original
破壊行為
「もうすぐ卒業だね」
「うん」
部屋で男女二人がそんな会話をしている。
そして将と晴佳はもう付き合ってもうすぐ四年になる。
「ということは晴佳の留学ももうすぐか。寂しいな」
「ごめんね」
「なんで謝るんだよ。脳の研究学んでくるんだろ? 俺はかっこいいことだと思う」
「ありがとう。将くんちゃんと待っててくれる?」
「当たり前だろ。待ってる! 携帯あるんだし連絡し合えば乗り越えられる気がするんだ」
「うん、そうだよね」
「俺はいつまででも待ってるから」
この時二人は幸せだったし、ずっと続くと思っていた。
晴佳が留学して一年少し、将に毎日あった連絡が突然途絶えた。
将は不安だった。なにかあったんじゃないかって。メールを送り続けた結果、やっと来た返事は「怖いのでもう連絡しないで下さい。あと私は元気ですけど」だった。
将は戸惑った。あんなに愛し合っていた彼女からこんなメールが来たのだ戸惑うのも仕方ない。
一体何があったのかと考える。仕事中もそれで頭が一杯になる。友人に相談しても「別に好きな男が出来たんだろ」という答えしか返ってこない。「この前メールしたけど全然普通だったよ。なんか変なことしたんじゃない」とまで言われる始末だ。もう誰にも相談せず一人で悩もうと決めたり、忘れてみようと思ったり、試行錯誤を続けた。
それからしばらくした夏。
将が街をぷらぷらしていたときのこと。彼は見てしまった。外国にいるはずの彼女の晴佳と自分の兄が一緒に手を繋いで歩いているところを。
見た感じ、いや、どう見てもカップルである。
「は、る、か……?」
「やあ、将。久しぶりだな」
兄は自然に将に話しかける。
「少しいいかな?」
兄にそう言われて近くの建物に入った。
「実は親に結婚報告するために帰って来てたんだ」
「!?」
びっくりしすぎて声が出ない。二人が一緒にいるだけでも衝撃なのに。
「今度結婚するんだよ」
兄であるこの男、将と晴佳が付き合っていたことを知った上でこの発言をしている。
「この人は?」
声を出せずにいる将に、晴佳は将のことを全く知らない人のような発言した。
「僕の弟だよ」
「なあ、俺のこと忘れたのか!?」
やっとの思いで声を出した。
信じられない。
「一体何を言ってるんだろうね? きっと誰かと勘違いしているんだよ」
「そうなの?」
「うん。説明するから少しの間隣の部屋にいてくれるかな?」
「うん」
「あ、これ変な人がきたら困るから」
兄は晴佳に銃を持たせた。
晴佳は「こんなのいらないのに」なんて言いながら素直に隣の部屋へ移動した。
「おい! あいつに何をした?」
将は兄に掴み掛った。本物の銃を持っている方が危険だと思ったが晴佳は銃で遊ぶようなやつではないし、たしかに変なのに襲われては困るから触れないことにした。
「何を言っているんだい? 彼女は僕に恋に落ちたんだよ。ただそれだけさ」
将を振りはらい笑みを向ける。
「大体、俺を知らないなんておかしいんだよ!」
「うるさいなあ」
兄はため息を吐いた。
「うるさい?」
「僕は彼女に不必要なモノを全て消去しただけだよ」
「不必要なモノを消去しただと?」
「そう。彼女は自ら僕の実験台になったんだ」
「そんな……」
留学先でたまたま兄は晴佳に会った。将の彼女だと気づいた兄は、彼氏の兄であることを利用しようと考えた。自分の彼氏の兄を信用しきった彼女に研究の実験台を持掛けた。「お役に立てるなら」と彼女はそれを承諾した。そして、兄は彼女から将に関する記憶を全て消去した。
「なんでそんなこと」
「お前の女だから」
「えっ」
「嘘だよ。僕も好きになっちゃったから。お前じゃなくても消したよ」
たまたま会って好きになった女が弟の彼女だっただけ。
好きになった女の過去の男の記憶は消すと決めていた。そのために研究をしてきたのだから。
研究所に配属されてきて「今日からよろしくお願いします」そう挨拶した彼女が可愛くて、雷に打たれたみたいに恋に落ちた。たしかに弟の彼女っていうのは色々都合がよくて、スムーズに進んだとは思う。
「ふざけんなよ! どうすれば消した記憶戻せるんだよ」
「バックアップしたデータがあれば戻せるよ」
「それはどこだ」
「彼女の中さ」
「中?」
「お前にはわからないよ」
そう言って兄は笑う。
「てめぇ」
