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彩られたおとぎの国


「あの子を殺しておしまい」
「一番美しいのはこの私でなければいけない」
 暗闇に声だけが響く。

 それでハッとして、ドキドキのファーストキスの途中に目を開けたら王子様はいなくて、代わりに可愛らしい小人さんが九人。もちろんキスはしてない。と思う。
「……!」
 何だったの夢? 私何してたっけ?
 シンデレラの世界にトリップして、王子様と誓いのキスを……そうか、私クリアしたから別の世界にトリップしたんだ。ということはこれも童話よね。目覚めたら小人に囲まれてる話なんて……! 白雪姫! あの変な夢はきっと女王様ね。
「あのっ」
「あ、ごめんなさい。殺されそうになって逃げてきたの」
 ちゃんと物語を進めるにはこれでいいのかな。
「それでこの家を見つけて……勝手に使ってごめんなさい」
「そうだったのか。大変だったね。君の名前は?」
「えっと白雪よ」
 自分のこと姫だなんて言えない。かといって彩波って言うのも違う。
「綺麗な黒髪とは正反対だ」
「どうして、どうして」
「そりゃ肌の色が白いからだろ。女の子に黒い名前なんておかしいだろ」
「でもとっても綺麗な髪だねぇ」
 色々と話す小人たちを見て気づく。九人いる。七人の小人じゃないの? しかも一人女の子いるじゃない。
 今度は一体どんなことが起こるのか。
「あの、私ここで一緒に生活してもいいですか?」
「もちろんさ」

   +

 新しい環境に慣れるのは大変だったけど、家事をシンデレラの時鍛えられていたため助かった。その時と違ってしなければならないわけではなかった。でもみんなが働いているのに何もしないわけにはいかない。それにすることがないから暇。
 でもまぁ何とか平和に毎日暮らしてる。みんなとも仲良くなった。

「はー! 終わったー!」
 体を思いっきりのばす。晴れた日の外の空気は気持ちいい。
「こんにちは。お嬢さん」
 声がした方を見るとそこには魔女みたいなあからさまに怪しい人が立っていた。魔女といっても珍しく男の人である。
「どちらさま?」
「ただの櫛売りだよ」
「こんな森の奥まで売りに来るの? よっぽど経営が苦しいのね」
「違うさ、なかなか買い物に行けない人のためにこうしてまわっているのです」
 もしかして、これは私を殺そうとしてる女王様? いや、男だから王様? まさか。男に化けてるだけよね? きっと。
「へー。でも櫛ならあるから必要ないわ」
 家の中にいたら扉を開けないから会うこともなかったはずなのに。さっさと断って中に入ろう。毒に侵される何て嫌だ。
「この漆黒の櫛を使えばもっと美しくなれますよ」
「でも」
「大丈夫。ためしにといてあげる。気に入ったら買って頂戴。また来るから」
 すぐには殺さないつもりかしら? なんて考えてるうちに髪はとかされ始めていた。
「ちょっと」
「ほら見る見るうちに綺麗になっていく」
 鏡を使って見せてくれた。
「本当、綺麗」
 毒なんて思い込みだったのかもしれない。こうやって元気。
「特別にあげるよ」
「いいんですか? 無料でもらってしまって」
「もちろんだよ。じゃあ、また会う機会があれば……」
 櫛を渡して魔女は去って行った。
「男の魔女もいるんだ……う……あ……」
 苦しい。息ができない。しびれて体が動かな――。

「……らゆき、白雪!」
「目を覚まして」
「……」
 ゆっくりと目を開ける。ずっと真っ暗だったせいか光がまぶしい。
「目を覚ましたよ」
「よかった」
「私……」
「帰ってきたら倒れていたからびっくりしたよ」
「すぐに毒だって気づいて頭洗ったんだよ」
「そうだったのね。ありがとう」
 やっぱりあの櫛には毒があったんだ。すぐ効果を表さなかっただけで。もう少し発見が遅れていたら私は死んでたのだろうか? 現実に帰れずゲームオーバー。考えるだけで恐ろしい。
「何があったんだい?」
「実はね……」
 今日遭ったことをそのまま話した。
「なんてひどいやつだ」
「姿を変えてまで白雪ちゃんを殺そうとするなんて」
「でもよかった。一瞬で死ぬような毒じゃなくて」
「みんな優しいのね」
「白雪は僕たちの女神だから」
「女神?」
「そうさ。帰ったら明かりがついていて、おいしいあったかいご飯が用意されてる」
「部屋もきれいだからくしゃみせず、快適に寝られる」
 感謝されることをしてたんだ。シンデレラではして当たり前だったから、忘れてた。ブラックなところで生活してたのね私。
「白雪泣いてるの?」
「えっ、あっ、どうしてかしら勝手に涙が……」
 自分でも泣いてることにびっくり。手で涙をぬぐっても流れてくる。
 現実世界でもこんなに感謝されたことないからなんだか不思議な気持ち。 
「今日はもうお眠り」
「まだ完全じゃないんだから」
「そうねそうするわ」
 小人たちの言葉に甘えて目を閉じた。

