08. 誘因を求めて

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島原で宴会をしていた新選組の幹部達。


そこへ浪士を投げ込み、乱闘騒ぎを起こした男がいた。


もんぺ姿で鞘から引き抜いた刀を肩にかけ、踏ん反り返った少年だ。
それなりに強そうだが、驚いたのは彼が例の“紙”を斬れたことだった。


「おま……っ、狛神……!?」


「なんだ、烏丸の馬鹿じゃん」


そして追うようにして現れたのは、先日から新選組が接触を試みていた人物たち。


「久しいな、茜凪


「狛神……」



怒号を聞きつけて、宴席へと駆けこんできたのは烏丸と茜凪


黄色い瞳をにんまりさせて、笑んだ彼ともどうやら知り合いのようだ。


新選組を巻き込んだ戦いは、着々と決戦へと向かい始めていた……。





第八幕
誘因を求めて





「お前がなんでここに……」



烏丸は、信じられないという表情で狛神と呼ばれた少年を見つめる。


もっと驚いた表情を隠せなかったのは、廊下と障子の間で茫然と立っている茜凪の方だった。



「なんでって聞かれてもな。俺がどこにいようと烏丸には関係ねーだろ」


「はぁ……。相変わらずの物言いだな」



烏丸が苦笑いしながら答えれば、その少年……―――狛神は立ち尽くしている茜凪の方へと視線を向ける。



「にしても、烏丸。お前も相変わらずだな、茜凪と一緒に行動してるなんて」


「悪いかよ。ごんの隣は落ちつくんだ、馴染みだから」


「そのまま祝言でもあげて平和に暮らしてろよ。こっちは処理すっから」


「好き放題言いやがって……」



あの温厚な烏丸の額にピキッと青筋が立ったのを見て、平助が原田の着物の裾を引っ張る。



「な、なんか話が見えねーけど止めなくていいのか?」


「そ、そうは言われてもな」


「険悪な空気だしよ……」



平助と原田の会話に永倉も加入して、ひそひそと話しながら事の成り行きを――とりあえず――見つめる。


沖田と斎藤は、話が読めない事態だったがなにか情報が得られるのではないかと耳を立てていた。


烏丸が狛神に言われっぱなしになっているのも流せない程になってきたので、茜凪が止めに入ろうかと足を踏み出した時だ。



「狛神」



水を打ったように、全てを鎮めるような声が届く。この声に茜凪には聞き覚えがあった。


浪士達が投げ飛ばされたせいで壊れた襖の入口を見つめれば、そこにはもう1人の男が立っていた。


「そのくらいにしてあげたらどうですか?烏丸も、そろそろ黙っててくれませんよ」


「水無月の大将……」



悠然とした佇まいで現れたのは着流し姿の男。
この男が声の持ち主だ。


鮮やかな青い着物をまとい、飄々とした雰囲気で現れたその人物は、宴席を見渡して…笑う。



「君がこんなにしっちゃかめっちゃかにしたせいで、新選組の人々も驚いてらっしゃいます」



人とは思えない水色の髪。
切れ長の細い眼が、その場にいた者全員を捕える。



「水無月……!」



彼の名を呟いたのは、今度は茜凪だった。


その表情は、あまり嬉しそうなものではない。嫌っているわけでもなさそうだ。
単に“何故、ここにいる”と問うてるよう。



「久方ぶりですね、茜凪。まだ貴女が侍女をされていた頃以来でしょうか……」



懐かしむような口調で問われたが、茜凪は彼に答えることは無かった。
烏丸も、襖の奥から出て来た水無月と呼ばれる男の登場に、更に表情を崩していく。



「綴!お前も来てたのか……」


「お久しぶりですね、烏丸も。元気そうでなによりです」


「馬鹿は風邪ひかないっていうだろ。烏丸に不調はありえねーよ、大将」



宴席の中心で烏丸、狛神、水無月の会話はそのまま続けられていく。


気にしたら負け。というより最初からさほど気にしていない素振りで茜凪が斎藤と沖田の間を超えて地に落ちていた紙を拾い上げる…。



「この紙は……」



