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忘れられない一瞬
「詰めが甘かったね!」
少年羽流は倒れた男たちに笑みを浮かべた。
羽流は戦いのあといつも思い出す。あの日のあの一瞬を。
あの日を忘れない。忘れることは出来ない。残酷な一瞬を。
*
力が強いやつが生き残るこの世界。
少年羽流は弱く、生き残るためにと大人しくひっそりと生活していた。
妙なことをしなければ争いには巻き込まれない。
だからなんとなく大丈夫な気がしていて、油断してた。
愛犬のリードが散歩中に切れてしまった。急いで追いかけたけど追いつけなくて、やっと追いついたと思ったその瞬間。
鳴り響いた銃声音。
飛び散る赤い液体。
聞こえなくなった走る音と愛犬の息づかい。
代わりに聞こえたのは男たちの歓声と笑い声であった。
そう、なんと愛犬は銃で遊んでいた男たちの餌食になってしまったのだ。
羽流は血を流し微動だにしない愛犬を見て体が固まり動けなくなった。
何が起こったのか理解することが出来ない。
なにも出来ず、ただただ涙がこぼれていた。
「あー、これお前の犬?」
「試しに撃ったら当たっちゃってさー」
「ごめんねー」
なんて言うけど全然そんなこと思っていない。笑っている。
「……っ。ふざけんなよ」
いつもなら逃げてしまう羽流が声を張り上げる。強気な声とは裏腹に震える手。
「そうカリカリすんなよ。謝っただろ?」
「謝った? どこがだよ」
愛する家族を遊びで殺された怒りはおさまらない。
「うっせーな。お前を大事な大事なワンちゃんに会わせてやるよ」
1人の男が羽流に銃を向けた。
「今謝れば許してあげるけど」
「ワンちゃんに会いたいから謝らねーよ」
そう言って他の男たちは笑っているだけだ。銃を持っているのは1人だけらしい。ということは殺したのは今銃を向けている男。
羽流はそいつから素早い動きで銃を奪い取る。
そして、その銃を男に向ける。
「——君たちが謝りに行くべきだと思うけど」
怒りと興奮はどこかへ消え、声にも表情にも感情は見られない。いつもの羽流からは想像もつかない冷静さだ。
「お、お前……」
隙のなさに男たちは怯え震えていた。
「しっかり謝るんだよ」
その言葉ともに何も出来ないでいる男たちを順番に撃った。
倒れた男たちを見て我に帰る。
「お、俺が……。俺にはこんな力があったんだ。弱くなんてなかったんだ」
自分が強かったことを初めて知った。こんなにも別人になれるのだと感動した。
握っていた銃を捨て愛犬に駆け寄る。
「助けてあげられなくてごめんな……俺が強いことに気付かせてくれてありがとう。お前最後まで最高だな」
ポタポタとこぼれ落ちる涙。
「こいつら銃持ってるから自分は最強だと思ってたみたい。あ、知ってるか。見ててくれてたんだろ? こいつら詰めが甘かったね」
涙を拭い愛犬を抱きかかえ歩き出した。
そして誓った。目の前で起こったこの残酷な一瞬を忘れないと。
*
柄の悪いやつらに絡まれた。
普段の羽流は優しい少年なので弱く見える。
ので絡まれることも多いのだ。
「よぉ」
声をかけられたと思ったら囲まれた。
「ねぇお金持ってる?」
「……えぇ持ってますよ? 私の分しかありませんけどね」 男たちの腹を素早く殴る。その一発で男たちは倒れていく。
「ふぅ」
ため息をつき元に戻る。
ほんとは戦いたくなんてない。でも生きていくためには仕方ないのだ。
「囲めばいいと思ってるよね」
体を伸ばす。声を明るくするのは人を傷付けてしまった苦しみを忘れたくて。
そして、
「詰めが甘かったね!」
と倒れた男たちを見て笑顔を見せる。
それは天国の愛犬に向けて。
