洗いたいけどみんなを起こしたらまずいから明日かな」
「……やってみる。怪我はない?」
「ああ、返り血だけだよ」
「……ならよかった」
ーー本当によかった。
「死んだかと思った?」
「笑いごとじゃない!めちゃくちゃ心配したんだぞ!」
「すまない。お前じゃないけど、私は負けないし、だから死なないよ」
「--」
「ずっと薬研のそばにいる。もう仕事は終わったから。心配かけてすまなかった」
頭を優しくなでられて、ぶわっとあふれた涙は止まらなくて、何も言えなかった。その代わり力一杯抱きついた。
(17/6/19)