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優しい彼女


「ふわぁ」
 猫八は気だるそうに欠伸をした。
 ここはアジト。身を隠す場所。
 目立たないように生活するというのは実につまらない。
 かと言って体を動かすと強力な魔力のせいでめんどうなことになる。
 彼にとって体を動かすことは戦うこと。

 彼は世界屈指の魔法使いである。それはかつて存在した大帝国王家の血筋であり、強大な魔力はその名残である。
 しかしそれを明かすことは厄介を招くことなので、普段はこのように暇を持て余している。
「ひま?」
 暇で寝転んでいる猫八に勝手に入ってきた友人の女性が声をかけた。
「ひま」
 特にそれを気にとめることもなく答える。勝手に入ってくるのはよくあることだ。
「……」
「?」
「と言うと思ったか? って言うと思ったんだけど」
「いつも言うわけないだろう」
「ふーん」
「で、ひまだったらなんかあるの?」
「あーうん。敵退治」
 思い出したように彼女は言う。
「敵退治? 弱い相手ごときに僕の力を使わせる気?」
 彼女は彼の魔力の大きさを知っている唯一の友人である。
 秘密を他言するといいことはない世の中なので黙っている。
「弱ければ自分で倒すわよ」
 そう彼女も魔法使い。ただランクが違う。
「ですよね。で、どういう状況?」
 どうせ暇だし体を動かしたかったので引き受けることにした。
 話を聞くと敵とは彼女よりランクが上の男で彼女にしつこく交際を迫っているとのことであった。
 彼女はもてる。変な男に。
 立ち上がり伸びをすると、部屋の外へ向かう。
 彼女を待ち伏せしているだろう男の元へ。
「誰だ! あの子に男はいないはずだが」
「うんいないよ? 僕はただの友人だ」
「ただの友人なら遠慮はいらないね」
 いきなり魔力全開の攻撃玉を作っている。やたらデカい。
 ひびるとでも思っているのだろう。
「どうだ怖いだろ」
「怖いですやめてください」
「じゃあ――」
「――とでも言うと思ったか?」「はっ?」
「僕のことわかってる? ランク知ってる?」
 素早くそっと近づいていく。
「知らないなら教えてあげるよ。トップ10に入る魔法使い」
 耳元で囁いた直後、男はドサッとその場に崩れ落ちた。
 微動だにしない。
「あー可哀想に。ごめんね、と言うと思った? この僕に向かってくるなんてバカがすぎるよ。でもま、戦わせてくれたことは感謝してるよ」
 男は放置で部屋に戻る。
「後処理頼んだ」
 ベッドに倒れ込む。
「了解。強かった?」
「全然。くそだな」
「そう。王家の血筋ってすごいのね」
 彼女はひらひらと手を振って去っていった。
「あんな男お前でも倒せるくせに」
 ふっと笑って眠りについた。


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