白く人型のそれは先程、狛神が斬ったもの。
形状、紙質、大きさ、そして術者の気配。


全てを見抜くような翡翠色の瞳でただただ紙を眺める。



「同じ……、ですね」



茜凪が立ち上がり、紙を手に出口の方へと視線を向ける。
その仕草を見て、すかさず彼女を沖田と斎藤が止めた。
このままだと逃げられてしまうと悟ったのだ。



「待て」



未だに烏丸や狛神、水無月と呼ばれた者の意味のない会話が続く中、狙いを定められた茜凪は大人しかった。


表情がないとは言わない。
きちんと人らしく、だが大人しく物静かでありつつも、志を映した彼女の瞳が斎藤たちを捕えた。



「今日こそ、説明してもらわないとね」



先日から現れては消えての繰り返し。
新選組の立場からしてみれば、確かに逃げられてばかりで不服だろう。


象徴とするように、背後では不機嫌そうな顔で平助がぶすーっとしながら茜凪を見つめている。
宴席を喧嘩の舞台にされて、尚且つ情報が掴めなかったとなれば確かに面目丸つぶれだ。


だが……茜凪たちからしてみれば―――話す訳にはいかない。



「あんた達、一体何者だ」


「俺達の宴席をここまでめちゃくちゃにして、“話せません”なんて許されると思うなよ!俺の酒になにしてくれやがるっ!」



永倉もここぞとばかりの嘆きの追撃を差し向ける。
茜凪は少しだけ悩む素振りを見せたあと、まるで落語ではないかいう反応で答えた。



「話せません」


「おいぃ!俺の話聞いてたか嬢ちゃんよぉ!」



永倉がいつもの調子で言うものだから、茜凪も表情を少しだけ崩して眉を悩ましげに寄せる。



「新ぱっつぁん、話が逸れるって」



平助が止めつつ、手元にあった酒を渡してやれば永倉は未だに茜凪を不服そうに見つめていた。


一人詰められる中も、少女はとても冷静だった。
少々困惑はしていたものの、相変わらず口が割れる相手ではなさそうだ。



「宴席をめちゃくちゃにしてしまったことは謝ります。申し訳ありません」


「なら、そのお詫びってことで洗い浚い話してくれない?」


「……」



沖田が問えば、茜凪は再び黙る。


翡翠の視線を流したところで、助太刀するように答えたのは…―――この場で最も口を開かなければよかったと思う人物。



「お前らに話すことなんて一つもねーよ」



挑発するように答えたのは、狛神だった。
その大きな態度に、沖田が“へぇ”と口元を歪ませる。



「たまたま巻き込まれただけの奴らに、こっちの事情を明かして何の得になるってんだ」


「たまたま?こっちはもう何度も迷惑してるんだけど」


「そりゃお前らの運が無いんだろ」



沖田の眼光が鋭く光る。
狛神も対抗するように眼を細めた。



「狛神、やめろって」



烏丸が止めたがもう遅い。
茜凪も口を開こうか迷ったが、この機に乗じて喧嘩を吹っかけたのは沖田だった。



「仮に僕たちに運がないだけだとしても、陰でこそこそ紙を斬り回って人様に迷惑かけてる君たちは全然潔くないよね」


「あァ?」



「紙が斬れるだけでなんだってのさ?そんなに大きな態度でいられても説得力ないよ」



沖田の煽り方を聞きながら、さすがに斎藤と平助が『言い過ぎでは?』と思い視線をぶつけ合う。
しかし、沖田には沖田の狙いがあった。


狛神の性質を見抜いていたのかもしれない。
茜凪や烏丸よりも、煽ることで口が軽くなるのではないかということを。



「むかくつな、お前」


「だったらさっさと話してよ。用が済んだら君の前から消えてあげるから」


さながら対峙をやめるときは、沖田が狛神を切り捨ててしまうのではないかと周りからは思えた。
ばちばちと火花が飛んだ中、沖田の狙い通り。
ついに条件が提示される。


「そんなに聞きたいなら、この俺様に吐かせてみろよ」


「ちょ、オイ待て……」


「狛神!」


「俺を斬ったら、答えてやる」


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