掴みかかろうとしたそのとき。
バン――。
銃声が鳴り響いた。
「な、なんだ今の」
「……」
将が兄を見るとわなわなと震えている。
「おい、兄貴……! もしかして」
将は走り出した。
隣の部屋、そこには銃を握り血を流して倒れる晴佳がいた。
悪い予感は的中した。
「晴佳! おい、しっかりしろ」
「しょう、くん……」
まだほんの少し意識はあるようだ。
「思い出したのか俺のこと」
「あははははは。あーあ、鍵掛けといたのにそんな方法で解かれちゃうなんて、僕はバカだな……ははははは」
壊れたように笑う兄。
「晴佳、なんでこんなことしたんだよ……晴佳がいなくなったら俺……どうしたらいいんだよ。ずっと、待ってたんだ」
「わかんないよ……ごめんね。だいす――」
大好きの途中で晴佳は意識を手放した。
「おい、晴佳! 返事してくれよなぁ! はる、か……」
将は大粒の涙を零す。
「晴佳あああああ」
叫んだ。この声が届いてほしくて。
でも届かない。もう目を開けることはない。
「ああ。そうだ、晴佳に真実を知ったとき自分を破壊するようにプログラミングしたんだった」
この男は自分の好きな女が死んだというのに感情を取り乱さない。もう壊れきっているのか。
「俺たちの会話を聞いてたってことかよ。なんで」
「誤算だったな。記憶が戻ってしまうのは。僕を好きなまま死ぬはずだったのに」
「てめえええ」
彼女の持っていた銃を取り、兄に向ける。
しかし兄は逃げない。寧ろ撃たれるのを待っている。
こんな狂ったやつ生かしておけない。
「はるかああああああ」
彼女の名を叫びながら将は兄を撃った。
「ははははは――」
そして狂ったように笑いながら兄は息絶えた。
その後、将は放心状態のところを警察に保護された。「兄貴に晴佳だけじゃなく自分も殺されるんじゃないかと思った」「銃を奪った時に誤って発砲してしまった」「自分を守るのに必死だった」と主張。そして正当防衛が認められた。
精神状態が不安定になっていた彼に待っていたのは、兄たちがいた研究所による特殊プログラムであった。
13/6/26
死ネタが書きたかっただけ。
ぶわーと思いつきで書いた。
「もうすぐ卒業だね」
「うん」
部屋で男女二人がそんな会話をしている。
そして将と晴佳はもう付き合ってもうすぐ四年になる。
「ということは晴佳の留学ももうすぐか。寂しいな」
「ごめんね」
「なんで謝るんだよ。脳の研究学んでくるんだろ? 俺はかっこいいことだと思う」
「ありがとう。将くんちゃんと待っててくれる?」
「当たり前だろ。待ってる! 携帯あるんだし連絡し合えば乗り越えられる気がするんだ」
「うん、そうだよね」
「俺はいつまででも待ってるから」
この時二人は幸せだったし、ずっと続くと思っていた。
晴佳が留学して一年少し、将に毎日あった連絡が突然途絶えた。
将は不安だった。なにかあったんじゃないかって。メールを送り続けた結果、やっと来た返事は「怖いのでもう連絡しないで下さい。あと私は元気ですけど」だった。
将は戸惑った。あんなに愛し合っていた彼女からこんなメールが来たのだ戸惑うのも仕方ない。
一体何があったのかと考える。仕事中もそれで頭が一杯になる。友人に相談しても「別に好きな男が出来たんだろ」という答えしか返ってこない。「この前メールしたけど全然普通だったよ。なんか変なことしたんじゃない」とまで言われる始末だ。もう誰にも相談せず一人で悩もうと決めたり、忘れてみようと思ったり、試行錯誤を続けた。
それからしばらくした夏。
将が街をぷらぷらしていたときのこと。彼は見てしまった。外国にいるはずの彼女の晴佳と自分の兄が一緒に手を繋いで歩いているところを。
見た感じ、いや、どう見てもカップルである。
「は、る、か……?」
「やあ、将。久しぶりだな」
兄は自然に将に話しかける。
「少しいいかな?」
兄にそう言われて近くの建物に入った。
「実は親に結婚報告するために帰って来てたんだ」
「!?」
びっくりしすぎて声が出ない。二人が一緒にいるだけでも衝撃なのに。
「今度結婚するんだよ」
兄であるこの男、将と晴佳が付き合っていたことを知った上でこの発言をしている。
「この人は?」
声を出せずにいる将に、晴佳は将のことを全く知らない人のような発言した。
「僕の弟だよ」
