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記憶消失


 女で軍人。
 この国では当たり前の話。
 でも他の国ではないらしい。平和だなと思う。
 戦わなくても生きて生けるなんて。
「星屋、強くなったな」
「そうですか。自分ではよくわかりません」
「はは。ずっとそうやって戦って生きたんだもんな。いやーあのときのお前はすごかった」
「はぁ」
 よく覚えていない。無我夢中。生きるのに必死だった。
 覚えているのは血の臭いと人を殺す感覚だけ。思い出すだけでも気持悪い。
 それを繰り返す自分にも吐き気がした。
「まぁ頑張れよ。お前も立派な先輩なんだから」
「はい」
 気付いたら沢山の後輩がいて、慕われていた。何故慕われているのか本人は分かっていない。

   *

「星屋先輩の家族ってどんな人なんですか?」
「ん…よくわからん」
 強面の顔にはてなを浮かべる。にじみ出る優しさだろうか。
 彼女は本当に家族のことをよくわかっていない。
 戦争が起こっていると認識したときには一人だった。
 一人で生きていくには泣いてなんかいられなくて、仕方なく戦った。
 そしたら強くなった。軍人に引き抜かれた。
 戦場に必要なのは強さで、男女は関係なかった。
「あ、変なこと聞いてすみません」
「いや」
「先輩って優しいんで家族も優しいんだろうなって」
「あーそれは俺も思ってたんっすよ」
 他の後輩も会話に入ってくる。
「そう? ん…よくわからん」
 家族とはなんなのだろう。よく考える。考えても答えは出ない。
 誰かがここは家族みたいだと言っていた。
 一人ではないということか。そう結論付けた。一人が寂しいと思ったことはない。というより寂しいという感情がわからない。多分忘れてしまった。
「よし、行こう。訓練の時間だ」
「はい!」
 わからないことなんて考えなければいい。
 星屋たちは歩き出した。

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