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夢のはなしをしよう
「Good afternoon、お姫様」
魔法使いさんはそう言って私に手を差し出した。
「ちょっと待て、抜け駆けはよくないぞ。さあ姫君、俺の手を取ってくれ」
それを阻止して手を差し出したのは隣の国の王子様。二人ともいつもこう。
「二人とも喧嘩はよして?」
だから私もいつも片手ずつ二人の手を取る。
「姫様は優しいネ。今日こそボクだけを選んでくれると思ったんだけド」
「何を言っているインチキ魔法使い。手を取ったとしてそれは差し出されたからであってお前を選んだんじゃないと思うが」
「それはただの都合の良い解釈ダ。それにボクはちゃんとした魔法使いなんだけド?」
「選ばれなかったからってみっともないぞ、エセ」
ああまた始まった。せっかく二人の手を取ったのに喧嘩は収まるどのろかヒートアップ。
「私はどっちも選んだの。選ばなかったわけじゃないわ」
「すまん、王子として凛としていなければならないな。姫君の隣にいて相応しい男になるよ」
「どうしても熱くなっちゃうんダ。姫様が好きだからネ」
そうなの、二人は私のことが好きなの。私も二人のことが好きだから選ぶなんて出来ない。どうして一人を選ばなくちゃいけないの? どうして大切な人が傷付くと分かっているのにそれをしなくちゃいけないの? 悲しむ顔なんて見たくない。そんなこと出来ないよ。だからといって、二人を選び続ける行為が良いとも思ってない。いつか私は誰かを選ばなくちゃいけない。
だって、この国のお姫様だから。
*
出会いは偶然だった。
「わあ、綺麗。香水かしら」
お買い物途中、たまたま通りかかったお店のショーウィンドウに飾られた色とりどりの液体の入った瓶たちに目を引かれた。
「イラッシャイマセ。まほうを体験してみませんカ?」
しばらく眺めていたらお店の人に声をかけられた。その人が魔法使い夏目くん。
「魔法……体験?」
魔法といえば本の中の世界の話。夢みたいでちょっとわくわくした。
「騙されたと思って中へどうゾ」
導かれるままお店の中に入った。
中は宝石みたいにキラキラと煌めいていた。
「これってなんなんですか?」
気になっていた瓶を指差す。
「香水(まほう)の詰まった瓶だヨ」
「まほう……あの、」
「もしかしてボクが何者か気になってル? ボクはただの『魔法使い』だヨ」
さも当たり前のように答えるのは本当に魔法使いさんだからなのだろうか。信じられないけれど、否定しようとは思わなかった。
「ためしにどれかつけてみル?」
「じゃあこれで」
目の前にいる自称魔法使いさんのカラーをした液体の入った瓶を選んだ。
「じゃあ少し目をつぶっテ」
言われた通り目を瞑ると、何かに包まれた感じがしてそれからふわっと甘い香りがした。
「さあ目を開けテ」
目を開けると目の前には姿見。
そこに映る自分の姿がいつもと違って見えた。
「びっくりしタ? 女の子をかわいくする恋の香水(まほう)だヨ」
「すごい……!」
魔法って本当にあるのね。
「誰か好きな人はいル?」
「いえ……」
「じゃあボクにもチャンスあるかナ?」
「えっと、」
これは遊ばれているの? それとも……初対面なんだからまさかね。
「どウ? 気に入ってくれタ?」
「ええ、とっても」
戸惑う私をよそに平然と伺ってくるので、心中がバレないように答えた。
「よかったらまた来てネ」
「はい、もちろん」
そうして店を出たとき、「こんなところにいたのか姫君!」と声をかけられた。
「この人は一体……?」
「知りません」
初対面なのだからこっちが聞きたい。というわけでこのときは知らなかったんだけど、彼が王子様北斗くん。
「挨拶もせずすまなかった。星ノ国の王子だ。諸事情でしばらくこの国にいることになった。姫君とも仲良くするように言われていて探しに来たんだ」
