海鳴り
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「ゾラー!見て見てー!」
ぼうっと浅瀬に佇んでいたゾラの耳に楽しげなリタの声が届く。振り向くと、リタが何かを掲げながらゾラに向かって走ってきているのが見えた。
「それは……貝?」
「うん。さっきそこで見つけたんだ」
リタが手に持っていたのは2つの巻貝の貝殻だった。小さな巻貝たちは水しぶきによって潤い、燦々と輝く太陽の光を一身に浴びてきらきらと輝いていた。ゾラとリタにはそれらが絵本に描いてある宝箱の中から飛び出してきた宝石のように感じられた。
「これ、ゾラに片方あげるね」
「いいの?ありがとう」
「えへへ、どういたしまして!」
それから2人は海をめいっぱい楽しんだ。波から逃げたり、砂の城を作ったり、時折疲れて海風を受けながら木陰で休んだ。そうしたときは決まって海鳴りが優しくゾラとリタを包み込んでくれた。
「リタ、そろそろ帰ろう?」
「そうだね、帰ろっか」
太陽は傾き、橙色に染まろうとしていた。
二人を乗せた箒が海との別れを惜しむようにゆるやかに上昇していく。箒は大きく旋回すると、海を背にして飛び去った。
ゾラの家の前に着いた。辺りはすっかり茜色だった。
リタが小さく伸びをした。
「楽しかった~!また行こうね」
「うん」
「ザラさんに心配かけるといけないから、今日のことは私とゾラの秘密にしよう」
「……わかった」
「約束だよ」
「うん、約束する」
「じゃあまたね」
「またね」
夕焼けに照らされて歩くリタの後ろ姿を、ゾラはリタが見えなくなるまで手を振りながら見つめ続けた。
リタが見えなくなってから少しして家の扉を閉め、夕飯を作り忘れていることに気付いたゾラはあわてて台所へ向かった。今日は簡単なものにしよう。パンがまだ残っていたはずだし、スープはたまねぎと、ベーコンを少し入れようかな、などと考えながら。
深夜、ふと目覚めたゾラは今日の昼のことを思い出して、リタと拾った小さな巻貝を戸棚から取り出し、手のひらに乗せて眺めた。窓から射し込む月明りに照らされたその巻貝は、昼と変わらずきらきらと水に濡れたような輝きを放っている。滑らかな曲線を描いて収束する巻貝の先端は、どことなくリタの棘魔法に似ているように思えた。
巻貝を耳にあてる。リタと木陰で一緒に聴いた海鳴りの音が幽かに聴こえた。寄せては返すその海鳴りは、いつしかゾラを眠りに誘った。ゾラは大きなあくびを1つして巻貝を戸棚にしまい、いびきをかいて眠っているザラの隣のベッドにもぐりこむ。
もそもそと布団が動いた後、やがて小さな寝息が聞こえ始めた。
おわり 2019.5.16
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