このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

【zmem】手紙

ゾムさんは優しい。
3流ドライバーの私を戦場へ連れ出してくれる。
こんな私に優しく笑ってくれる、話しかけてくれる。
そんなゾムさんに私が恋に落ちるのは当然のことだったのかもしれない。
だけど私は勿論ゾムさんが女の人が好きなことなんて知っている。
だからこの気持ちを伝えるなんてことは二度としない、と思っていたのに。

「…余命、1年ですか…」

医者であるしんぺいさんから渡された紙に書かれたその数字。
どうやら私は元々色素とともに免疫もなかったようで。
どうやら流行病にかかってしまったらしい。
……治療法のない、流行病。
進行するにつれて記憶の無くなって、最後は気が狂って死ぬこの病。
このまま記憶が無くなっていくならばここにいても迷惑をかけてしまう、と私はここを出ていくことを決意する。

「グルッペンさんには伝えましたし…あとは…」

ふと、机の上に置きっぱなしにしていた1枚の手紙のセットを見つける。
昨日の夜、どうせなら伝えてしまおうか?と書こうとしたゾムさんへの手紙。
そっと椅子に座り、ペンを手に取る。
白い紙に、黒い文字を走らせていく。
夢中で書いて、書いて、書いて。
何枚もの白い紙が、黒い文字で埋められて。
けれど結局、封筒に入れたのはたった1枚だけだった。
封をして、ついでに書いた他のメンバーへの手紙と共にそばにいた蝶の群れに手紙を託す。

「……一年半後に届くように、配達してもらいましょうかね。」

その頃には、どうせ死んでいるから。
答えは聞けなくとも、彼に気持ちが伝えられるだけで構わない、と自虐的に笑う。
そっと荷物をまとめ、3年ほど住んだ部屋をあとにする。
真っ暗な、寝静まった深夜。
私は一年半後に私の死亡を伝えてくれるように頼んだグルッペンさんの協力でこの国を後にした。
1/3ページ
スキ