41. 復活の説
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
寄る辺もなしに、風間に追いだされてしまった茜凪は仕方なく、とぼとぼと天王山の麓まで歩いていた。
この先に求めた答えに近付けると思えば嬉しいと感じたが、先程から心は寂しくて仕方ない。
同時に思い知る。
自分は、平和な日々の中で“藍人のために”とか言っておきつつ……いろんな事から逃げているだけなのだと。
結局、今の自分は誰も救えていない。
風間には叱咤され、追い出され、挙句に彼は自分のために答えへの導きをしてくた。
情けなくて、弱くて、悲しい。
滲みだした涙をごしごしと拭うが、拭うも間に合わず溢れるばかり。
自業自得であるのに、誰かに慰めてほしいと甘えた自分がいた。
「風間様……」
それでも足は天王山へ。
ゆっくり、ゆっくりと進みながら時刻は間もなく黎明を迎えようとしていた。
第四十一幕
復活の説
「追いだした……!?」
「あぁ」
風間のもとに訪れた烏丸は、開口一番の言葉に絶句した。
天霧もさすがに申し訳なかったようで、渋い顔して目を伏せている。
「お、追い出したって真夜中に……ッ?」
「あぁ」
「マジかよ……」
烏丸は“信じらんない”という顔して茜凪の行方を探そうと障子に手をかける。
風間の下にいても仕方ないと思ったのだろう。
「俺はてっきり、北見の家か貴様の所にでも泣きついたと思ったがな」
「俺んとこには来てないし、朝方北見の家にも顔出したけど戻ってないって…」
「ほう」
風間のその反応に、烏丸は障子にかけた手を止める。
何故、そこで称賛のような声が出るのか、と。
「行方、知ってるのか?」
「知ってどうする」
「追いかける」
「フン……。烏丸、貴様はあの娘に惚れ込んでいるのか?」
烏丸と茜凪が仲がいいのは誰もが知っている。
しかし、こんなに懸命に彼女の行方を探そうとしている彼に対しては、誰もが抱く疑問だった。
だが、この頃から烏丸は即答していた。
「茜凪は俺の友達だ」
天霧も顔をあげ、風間も出て行こうと決めた烏丸の背を見つめる。
「俺の初めての友達だ」
「……」
「あいつがいなかったら、俺の根性はずっとひん曲がったまま死ぬまで荒くれ者で、誰にも心を開かずに生きてた。絶対に。でも茜凪は俺に心を開くための機会をくれた」
風間たちの頭をふと過ったのは、古来から言われてきたもの。
春霞と烏丸は犬猿の仲である。
それを―――次期頭首が覆す日も近いのであろう。
「だから俺は友達の力になりたい」
自分がしてもらったように。
力を分けてくれたように、勇気を与え、支えられる存在でいたい。
「それだけだ」
見事、と天霧は言いたくなった。
風間が告げなければ天霧が告げるつもりでいたのだろうが、鬼の頭領は烏丸の決意を聞き、素直に口を開いた。
「天王山だ」
「天王山?」
「麓に妖がいる。陰陽師の血を引く決して血筋の良いとは言えぬ、下等の妖がな」
「陰陽師の……ってことは、常井か」
「そやつらが貴様と茜凪が知りたい情報を握っているだろう」
それから風間は烏丸と目を合わせることはなかった。
京の町並を見下ろしながら窓辺で冷たく呟けば、彼の背中を押すこととなる。
「さっさと行け」
「ありがとな、千景!」
屈託のない笑顔を一つ残し、彼は宿を後にする。
バタバタと駆けていく姿を窓から見下ろせば、風間は鼻にかけて笑うだけ。
「天霧」
「何でしょう」
「あの小娘が恵まれたものを持っているのだとしたら……」
「えぇ」
それはきっと、彼女の周りにいた――
「仲間でしょう」
◇◆◇◆◇
ゆっくりと惑いながら歩いてきたせいで、天王山についたのは陽が昇ってから結構経った頃。
まだ禁門の変で破壊された街並みが所々に残る中、茜凪はボロボロの顔で麓の鳥居へと足を踏み入れていた。
結局、ここまで来たものの、何をどうしたらいいのかが分からない。
