19. 対峙

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突然といえば、突然のこと。
だが、来るだろうと読めていた。
故に不思議と浮かんできた感情に焦りはなかった。


それにしてもまだ受け入れられずにいる。
目の前に対峙をしてみれば、動き、剣をふるう彼の姿は本物で……。
あの日、あの時、自分たちが苦しんだことすら嘘のように思えた。



「藍人……っ」



外まで出て来た茜凪


目に捕えられる人物は、何度見ても北見 藍人だった。


境内の中にもちりばめられている、斬った後の紙。
どれを見ても人型で、操っていた人物がいることが分かる。


烏丸と、助っ人で現れた狛神と並び、茜凪も前を見据えた。



「ったく。本当に役立たずになるとこだな、お前ら」


「……」


「今日は狛神に何言われても仕方ないな。まさかここまでの数と力で攻めこまれるなんて、予想外だったし」



烏丸が苦笑いで笑む。


茜凪も目の前の男がどれだけの式神を扱えるのか知っているからこそ、少しだけ唇を噛んだ。


背後にいる者たちの安否を考えれば、ここは戦いに好ましい場所ではない。


耐えられると思ったのは、北見 藍人の“背後”にいる人物―――彼の主がどれだけの本気を見せているのかを知らなかったからだ。



「俺を斬れる? 凛」


「斬るさ。必要だからな」


「そう。なら、茜凪と狛神も同じ意見だよね」



すぅと誰からも薄気味がられる笑みを浮かべた男は手の中に複数の紙を握り、瞳を伏せた。


そして……―――



「なら、俺もお前らを殺すよ」



上げられた瞳が底光りした時、手の中にあった紙、そして地から再び湧くように現れた紙たちは人へと形を成した。





第十九幕
対峙






開戦された戦い。


ただ見ているだけになってしまう新選組は、立ち尽くしつつ協力できる場面を探していた。


境内に出ていた平助と永倉が、一度広間まで引き返す。



「どうなってやがる! あれ北見だよな!?」



平助が戦い続ける三人を見つめ、苛立ちを募らせる。


彼が納得できていない理由は、事情を話してくれない茜凪たちにあるのではなく、こんな状態でも手を貸せない。紙を斬れない自分にあるようだった。



「このまま僕たちに手を出させないつもりじゃないですか?あの子たち」


「……」


「どうするんです?土方さん」



乱戦が広げられる。
現れる幾多の紙、斬り伏せる力、宙を舞う白い欠片。
沖田の言葉に、土方はどうするか思考をめぐらせながら黙る。



「土方さん、斬れなくても俺達だって出来ることはあるはずだ。茜凪ちゃんや烏丸の助けになるなら、加勢した方がいいだろ!」



耐えかねた永倉が口を挟む。
今にも駆けだしそうな永倉を原田が押さえつつ、誰もが答えを待っていた。


しかし、結論が出る前に彼らの思考は途切れさせられてしまう。



「新セン組」


「!」



今までのどの式神よりも、ハッキリと喋る声。
背後の座敷に現れたのは、大柄の男の式神だった。



「どうやら事情を何も知らぬようだナ。こちらとシテは好都合」


「な……っ」



大きな太刀を構え、紙が完全に人と成した時。
男は機敏な動きで暴れ出した。



「死んでモラおう」



振りあげられた太刀が畳を傷つける。
誰もが飛び退き、鞘から剣を抜刀した。



「ずいぶんとハッキリ喋る紙だな」


「こいつも斬れない相手ってことか」



幹部に囲まれ、殺気を感じ取っても動揺しない相手。


にやりと笑みを浮かべた敵は新選組の陣中へと飛び込んだ。


その事実に気付くことが出来たのは、境内で戦っていた二人。


狛神と茜凪は、背後の広間が急に騒がしくなったことを確認し、振り返る。


烏丸は藍人に近付けるようにと、道を開くために前だけを見つめていた。



「あれは……ッ」




振り返った先で、この近日みかけたことのないような大男の式神と戦う幹部が見えた。


狛神も瞬時に確認して、茜凪と視線を合わせる。


一度頷き合えば、狛神が言い放った。



「二人で抑えるッ!行けッ!」


「……っ」



境内にはまだ溢れかえるほどの式神がいて、操っている当の本人にはまだ届かない。


烏丸が懸命に道を開くために凄まじい力と速さで戦っているが、まだだ。


狛神の言葉に迷ったが、茜凪は踵を返し大男の式神に挑み始めた。



「はい」



返事一つを返して、持てる己の力で駆けあがった。
狛神は彼女の後ろ姿を捕えると、再び烏丸に加勢していく。



「ぐぁッ!」


「平助……!」



雑魚の式神ではなく大きな男の式神を相手にする幹部達は、苦戦を強いられていた。


平助が天霧と戦った時のように襖を超えて投げ飛ばされる。
傷を負っただろう、軽傷とは言えない音だった。


何本取ったかも知れない程、斬り合ったはずだがそれでも男は倒れないことで敵が人外であることを示している。


頭を打ったらしい平助が苦しそうに蹲れば、前に出る斎藤と永倉。
対抗はするが、式神は圧倒的な馬力は人離れだった。



「私は他の式神とは違いマス。藍人サマより作られシ、特別ナ式神」


「クソ……!」


「新選組に死んでモライタイたい理由はただ一つ」



そう言い、男が見つめたのは部屋の端で山崎に守られ隠れていた千鶴だった。



「彼女の命が欲しいのデス」


「千鶴の!?」


「我がアルジ・藍人様が貴方たちを狙う理由は別にもあるでしょう。デスガ私が仰せつかった戦う理由は彼女の命を奪う事のみ」



構えられた太刀が、一瞬だけ解かれる。



「彼女を差し出すというのならば、貴方たちを殺す必要は私にはない」


「ふざけんな」



真っ向から対立を示したのは土方だった。


もちろん、ここにいる誰もが彼女を渡し、助かるという取り引きを呑む者はいないだろう。



「新選組が一度預かると決めた奴を、簡単に差し出すと思ってんのか」


「ましてや僕たちの延命の為だけになんて。ありえませんよね」



決別したことを悟る式神。
感情が読めない表情を浮かべたのち再び太刀を構えた。



「ナラバ、主命を果たすのみ」



畳を蹴り、再び向かってくる敵。
行く先は、背後にいる千鶴と山崎の所だと読めた。


道を防ぐように斎藤と沖田、原田が槍と剣を翳すが馬力で押し返される。


簡単に敵を行かせてしまう結果となり、振り返った時には襲いと思われた。



「千鶴!山崎ッ!」



土方が追いかけるが、間に合うだろうか。


全ての時がゆっくりに感じられる瞬間。


風が誰しもの頬を撫でた。



「―――!」



疾風を感じたからか。
または、その疾風がとある人物だと理解したからか。


男は、急に退きを見せる。


刃を交えるでもなく、背後に新選組の幹部がいると分かりながらも、男は足を止めた。



「なるほど。貴女がかの有名ナ……」


「斬れる者とわかったら退くんですか」



止まっていたかのような時が動き出す。
目に捕えられるようになってから、声の主が重なった。



……っ」


茜凪さん!」



剣を交えるまで行かなかったが、座敷に飛び込んできた茜凪が男と対峙を示す。


瞳の奥に怒りが見えた。



「“鬼の威を借るキツネ”とはよく言ったものですネ」



男が賛美するように茜凪に言葉を向けた。


“鬼の威を借る狐”。


誰しもの耳に響いた言葉。


千鶴はふと疑問に思う。


“鬼の権力を借り、背に隠れる狐…?”という意味だろうか。と。




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