「君、お姫様だったんだネ。通りでかわいいわけだ」
「貴様、姫君を狙うつもりか」
「変な言い方しないでくれるかナ」
「俺と行こう。危ないやつからは俺が守るから」
言い争いが始まったかと思った矢先、半ば無理矢理に北斗くんに引っ張られる形でこの日は夏目くんとわかれることとなった。ここが夏目くんと北斗くんの出会いでもあった。
*
「今日は邪魔者なしに話せル」
「北斗くん王子としての職務があるとかなんとかって言っていたものね」
今日はめずらしく夏目くんと二人きり。夏目くんのお店に来ている。
「そういえば初めて会ったのここだったね」
「そうだネ。可愛らしい子が眺めてくれているのが見えて思わず声をかけたんダ。まさかお姫様だったとはネ」
「一人でいる時は普通の女の子でいたいから。よく一人で街に行くの怒られちゃうんだけどね。私の身分を知るとよそよそしくなる人が多いから、それでも仲良くしてくれるの嬉しいと思っているの。ありがとう」
「だったらそろそろボクと付き合ってくれてもいいと思うんだけどネ? キミを一人にするという不安も解消出来るしネ」
すっとそういうドキドキすることを言ってくる。ずるいよ。
「からかわないで」
「ボクは本気だヨ。あの日、恋のまほうをかけたのだって意味があったんだかラ」
「もう、やめてよ」
「からかってないことを信じてもらえたらいいなってことでキミにプレゼントがあるヨ」
見せられたのは小さな小瓶のネックレス。
「かわいい!」
「ここに好きな香水(まほう)を詰めてあげるヨ」
「いいの? そうだなあ、気持ちが晴れやかにのる香水がいいな」
「了解しタ。いつでもボクが悲しみから救ってあげられると思うと嬉しいネ」
入れてもらったのは黄色い香水。それは柑橘系のさわやかな匂いのあとにお日さまの心が暖かくなるような落ち着く匂いがした。
「気に入ってもらえタ?」
「ええ、とっても。ありがとう夏目くん」
「どういたしましテ。ついでにとびっきりの魔法もかけておくネ。愛しているよ、お姫様」
*
「身体は冷やしてないか」
「大丈夫だよ」
お天気が良いから北斗くんと二人お庭で読書会をすることにしたんだけど、少し風が冷たい。
「今日は外ではなく室内にするべきだったな。せめてこれを掛けておくといい」
「ありがとう。優しいね」
「口うるさいおばあちゃんみたいだと言われた」
「それって夏目くんに?」
それってちょっとわかるかも。北斗くんといるとなんとなく落ち着くし。
「ああ。なんであんな胡散臭い喋り方をするやつに言われなきゃいけないんだ。あんなのに騙されるなよ」
「夏目くんはそんな人じゃないって北斗くんだってわかっているでしょ? でもちゃんと悪い人には騙されないように気をつけるね」
「どこまでも優しいな。そんなところが俺は好きだ」
この人もさらっと爆弾を落としてくるから心臓に悪い。
「……ありがとう」
「いや、全部、どんなところも全部ひっくるめて姫君が好きだ」
「やめてよ、恥ずかしい」
体温が上がっていくのがわかる。きっと顔も赤くなっているはずと手にしていた本に顔を埋める。
「あ、読書の邪魔をしてすまなかった」
「うん……」
ちらっと北斗くんを見ると、北斗くんも自分で言っておいて恥ずかしいようで、顔が赤くなっていた。
あとで恥ずかしくなるのにどうして想いをまっすぐ伝えられるのだろう。ちょっぴりうらやましい。
なんてことを考えながら読書を再開した。
はずだったんだけどいつのまにか眠っていたみたい。気付いたらベッドの上にいた。
「ふふ、目が覚めたか」
「運んでくれたの?」
「ああ、外だと風邪を引きそうだからな」
「え、ということは寝顔見られていたの……恥ずかしい」
「何も恥ずかしがることはない。かわいかったぞ。そんなおまえにプレゼントだ」
