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滅び


 プログラミングから幾日。
所長の前にはスヤスヤと眠る妃波。
「ショッチョー!」
元気よく登場する柚木。
「何だ五月蠅いぞ柚木」
「来たんですよ、あの方が」
「六名さんか。お前もう少し敬意をだな……」
「いいぞ。気にするな、一ノ倉」
「……!? 六名さん」
「今日は今世界で起こってる事について話に来た」
「六名さん、それってセンソーのことですよね」
「嗚呼。皆、野心剥き出しだ」
「そんなに自国を一番にしたいのか……」
妃波を見つめる所長。
「はは。一ノ倉のように生き甲斐がないんだろう。そうする事でしか生きる意味を見つけられないんだよ」
「所長すげーもんな妃波への愛情」
六名の言葉に何度も頷く柚木。
「で、だ。今世界は妃波を狙って動き出している」
「妃を……!?」
「嗚呼。妃波は最先端技術が詰まってる。今の奴等は欲に飢えてるからな」
「妃は渡さない」
「そうカリカリすんな。私も戦争させるつもりはないからな」
「まー六名さんがいればセンソーは大丈夫ですよ。最高権力者ですから、誰も逆らったりはしませんしね」
「欲に飢えた奴等だ、いつどこで何をするかわからん」
「用心深いな、一ノ倉」
「いや、妃波だからですって。他じゃこんなムキになんてなりませんよ」
柚木は笑った。
「ん……んー……」
柚木の高めの笑い声で目を覚ます妃波。
「妃、大丈夫か?」
「うん……あなたは誰……?」
「忘れてしまったか……六名だ」
「妃波、この人はお偉いさんなんだよ」
「ふーん……」
「良かった興味なさげで」
 自然と呟く所長。
「所長、妃波はただ頭が動いてないだけじゃ……」
「痛い!」
妃波の叫び声が柚木の言葉に重なる。
「どうした!? 妃!!」
かなり心配している様子の所長。
「何かわからないけど、頭がズキズキする……」
「反応しているのか……?」
柚木が少し驚いた様子で呟く。
「一ノ倉、柚木、私は帰るよ」
「もー帰っちゃうんですか?」
「嗚呼。早く戻らないと奴等が何するかわからん。まあ、また話しに来るよ」
そう言って六名は帰って行った。
「妃! 大丈夫か?」
心配して所長が妃波き駆け寄る。
「――痛く無くなった。さっきは激痛だったけど……」
「良かった」
所長安堵の表情を浮かべる。
「やっぱり……」
柚木はそう呟いて、自分の仕事に戻っていった。

――これが妃波暴走の前兆だったりする。

 “世界人権保護国際連盟”
ここは世界のトップに立つ機関。
どの国もこの機関で決まったことに逆らう事は許されない。
今、この機関はトップの命令で活動している。





六名の訪問から二週間。
あまり世界に目立った動きはない。
「柚木どうした?」
唸る柚木に所長が声を掛ける。
「最近……二週間くらい前から、妃波が怒ったようにガラスを叩くんですよー。どうしたんですかね」
「お前、わかってるだろ。私に教えろ」
「やっぱ所長もわかんないですか? 残念」
少しも残念がる素振りを見せず、柚木は部屋を出て行く。
そして、暫くすると、柚木は六名と共に部屋へ戻って来た。
「一ノ倉、急にすまない」
「何か世界で動きが?」
「嗚呼。争いを望む者が望まぬ者を殺し始めた」
「“世連”で、ですか?」
柚木は少し楽しそうに、所長は少し怯えをみせ、尋ねる。
“世連”とは“世連人権保護国際連盟”の略。
六名は頷き、外を見た。
「直に私も殺される。そんな気がするんだ」
「六名さんが……」
「そっかぁ六名さんがいなくなればセンソー賛成者がトップなれるもんねー。そしたら何でも出来る」
「その通りだ、柚木」
「六名さんがいなければ、妃が……」
狂い始めた所長。
「一ノ倉、落ち着け。それでだ、私をここに匿って欲しい」
「オッケーですよーね、所長?」
「妃……」
周りの声が聞こえていない様子の所長。
「あーあ、所長、可笑しくなっちゃった」
「妃波はそんなにもお前の中で大きな存在なのか」
落胆と驚きの声で六名は言う。
「あっ……妃波……?」
柚木は妃波が頭を押さえ顔をしかめているのに気付き驚く。
「あ゛っ……あ゛――」
妃波は必死に叫び、自分の入ってるガラスケースのガラスを叩く。
そして、妃波はガラスを割ってしまった。
もう、妃波は止められない。
「妃!?」
あまりのことに所長に冷静さが戻ってくる。
「いやッ……」
脳内プログラムの暴走。
「柚木、妃波は……」
「六名さん、反応してますよ、妃波」
六名が不安から震えている。
妃波は、拳銃を見つけ出し、六名に向ける。
「妃、やめろ。六名さんが死ねばお前は――」
「黙れ」
一度六名に向けた銃を、所長に向ける。
「オイ……妃」
「黙れと言ってるだろ」
「――ッ」
妃波は銃を再び六名に向ける。
「ヒナミー!! どうしたの?」
柚木がわざとこの緊迫した状況を乱す。
「黙れ、コイツは……」
銃を握る手に力を込める。
「六名さん、妃波にはあの記憶は無いはずですから、きっとこれは本能です」
「そうか柚木、私はそういう運命だったんだな」
「死ね――!!」
 妃波は力いっぱい引き金を引いた。
ばきゅん。
 音は刹那。
ブシュッ。
血の噴き出す音と共に、すぐ妃波の脳はショートした。

 ――妃波は自らこの記憶を消した。

そして、戦争は始まった。
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