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嘘と強がり


 少年は青年になった。
 あんなに怖かった街がちっぽけに思えるくらい外の世界はもっと怖くて、生きていくためには戦うしかなかった。
 殺すことよりも死ぬことの方が怖かった。
 人を殺める苦しみから逃げる方法など存在しない。
 死ぬことが出来たらどんなに楽なのだろう?青年は殺める苦しみと死ぬことの出来ぬ2つの苦しみを繰り返しながら生きる。
 繰り返すほど強くなった。
 仕事が増えた。強くなったから殺す回数も増えた。
 残るのは罪悪感。
 悪循環。
 最悪最低。
 大事なあの子を殺した奴らとなんら変わりない。
 それでも生きることを選ぶのは、せめてもの償い。
 一生かけても終わらない。雀の涙程にしかならない償い。
 唯一の出来ること。
 戦うことを殺すことを辞められない人間が生きてもなんの償いにもならないかもしれない。
 でも、死ぬ勇気のない青年の生きる意味はそこにしかなくて。

 わけのわからない世界だと青年は笑った。

   *

 廃墟。
 粉々になった街。
 充満する鉄と腐敗の匂い。
 歓喜する男女と絶望を押し込める青年羽流。
 真逆の反応。
「……終わった」
 羽流は声を絞り出す。
 ほんの数分前は羽流も歓喜していた。
「詰めが甘かったね!」
 相変わらずの口癖。
 戦闘中の非情とは一変、仲間たちと勝利を喜びあったのに。
「羽流? 大丈夫?」
 気付かれた。
 仲間の女性に心配そうに見つめられて少したじろぐ。
「うん、平気。この匂いに少しやられてしまったみたいだ」
 笑う。
 嘘を吐く。
 自分はリーダーなのだから心配させるわけにはいかない、と強い思いがあった。
 悲しませない優しさが嘘を生む。
「大丈夫ならいいけど無理しないでね?」
「ありがとう」
 彼女は優しい。
 人を気遣えるそんな優しい人間がここにいるとは皮肉だ。
 結果を上に報告しなければならないので長居はしていられない。
 動き出した。

 地元から出て来た時に一人戦うことを辞めた。
 どこかの組織にいれば無駄な戦いにも理由がつく。気持ちを楽にしてくれる。
 一番下だったはずなのに気が付けばチームのリーダーになっていた。
 あの日は羽流をまるっきり変えてしまった。
 何もなければ変わらぬ優しい羽流がいて、なのに周りを取り巻く環境が違い過ぎて、もう戻れない。
 進むしかない。

「大丈夫」
 天に向かって笑った。
 強がり。
 でも嘘じゃない。
 なんとかなるって思ってる。
 それはあの日までと一緒。なんにも変わらない。
「羽流っぽいね」
 隣で彼女も天に向かって笑ってた。


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