ひざまずいた北斗くんに差し出されたのは花束。
「俺と結婚してくれませんか?」
*
夏目くんからの愛にも北斗くんからのプロポーズにも応えられないまま時は過ぎた。
「お前に大事な話がある」
そう言ってお父様に呼び出された。
「お父様、話って?」
「そろそろ結婚してもらいたいと思っている」
「結婚……」
立場上未婚のままいられるわけがないのはわかっている。わかっているけど今はまだ、誰かを選ぶことが出来ない。
「星ノ国の王子との結婚をと思っていたが紹介してくれる素振りもないし、相変わらず魔法使いだとかいう怪しいのとの付き合いもあるみたいだからな」
「夏目くんは良い人よ?」
「王子との結婚が嫌なら別の人でも構わない。だからとりあえずお見合いをしてもらうことにした」
「ちょっとそんな急に」
お見合いなんて無理。
「私も色々考えたんだ。会うだけでいい」
「でも会ってしまったら……」
会ってしまったらそのまま結婚が決まっちゃうかもしれない。
「もう明日だ。断ることは出来ない。それに会ってみなければわからないだろう」
「明日!?」
たしかに会ってみなきゃその人がどんな人かなんてわからない。けどその人が良い人であったとしても私がどちらも選ばないなんてそんなこと考えられない。どうしたらいいのよ……。
*
「はじめまして、お嬢さん」
「はじめまして…」
ついにお見合いが始まった。彼は英智さんといって名家の御曹司だとか。彼の希望で両親を抜いて二人きり。
「やっと僕と会ってくれる気になったんだね嬉しいよ」
「やっと?」
「あれ?僕の気持ちは伝わってなかったのか。残念だな……僕がもっと強ければ自ら会いに行ったんだけど、止められてしまっていたからね」
優雅に紅茶を啜る。
「ほら君も美味しい紅茶が冷めないうちに」
「……おいしい」
「口に合うようでよかったよ。香水の香りもいいけど、ハーブの香りも素敵だろう?」
「まあ」
どうやら彼は夏目くんのことを知っているみたい。
「ハーブは人を癒すだけじゃなく眠らせたり殺したりもできるんだ」
「怖いこと言わないで下さい」
「君のことは傷つけないから安心して」
なんて優しく笑うけれど、その笑みが怖い。
「ところであの二人にはもったいないと思うんだけど、君はあの二人のどこが好きなの?」
北斗くんのことも知っているのね。
「どこって言われると難しいんだけど、好きだと言われたらドキドキするし私も好きだなって思うの」
「答えになってないね。それはつまり全部好きってことかな。悔しいなあ」
「英智さんはどうして私とお見合いなんか」
「好きになっちゃったからね、死んでしまう前に愛する人と結ばれたいなって思ってさ」
「えっ」
告白よりも死んでしまうという言葉にひっかかった。体が弱いとは聞いていたけれどそんなに重病なのだろうか。
「ふふふ、冗談だよ」
「心配していたのに」
待って冗談なのは告白? 重病? わからない。この人は一体どうしたいんだろう。
「ごめん、ごめん。本当に気に入っちゃたから、まだ死にたくないと思っているしまた会ってくれる?」
「いやです」
「少しは悩んで欲しかったな。あの二人に愛想尽きたらいつでも僕のところに来てくれて構わないよ」
彼の計らいでこのお見合いの結果を出すのは保留になった。
*
「Good morning、ボクの愛しいお姫様」
「おはよう、俺のかわいい姫君」
「二人ともおはよう!」
お父様、お母様、ごめんなさい。
もう少しだけ待って。私はまだどちらかなんて選べないし、どちらも選ばないなんて悲しくて苦しいこと出来ないわ。
「仕事はいいのか魔法使いさん」
「そっちこそ王子様なんだからフラフラとうつつを抜かしていていいの?」
「もー二人ともそんな言い方しないで仲良くしよう?」
夏目くんも、北斗くんも気持ちに応えきれない優柔不断な私を許して。
