クライアントのサンタクロース
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ぼんやりと光るイルミネーション。
赤と緑を基調としたソリや、モミの木のオブジェ。クリスマスというイベントが、街を覆っていた。街の人々はいつもより浮かれている。
対して、あるオフィスの一室で男は日常と変わらぬ態度で目の前の仕事を淡々とこなす。
椅子に身を預け、伸ばした腕がキーボードを叩く。眼鏡越しの視線は、モニターから一度も離れない。カタカタなると入力音は、この部屋の作業用BGMになっていた。
コンコン。バダン!
ノック音とドアの開閉音が聞こえた途端、部屋の侵入者の存在に気付き、ぴたりと手を止めた。
「先に帰ったはずでは?」
低い声で言いながら、声の主に視線を向けた。
「駅に着いた瞬間、マフラーを巻き忘れた事に気がついて取りに戻って来ました!劾さんはまだ仕事をしているのですか?」
「あぁ、今回のクライアントからの『願い』が面白くてな、オレはクリスマスと言った浮かれた気分になる気がない」
劾は、仕事に生き甲斐を感じていた。
コンサルタント会社社長として依頼は途切れず、断る理由もなかった。
「それじゃ、まるで劾さんがクライアントの『サンタクロース』じゃないのですか」
その言葉は彼が自覚する程の皮肉屋趣味のツボだったのか、クイズ番組の解答者かのように反射的に返かえす。
「クライアントの『サンタクロース』か……では、もしも、君がクライアントならオレへの報酬は何だ?」
「えっ、そうですね……ホットコーヒーとかおごるとか?いつもお世話になっているので!」
皮肉で返したつもりが向こうにはどうやら効かなかった様子で、むしろそのマイペースさに巻き込まれていく。次はどんな言動を起こすのか無意識に気になっていた。
「あっ、あった、マフラー!」
お目当ての物を見つけてワクワクする姿は子供の様だった。仕事机の椅子に掛けてあったマフラーを首へグルグルと巻いていく。
「あー!伝え忘れましたが今、雪降ってますよ劾さん」と後ろ姿のまま伝えた。
そう言われた劾は、窓から外の天気を確認する。
言われた通り外は天使の羽の様に、雪が静かに舞っていた。
「いやー、寒かったです!急に降り出して頬と手と首周りがチクチクと痛く感じましたよ」
独り言なのか話しかけてるのかは分からないが、部屋に声が響く。
腕時計に目をやりこの雪の降り方だと帰りの電車と翌朝の出勤に響くと言う理由で、劾は今日の仕事は終業と即座に判断した。
迷いもなく劾は仕事モードをスイッチオフするかの如く青いネクタイを一気に緩め、Yシャツのボタンを2、3個外し首筋から胸元まで露わにさせた。
「了解した。雪が降ったなら、オレも帰ろう」
「劾さんも帰ることにしたのですか」
振り向くと、スーツを着崩した姿になっていた。
いつもキリッと場の空気を引き締める様な印象から、一変しラフだがどこか男らしいさが漂う。
その姿につい目を泳がせる。
「あれ?劾さんネクタイ緩めましたか?雰囲気ずいぶん変わりましたね
でもその格好じゃ、コートを着てマフラーを巻いても身体冷えますよ?」
「ああ、今日はこれで終業だ……目の前のクライアントの『願い』だからな……この姿でも大丈夫だ」
「目の前のクライアントの『願い』……んー……!……あっ、さっきの話の続きですか?報酬のホットコーヒーおごりますよ?」
「むしろ、オレの方が報酬も支払わなければならない。これは雪降っている事を教えてくれたお礼だ。それに―」
「それに?」
「ホットコーヒーを片手に駅に向かう間、もう少し目の前のクライアントの事も知りたいからな」
「……!!」
仕事モードを抜けた劾の表情は、いつもより柔らかかった。
目の前の頬は、熱くなった気がした。
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