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original

Improvisation


 僕は真っ黒。
 君は真っ白。
 正反対の僕ら。
 だけど、僕は君が好き。
 誰にも負けないくらい、君が好き。

    Φ

 僕は人を殺す。
 そうして生きてきた。
 何故なら僕が――だから。
 だから僕は真っ黒。


 前を見た。
 そこには培養器の中で無邪気に笑う君がいた。
 君は僕に気付き「らいじゅ?」と不安げな表情で僕を見た。
「なんでもない」
 無理矢理笑って見せた。
「よかった」
 安心した君はそのまま目を閉じた。

 君は脳に一週間分の思い出しか残しておく事が出来ない。と言うより毎週月曜日思い出を記憶するところがリセットされる。
 今日は日曜日、明日になれば君は僕の事を忘れる。
 どんなに思い出を作っても君は僕を忘れてしまう。
 だから君は真っ白。

 反対な僕らだけど、君も僕も実験と言う名の遊びの同じオモチャなんだ。

    Φ

 君は未だ未完成。
 感情が無くなり、記憶をリセットしなくなったらその後もう一段階あって完成らしい。
 誰かが言ってた。
 僕は監視役。次の段階へ行くまでの間の。
 監視をしてる間は人を殺さなくていいから嬉しかった。
 僕は人を殺すのがあんまり好きじゃないから。
 でも、殺さなければ僕が殺されてしまう。
 だから僕は人を殺すんだ。

 僕は時計を見た。
 日付が変わってた。日曜から月曜になってた。
 君は寝ている。
 君はもう僕を覚えていないだろう。
 悲しかった。

 朝、いつもの様に君は目を覚ました。
 そして、「だれ?」君は言った。
 何回その言葉を聞いただろう。聞きたく無かった。
「僕は來樹、君はクルアルだよ」
 僕は無理矢理微笑んでみせるんだ。君が悲しまないように。
「らいじゅ? あたしはクルアル……」
 君が繰り返すように呟いた。
 僕はそれに頷いて君に近付いた。
「らいじゅ、あたしはどうしてここにいるの?」
 君は好奇心旺盛だった。
 時々僕には答えられない事も訊いてくる。この問いも僕には答えられない。
「僕もよくわからないんだ」
 そう言って更に一歩君に近付いた。
「そうなんだ」
 君はそう言って辺りを見渡した。
 君は何も覚えてない事を疑問には思わないのかな?
 こうしてまた一週間が始まるんだ。

    Φ

 過去に一度君に想いを伝え、君からも想いを聞いた事がある。
 それも君は忘れてしまった。
 それが悲しくて、僕は君が好きだけど、その気持ちを伝えられなかった。
 僕がどれだけ君を想っても無駄なんだ。


 君がそろそろ次の段階へ行くという予測がでた。
 月曜にリセットされなければ記憶を故意に消して次へいく、と偉いさんが僕に言った。
 そしたら僕はもう用無しなんだ。

 月曜日、本当に君の記憶はリセットされなかった。
 終わりの合図。
 だから君は記憶を消された。僕の目の前で。
 君は泣き叫んでいた。記憶を失いたく無かったのかな。でもその行動は無意味だった。
 記憶を失った君に偉いさんが銃を持たせた。
 そして、その銃が僕に向けられる。
 僕を愛した君はもういない。君は僕の名前さえ知らないんだ。
 だから銃が向けられるんだよね。
 僕は逃げなかった。どうせ殺されるなら、と思ったから。
 ぱきゅん。
 高い音がなって僕の目の前が真っ赤になった。
 赤の間から見えた君は泣いてるみたいだった。
 やっぱり君は真っ白だ。
 僕は実験でおかしくなった人間だから、人を殺すためだけに改造された人間だから真っ黒なんだ。
 そうされる時逃げなかった、泣かなかった、だから真っ黒なんだ。
 僕は君とは結ばれない、近付く事も出来ない人間だったのかな。
 だから、君は全てを忘れ僕を撃ったんだ。
 そして――、僕は泣く君をただ見つめていた。
 感情をなくしたはずの君から溢れる涙の意味が僕にはわからなかった。

 真っ白な君だから、再び銃を握った時、いつか、今日のこと思い出してくれるかな。


(13/03/11)
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