まだもう少しだけ、三人でいれる幸せを感じていたいの。
(19/02/20)
「Good afternoon、お姫様」
魔法使いさんはそう言って私に手を差し出した。
「ちょっと待て、抜け駆けはよくないぞ。さあ姫君、俺の手を取ってくれ」
それを阻止して手を差し出したのは隣の国の王子様。二人ともいつもこう。
「二人とも喧嘩はよして?」
だから私もいつも片手ずつ二人の手を取る。
「姫様は優しいネ。今日こそボクだけを選んでくれると思ったんだけド」
「何を言っているインチキ魔法使い。手を取ったとしてそれは差し出されたからであってお前を選んだんじゃないと思うが」
「それはただの都合の良い解釈ダ。それにボクはちゃんとした魔法使いなんだけド?」
「選ばれなかったからってみっともないぞ、エセ」
ああまた始まった。せっかく二人の手を取ったのに喧嘩は収まるどのろかヒートアップ。
「私はどっちも選んだの。選ばなかったわけじゃないわ」
「すまん、王子として凛としていなければならないな。姫君の隣にいて相応しい男になるよ」
「どうしても熱くなっちゃうんダ。姫様が好きだからネ」
そうなの、二人は私のことが好きなの。私も二人のことが好きだから選ぶなんて出来ない。どうして一人を選ばなくちゃいけないの? どうして大切な人が傷付くと分かっているのにそれをしなくちゃいけないの? 悲しむ顔なんて見たくない。そんなこと出来ないよ。だからといって、二人を選び続ける行為が良いとも思ってない。いつか私は誰かを選ばなくちゃいけない。
だって、この国のお姫様だから。
*
出会いは偶然だった。
「わあ、綺麗。香水かしら」
お買い物途中、たまたま通りかかったお店のショーウィンドウに飾られた色とりどりの液体の入った瓶たちに目を引かれた。
「イラッシャイマセ。まほうを体験してみませんカ?」
しばらく眺めていたらお店の人に声をかけられた。その人が魔法使い夏目くん。
「魔法……体験?」
魔法といえば本の中の世界の話。夢みたいでちょっとわくわくした。
「騙されたと思って中へどうゾ」
導かれるままお店の中に入った。
中は宝石みたいにキラキラと煌めいていた。
「これってなんなんですか?」
気になっていた瓶を指差す。
「香水(まほう)の詰まった瓶だヨ」
「まほう……あの、」
「もしかしてボクが何者か気になってル? ボクはただの『魔法使い』だヨ」
さも当たり前のように答えるのは本当に魔法使いさんだからなのだろうか。信じられないけれど、否定しようとは思わなかった。
「ためしにどれかつけてみル?」
「じゃあこれで」
目の前にいる自称魔法使いさんのカラーをした液体の入った瓶を選んだ。
「じゃあ少し目をつぶっテ」
言われた通り目を瞑ると、何かに包まれた感じがしてそれからふわっと甘い香りがした。
「さあ目を開けテ」
目を開けると目の前には姿見。
そこに映る自分の姿がいつもと違って見えた。
「びっくりしタ? 女の子をかわいくする恋の香水(まほう)だヨ」
「すごい……!」
魔法って本当にあるのね。
「誰か好きな人はいル?」
「いえ……」
「じゃあボクにもチャンスあるかナ?」
「えっと、」
これは遊ばれているの? それとも……初対面なんだからまさかね。
「どウ? 気に入ってくれタ?」
「ええ、とっても」
戸惑う私をよそに平然と伺ってくるので、心中がバレないように答えた。
「よかったらまた来てネ」
「はい、もちろん」
そうして店を出たとき、「こんなところにいたのか姫君!」と声をかけられた。
「この人は一体……?」
「知りません」
初対面なのだからこっちが聞きたい。というわけでこのときは知らなかったんだけど、彼が王子様北斗くん。
「挨拶もせずすまなかった。星ノ国の王子だ。諸事情でしばらくこの国にいることになった。姫君とも仲良くするように言われていて探しに来たんだ」