「なあ、俺のこと忘れたのか!?」
やっとの思いで声を出した。
信じられない。
「一体何を言ってるんだろうね? きっと誰かと勘違いしているんだよ」
「そうなの?」
「うん。説明するから少しの間隣の部屋にいてくれるかな?」
「うん」
「あ、これ変な人がきたら困るから」
兄は晴佳に銃を持たせた。
晴佳は「こんなのいらないのに」なんて言いながら素直に隣の部屋へ移動した。
「おい! あいつに何をした?」
将は兄に掴み掛った。本物の銃を持っている方が危険だと思ったが晴佳は銃で遊ぶようなやつではないし、たしかに変なのに襲われては困るから触れないことにした。
「何を言っているんだい? 彼女は僕に恋に落ちたんだよ。ただそれだけさ」
将を振りはらい笑みを向ける。
「大体、俺を知らないなんておかしいんだよ!」
「うるさいなあ」
兄はため息を吐いた。
「うるさい?」
「僕は彼女に不必要なモノを全て消去しただけだよ」
「不必要なモノを消去しただと?」
「そう。彼女は自ら僕の実験台になったんだ」
「そんな……」
留学先でたまたま兄は晴佳に会った。将の彼女だと気づいた兄は、彼氏の兄であることを利用しようと考えた。自分の彼氏の兄を信用しきった彼女に研究の実験台を持掛けた。「お役に立てるなら」と彼女はそれを承諾した。そして、兄は彼女から将に関する記憶を全て消去した。
「なんでそんなこと」
「お前の女だから」
「えっ」
「嘘だよ。僕も好きになっちゃったから。お前じゃなくても消したよ」
たまたま会って好きになった女が弟の彼女だっただけ。
好きになった女の過去の男の記憶は消すと決めていた。そのために研究をしてきたのだから。
研究所に配属されてきて「今日からよろしくお願いします」そう挨拶した彼女が可愛くて、雷に打たれたみたいに恋に落ちた。たしかに弟の彼女っていうのは色々都合がよくて、スムーズに進んだとは思う。
「ふざけんなよ! どうすれば消した記憶戻せるんだよ」
「バックアップしたデータがあれば戻せるよ」
「それはどこだ」
「彼女の中さ」
「中?」
「お前にはわからないよ」
そう言って兄は笑う。
「てめぇ」
掴みかかろうとしたそのとき。
バン――。
銃声が鳴り響いた。
「な、なんだ今の」
「……」
将が兄を見るとわなわなと震えている。
「おい、兄貴……! もしかして」
将は走り出した。
隣の部屋、そこには銃を握り血を流して倒れる晴佳がいた。
悪い予感は的中した。
「晴佳! おい、しっかりしろ」
「しょう、くん……」
まだほんの少し意識はあるようだ。
「思い出したのか俺のこと」
「あははははは。あーあ、鍵掛けといたのにそんな方法で解かれちゃうなんて、僕はバカだな……ははははは」
壊れたように笑う兄。
「晴佳、なんでこんなことしたんだよ……晴佳がいなくなったら俺……どうしたらいいんだよ。ずっと、待ってたんだ」
「わかんないよ……ごめんね。だいす――」
大好きの途中で晴佳は意識を手放した。
「おい、晴佳! 返事してくれよなぁ! はる、か……」
将は大粒の涙を零す。
「晴佳あああああ」
叫んだ。この声が届いてほしくて。
でも届かない。もう目を開けることはない。
「ああ。そうだ、晴佳に真実を知ったとき自分を破壊するようにプログラミングしたんだった」
この男は自分の好きな女が死んだというのに感情を取り乱さない。もう壊れきっているのか。
「俺たちの会話を聞いてたってことかよ。なんで」
「誤算だったな。記憶が戻ってしまうのは。僕を好きなまま死ぬはずだったのに」
「てめえええ」
彼女の持っていた銃を取り、兄に向ける。
しかし兄は逃げない。寧ろ撃たれるのを待っている。
こんな狂ったやつ生かしておけない。
「はるかああああああ」
彼女の名を叫びながら将は兄を撃った。
「ははははは――」
そして狂ったように笑いながら兄は息絶えた。
その後、将は放心状態のところを警察に保護された。「兄貴に晴佳だけじゃなく自分も殺されるんじゃないかと思った」「銃を奪った時に誤って発砲してしまった」「自分を守るのに必死だった」と主張。そして正当防衛が認められた。
精神状態が不安定になっていた彼に待っていたのは、兄たちがいた研究所による特殊プログラムであった。
13/6/26
死ネタが書きたかっただけ。
ぶわーと思いつきで書いた。