 少しして「白雪」と名前を呼ぶ声がした。
「ん……」
 起きると小人の一人が申し訳なさそうに私を見ていた。
「どうしたの?」
「相談、したいことがあるんだ」
「何でも聞くよ」
 私が体を起こすと小人は隣のベッドに腰掛けた。
「僕、もうダメだよ」
「急にどうしたの?」
「仕事、全然出来なくて、みんなの足を引っ張ってばかり」
「でも頑張ってるじゃない。誰よりも煤で真っ黒になってる」
「あれは僕が失敗してる証拠だよ。下手だから汚れるんだ」
「やめたいけどやめたってどうせ何も出来ないし、人生の先が見えないんだお先真っ暗 」
 すごい負のオーラにネガティブで飛躍した思想。
「私だって見えてない。真っ暗だよ」
 怖いよ。私の知らない世界だし。それに現実に帰れる確証なんてどこにもない。
「白雪が? 僕とは反対に見えるけど」
「人はみんな闇を抱えて生きてるの――って誰かの受け売りだけど」
「そうなの?」
「そんなもんだよ。深く悩まないの。大丈夫、失敗して成長するし努力は必ず報われる」
 何言ってんだろう私。こんなこと言えるんだ。
「ありがとう」
「いいえ。お互いがんばろう」
 出ていく姿はさっきより元気そうでよかった。
「あー眠い」
 一仕事したら眠たくなっちゃった。

   +

 外に出るのも来客も魔女の一件から気をつけるようになった。
 毎日の様にカラスが外を飛んでいて怖い。
 特に夜は怖かった。まぁ夜は皆がいるからいいけど。

 昼。
 コンコン。ドアが叩く音がした。一人の時は出ないようにしてるので無視する。
 コンコン。再び叩く音。
「白雪、開けて」
「誰……?」
「私のこと忘れたの?」
「だから誰!」
 きれて開けてしまった。
「こんにちは」
「うぅ、こんにちは」
 やっぱり怪しい人だ。謎に包まれた綺麗な人って感じなんだけど、知らない人が私の名前を呼ぶなんて怪しすぎる。
「ノニジュース飲まない?」
「は?」
「健康にいいんだよ? ほら」
 籠から取り出したのはワインボトルみたいなビン。
「ほらじゃないんだけど。しかもちょっと色……」
「黒酢と混ぜた特性だから」
「いや、いらない。ますます不味そうだし」
 それにおかしいでしょ。ここは童話の世界のはずなんだけど。どうなってんの。
「体にいいものかける体にいいものなのに残念。じゃあ代わりにリンゴどうぞ」
「そんなさぁ」
 これ食べなきゃ進まないけどこんな出し方されて誰が食べるの。
「いらないの?」
「いらないよ、腐ってるじゃない」
「あらっ、じゃあこの梨は? 高いよ」
「高いって買わせるの?」
「買わせないよ。高いって言えば食べてくれるかなーって」
 意味わかんないんだけど。殺したいならもっとさぁ……。
「食べないかー。このゴールデンアップルは? これ自分用なんだけど」
「嘘っぽい」
 食べなきゃ話が進まないのは分かってるんだけど、死にたくない。
「早く食べろよ」
 怪しい女にゴールデンアップルを口に突っ込まれた。
「う、あっ」
 苦しすぎて何も考えられず意識を手放した。

   +

 真っ暗闇の中、私を呼ぶ声が聞こえる。
 泣き叫んでる。
 その中に笑い声もある。
「これで私が世界一美しい」
 ああ、小人たちは泣いて女王様は笑っているのね。死んだんだ私。

「げほっげほっ」
 何かの振動で体の中の何かを吐いた。
「白雪!」
「……」
「白雪!」
 呼ばれてるのはわかるのに返事が出来ない。意識はあるのに動けないし声も出ない。現実のはずなのに夢みたいで曖昧。
 そんな中、ゆっくりと考える。とりあえず私生きてる……? 死んだと思っていたけど彷徨っていただけなのかな。
 今は多分透明な棺桶で運ばれてる。
「……ここは?」
「よかった。城に向かう道中だよ」
「誰?」
「君を迎えに来た隣の国の王子様かな」
 ちょっと意味がわからないんだけど仮死状態のところに王子様が迎えに来たんだよね。で、急な衝撃により毒のリンゴを吐いたから生き返ったってことでいいのかな?
「……大丈夫かい?」
「えぇ。少し頭が追いつかなくて」
 あぁ、みんなにお礼言ってない。生きてるよって伝えたい。
「そうだよね。大丈夫」
「えっと何が?」
「魔女は死んだよ」
「え」
「雷に打たれて黒こげになったって情報が入っていたよ」
 一体どこ情報なの?
「さぁだから安心して目をつぶって。キスするよ」
 全然意味わかんないんだけど目を閉じる自分がいた。
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