「君、お姫様だったんだネ。通りでかわいいわけだ」
「貴様、姫君を狙うつもりか」
「変な言い方しないでくれるかナ」
「俺と行こう。危ないやつからは俺が守るから」
言い争いが始まったかと思った矢先、半ば無理矢理に北斗くんに引っ張られる形でこの日は夏目くんとわかれることとなった。ここが夏目くんと北斗くんの出会いでもあった。
*
「今日は邪魔者なしに話せル」
「北斗くん王子としての職務があるとかなんとかって言っていたものね」
今日はめずらしく夏目くんと二人きり。夏目くんのお店に来ている。
「そういえば初めて会ったのここだったね」
「そうだネ。可愛らしい子が眺めてくれているのが見えて思わず声をかけたんダ。まさかお姫様だったとはネ」
「一人でいる時は普通の女の子でいたいから。よく一人で街に行くの怒られちゃうんだけどね。私の身分を知るとよそよそしくなる人が多いから、それでも仲良くしてくれるの嬉しいと思っているの。ありがとう」
「だったらそろそろボクと付き合ってくれてもいいと思うんだけどネ? キミを一人にするという不安も解消出来るしネ」
すっとそういうドキドキすることを言ってくる。ずるいよ。
「からかわないで」
「ボクは本気だヨ。あの日、恋のまほうをかけたのだって意味があったんだかラ」
「もう、やめてよ」
「からかってないことを信じてもらえたらいいなってことでキミにプレゼントがあるヨ」
見せられたのは小さな小瓶のネックレス。
「かわいい!」
「ここに好きな香水(まほう)を詰めてあげるヨ」
「いいの? そうだなあ、気持ちが晴れやかにのる香水がいいな」
「了解しタ。いつでもボクが悲しみから救ってあげられると思うと嬉しいネ」
入れてもらったのは黄色い香水。それは柑橘系のさわやかな匂いのあとにお日さまの心が暖かくなるような落ち着く匂いがした。
「気に入ってもらえタ?」
「ええ、とっても。ありがとう夏目くん」
「どういたしましテ。ついでにとびっきりの魔法もかけておくネ。愛しているよ、お姫様」
*
「身体は冷やしてないか」
「大丈夫だよ」
お天気が良いから北斗くんと二人お庭で読書会をすることにしたんだけど、少し風が冷たい。
「今日は外ではなく室内にするべきだったな。せめてこれを掛けておくといい」
「ありがとう。優しいね」
「口うるさいおばあちゃんみたいだと言われた」
「それって夏目くんに?」
それってちょっとわかるかも。北斗くんといるとなんとなく落ち着くし。
「ああ。なんであんな胡散臭い喋り方をするやつに言われなきゃいけないんだ。あんなのに騙されるなよ」
「夏目くんはそんな人じゃないって北斗くんだってわかっているでしょ? でもちゃんと悪い人には騙されないように気をつけるね」
「どこまでも優しいな。そんなところが俺は好きだ」
この人もさらっと爆弾を落としてくるから心臓に悪い。
「……ありがとう」
「いや、全部、どんなところも全部ひっくるめて姫君が好きだ」
「やめてよ、恥ずかしい」
体温が上がっていくのがわかる。きっと顔も赤くなっているはずと手にしていた本に顔を埋める。
「あ、読書の邪魔をしてすまなかった」
「うん……」
ちらっと北斗くんを見ると、北斗くんも自分で言っておいて恥ずかしいようで、顔が赤くなっていた。
あとで恥ずかしくなるのにどうして想いをまっすぐ伝えられるのだろう。ちょっぴりうらやましい。
なんてことを考えながら読書を再開した。
はずだったんだけどいつのまにか眠っていたみたい。気付いたらベッドの上にいた。
「ふふ、目が覚めたか」
「運んでくれたの?」
「ああ、外だと風邪を引きそうだからな」
「え、ということは寝顔見られていたの……恥ずかしい」
「何も恥ずかしがることはない。かわいかったぞ。そんなおまえにプレゼントだ」
ひざまずいた北斗くんに差し出されたのは花束。
「俺と結婚してくれませんか?」
