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原作・ミクトランパ軸のSS

明日への支度

カルデアに敗れ、ミクトランパに流れ着いてから体感一年ほど。

デイビットが楽園を去る日が来た。
波瀾に満ちた人生を終え休息を得た戦士は今日、新しい生へと生まれ変わる旅に出る。
次がどんなところで、デイビットがどのように生まれつくかは神にもわからない。



二人は最期の時を、後片付けに使うことにした。
どの“今日”が最後になってもいいようにと、一日たりとも無駄にせず全力で遊び、くつろぎ、抱き合った二人だが、こればかりは今しかできないことだからだ。

ミクトランパで過ごすうちに増えたものを一つ一つ仕分けしていく。

二人で見たDVD、ゲーム機、落書きだらけのメモ帳、遊園地で撮った写真、フィールドワーク中に見つけた虫の標本、エッチな道具、テスカトリポカからこぼれた黒曜石の欠片…

楽しかったな、こんなこともあった、と笑いあいながら、ほとんどが捨てるものに分類される。

基本的に何も持っていかない。どうせ抱えて生まれられないのだから。

テスカトリポカも残さない。これはデイビットのために用意したものだから。持ち主と共に、埋葬されるべきモノたちなのだ。



結局デイビットが残したのはお面と一揃いの服だけだった。

お面はどこぞの祭りを模した施設で遊んだときに、デイビットが選んだものだ。ジャガーの王がつけるそれとよく似た面は、被ると不思議と闘志が湧いた。
来世でもテスカトリポカに認められるような戦士になる、という誓いの証として、心臓に一番近い場所に忍ばせる。

服は、いつも同じものばかり着るデイビットにオシャレというものを教えようとしてテスカトリポカが用意したもののの一部だ。
今を生きる若者として違和感のない装いを身に纏う。その軽やかさにデイビットは、今度こそ人間として生まれられるような気がした。



そうしてわずかな時を過ごし、一言別れを告げたデイビットは振り返ることなく去っていった。

テスカトリポカはその姿が見えなくなるまで見送ると、腕を一振りし、デイビットが残していったモノと二人で過ごした空間を躊躇なく消した。
まるで何事もなかったかのように、綺麗さっぱり元に戻す。
ここを管理する神なら造作もないことだ。



だが、そこに残ったものがあった。

ここに来たときデイビットが着ていた服。ミクトランパで作られたものではないから、テスカトリポカの“戻す”動作から逃れたのだろう。

もちろん今この楽園の中にある以上、改めて消すことは簡単だ。
テスカトリポカはデイビットの服に向かってゆっくりと手を伸ばし、

「…………神の目をくぐり抜けたんだ。許してやるとしよう」

そっと全て抱え、煙の向こう側の、楽園のどこかへ静かに去っていったのだった。
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