常井の妖に会い、何を聞けばいいのか。
自分が欲している情報が、何の対価もなく貰えるものなのだろうか。
「あ……」
常井の一族は関ヶ原の戦いよりも遥か昔人、と最も関わりを濃く持った一族であると言われていた。
陰陽師である安倍 清明と関わりを持ち、彼の下に仕える妖として常井の妖は名前を記し続けていた。
人間と婚姻を結ぶ者も多く、血筋は既に純血は失われつつあった。
主に呪いを得意とし、式神も扱うことは出来るが北見の者には勝る力である。
藍人と同じ力を使える者ということもあり、彼らのことは藍人から聞かされていた。
だから、常井の里の入口も予測は出来ていたのだ。
「強い結界……。あれが入口かな……?」
人の世に出てくることはほぼない常井。
今も京や日の本の状勢を占いだけで判断し、時の変化を見守る妖。
人と関わりを多く持つ妖だったが、現在は人から遠ざかるようにして生きているようだ。
だからこそ、里の入口には結界が張ってあるのだろう。
迷い、話すことも思い浮かばぬまま、茜凪はそのまま足を踏み入れる。
妖ならば通れる結界であることは読めていた。
害を成されることもなく、すんなりと抜けられた結界の入口を振り返り……茜凪は再び歩き出した。
一歩、二歩、三歩。
歩みを続けた所で、ふと体を吹き飛ばされるくらいの突風に見舞われた。
足が浮きそうになり、体勢を崩したところで腕を背後から強く引かれる。
「茜凪!」
「……っ」
本来の姿……天狗となった姿で現れ、人間に戻る刹那に声をかけられる。
一瞬、初めて見る彼の姿に誰だが分からなかったが、声で判断し答えた。
「烏丸……!」
「よかった、間に合った!」
―――本当ならば、自分も妖として変化できるはずなのに。
ぽつりと浮かんでしまった念は、口から飛び出る前に消し去った。
「何でここに……?」
「千景から聞いたんだ。お前が藍人のことに関して、常井に話を聞きに行こうとしてるって」
風間のところまで行き、わざわざ天狗になってまで追いかけてきてくれたのか。
有り難くもあり、同時に寂しさと情けなさから甘えてしまいそうになり、また涙に誘われるのを必死に隠した。
「俺も行くよ、茜凪」
「烏丸……」
「二人で聞いたほうが、話も二つの頭で理解できるだろ?」
“俺の頭じゃ役に立たないかもしれないけどな!”なんて笑い飛ばす彼。
滲んだ涙は隠しきれなかった。
だから、身長の高い彼の顔を見上げられない。
俯いたまま、そっけなく返した。
「そ……そうですか……。なら早く行きましょう」
「おう」
率先して前を歩きだした彼に、茜凪はどれだけ救われていたのか。
烏丸は知る由もなかった。
◇◆◇◆◇
「ごめんくださーい」
「……」
「誰かいねーのー?」
結界の奥の奥。
神社とも言えるような造りの建物が見えてきて、本堂の前で烏丸と茜凪は足を止めた。
呼びかけてみるものの、烏丸の反応に返事はない。
仕方なしに土足で踏み込もうとする烏丸を必死に止めながら、茜凪は言葉を続ける。
「ちょ、ちょっと待って下さい烏丸!」
「何だよ、聞こえてないなら入ってった方がいいだろ?」
「私達は結界も無断で超えて、ここまで来てしまったのですよ。せめて建物の中には誰か来てからの方が……」
「あー関係ないって関係ない!さっさと入ろうぜ」
「だから……っ」
そこまで言いかけて、茜凪と烏丸は動きを止めた。
背後にスゥ…と背筋を凍らせる悪寒を感じたからだ。
殺気というのだろう。
「茜凪」
「…っ」
ここは唯一、二人が僅か二年ほどで成長した面でもあった。
戦闘になれば、誰にも劣らない位の動きで振り返り、左右に飛び退く。
退くのと同時に清明印が書かれた札を投げ込まれたので、相手が誰であるのかは一目瞭然。
二人がそれぞれ着地したところで、背後の人物は腕を下げた。
「ほおほお。最近ここへ来る者は、それなりに腕が立つと見受ける」
「……」
「お前は……」
「いいことじゃのぉ」