*
夏目くんからの愛にも北斗くんからのプロポーズにも応えられないまま時は過ぎた。
「お前に大事な話がある」
そう言ってお父様に呼び出された。
「お父様、話って?」
「そろそろ結婚してもらいたいと思っている」
「結婚……」
立場上未婚のままいられるわけがないのはわかっている。わかっているけど今はまだ、誰かを選ぶことが出来ない。
「星ノ国の王子との結婚をと思っていたが紹介してくれる素振りもないし、相変わらず魔法使いだとかいう怪しいのとの付き合いもあるみたいだからな」
「夏目くんは良い人よ?」
「王子との結婚が嫌なら別の人でも構わない。だからとりあえずお見合いをしてもらうことにした」
「ちょっとそんな急に」
お見合いなんて無理。
「私も色々考えたんだ。会うだけでいい」
「でも会ってしまったら……」
会ってしまったらそのまま結婚が決まっちゃうかもしれない。
「もう明日だ。断ることは出来ない。それに会ってみなければわからないだろう」
「明日!?」
たしかに会ってみなきゃその人がどんな人かなんてわからない。けどその人が良い人であったとしても私がどちらも選ばないなんてそんなこと考えられない。どうしたらいいのよ……。
*
「はじめまして、お嬢さん」
「はじめまして…」
ついにお見合いが始まった。彼は英智さんといって名家の御曹司だとか。彼の希望で両親を抜いて二人きり。
「やっと僕と会ってくれる気になったんだね嬉しいよ」
「やっと?」
「あれ?僕の気持ちは伝わってなかったのか。残念だな……僕がもっと強ければ自ら会いに行ったんだけど、止められてしまっていたからね」
優雅に紅茶を啜る。
「ほら君も美味しい紅茶が冷めないうちに」
「……おいしい」
「口に合うようでよかったよ。香水の香りもいいけど、ハーブの香りも素敵だろう?」
「まあ」
どうやら彼は夏目くんのことを知っているみたい。
「ハーブは人を癒すだけじゃなく眠らせたり殺したりもできるんだ」
「怖いこと言わないで下さい」
「君のことは傷つけないから安心して」
なんて優しく笑うけれど、その笑みが怖い。
「ところであの二人にはもったいないと思うんだけど、君はあの二人のどこが好きなの?」
北斗くんのことも知っているのね。
「どこって言われると難しいんだけど、好きだと言われたらドキドキするし私も好きだなって思うの」
「答えになってないね。それはつまり全部好きってことかな。悔しいなあ」
「英智さんはどうして私とお見合いなんか」
「好きになっちゃったからね、死んでしまう前に愛する人と結ばれたいなって思ってさ」
「えっ」
告白よりも死んでしまうという言葉にひっかかった。体が弱いとは聞いていたけれどそんなに重病なのだろうか。
「ふふふ、冗談だよ」
「心配していたのに」
待って冗談なのは告白? 重病? わからない。この人は一体どうしたいんだろう。
「ごめん、ごめん。本当に気に入っちゃたから、まだ死にたくないと思っているしまた会ってくれる?」
「いやです」
「少しは悩んで欲しかったな。あの二人に愛想尽きたらいつでも僕のところに来てくれて構わないよ」
彼の計らいでこのお見合いの結果を出すのは保留になった。
*
「Good morning、ボクの愛しいお姫様」
「おはよう、俺のかわいい姫君」
「二人ともおはよう!」
お父様、お母様、ごめんなさい。
もう少しだけ待って。私はまだどちらかなんて選べないし、どちらも選ばないなんて悲しくて苦しいこと出来ないわ。
「仕事はいいのか魔法使いさん」
「そっちこそ王子様なんだからフラフラとうつつを抜かしていていいの?」
「もー二人ともそんな言い方しないで仲良くしよう?」
夏目くんも、北斗くんも気持ちに応えきれない優柔不断な私を許して。
まだもう少しだけ、三人でいれる幸せを感じていたいの。
(19/02/20)