主人公羽流、少年時代の才能開花のエピソード
(130827)
「詰めが甘かったね!」
少年羽流は倒れた男たちに笑みを浮かべた。
羽流は戦いのあといつも思い出す。あの日のあの一瞬を。
あの日を忘れない。忘れることは出来ない。残酷な一瞬を。
*
力が強いやつが生き残るこの世界。
少年羽流は弱く、生き残るためにと大人しくひっそりと生活していた。
妙なことをしなければ争いには巻き込まれない。
だからなんとなく大丈夫な気がしていて、油断してた。
愛犬のリードが散歩中に切れてしまった。急いで追いかけたけど追いつけなくて、やっと追いついたと思ったその瞬間。
鳴り響いた銃声音。
飛び散る赤い液体。
聞こえなくなった走る音と愛犬の息づかい。
代わりに聞こえたのは男たちの歓声と笑い声であった。
そう、なんと愛犬は銃で遊んでいた男たちの餌食になってしまったのだ。
羽流は血を流し微動だにしない愛犬を見て体が固まり動けなくなった。
何が起こったのか理解することが出来ない。
なにも出来ず、ただただ涙がこぼれていた。
「あー、これお前の犬?」
「試しに撃ったら当たっちゃってさー」
「ごめんねー」
なんて言うけど全然そんなこと思っていない。笑っている。
「……っ。ふざけんなよ」
いつもなら逃げてしまう羽流が声を張り上げる。強気な声とは裏腹に震える手。
「そうカリカリすんなよ。謝っただろ?」
「謝った? どこがだよ」
愛する家族を遊びで殺された怒りはおさまらない。
「うっせーな。お前を大事な大事なワンちゃんに会わせてやるよ」
1人の男が羽流に銃を向けた。
「今謝れば許してあげるけど」
「ワンちゃんに会いたいから謝らねーよ」
そう言って他の男たちは笑っているだけだ。銃を持っているのは1人だけらしい。ということは殺したのは今銃を向けている男。
羽流はそいつから素早い動きで銃を奪い取る。
そして、その銃を男に向ける。
「——君たちが謝りに行くべきだと思うけど」
怒りと興奮はどこかへ消え、声にも表情にも感情は見られない。いつもの羽流からは想像もつかない冷静さだ。
「お、お前……」
隙のなさに男たちは怯え震えていた。
「しっかり謝るんだよ」
その言葉ともに何も出来ないでいる男たちを順番に撃った。
倒れた男たちを見て我に帰る。
「お、俺が……。俺にはこんな力があったんだ。弱くなんてなかったんだ」
自分が強かったことを初めて知った。こんなにも別人になれるのだと感動した。
握っていた銃を捨て愛犬に駆け寄る。
「助けてあげられなくてごめんな……俺が強いことに気付かせてくれてありがとう。お前最後まで最高だな」
ポタポタとこぼれ落ちる涙。
「こいつら銃持ってるから自分は最強だと思ってたみたい。あ、知ってるか。見ててくれてたんだろ? こいつら詰めが甘かったね」
涙を拭い愛犬を抱きかかえ歩き出した。
そして誓った。目の前で起こったこの残酷な一瞬を忘れないと。
*
柄の悪いやつらに絡まれた。
普段の羽流は優しい少年なので弱く見える。
ので絡まれることも多いのだ。
「よぉ」
声をかけられたと思ったら囲まれた。
「ねぇお金持ってる?」
「……えぇ持ってますよ? 私の分しかありませんけどね」 男たちの腹を素早く殴る。その一発で男たちは倒れていく。
「ふぅ」
ため息をつき元に戻る。
ほんとは戦いたくなんてない。でも生きていくためには仕方ないのだ。
「囲めばいいと思ってるよね」
体を伸ばす。声を明るくするのは人を傷付けてしまった苦しみを忘れたくて。
そして、
「詰めが甘かったね!」
と倒れた男たちを見て笑顔を見せる。
それは天国の愛犬に向けて。
主人公羽流、少年時代の才能開花のエピソード
(130827)