ドフラミンゴ
name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
※【つなぎとめてよ】の続編です。
彼には“必ず”という言葉がついてくる。
彼が手を出す事業や企画は必ず大きな富を生むし、彼が選んだ人間は必ず結果を出す。とにかく彼は……ドフラミンゴは失敗したことがない。普段はふらふらしていて、いい加減で信用などゼロの男だ。しかし、それでもセンスはいいのだ。それは仕事に限らず、服も家具も人間も……。
その中で選ばれた自分はどうなのだろうか。
ふと、そんなことを思うときがある。ドフラミンゴのパートナー兼恋人として彼に選ばれた○○。飽き性で熱しやすく冷めやすい性格のドフラミンゴは仕事に対してもそうだし、人間にしてもそうだ。最初は強く勧めてきた事業も、結果が出ればすぐに冷めて「○○、お前がやっとけ」おれは飽きた、と見向きもしなくなる。
それを考えれば上手くいっている方だ。
最初の方でこそ、浮気三昧のドフラミンゴに腹をたて、思いきり罵声を浴びせ家を飛び出していた。しかし最近ではもう懲りたのか、それとも浮気に興味がなくなったのか。“そういう問題”で○○を困らせることはなくなった。
それどころか、心なしか前よりも優しくなっている気がするのだ。
いや、繊細になった…というべきか。ドフラミンゴが人を気遣うことを覚えた。ただ、それは○○だけになのだが。疲れたなあ…とベッドに転がっていると。ギシッとベッドサイドに腰掛けたドフラミンゴ。「フフフフ! おれが揉んでやろうか?」このやらしい脳内ピンク男のことだ。やらしいことかと思い「馬鹿ね、疲れてんのよ」と一蹴した。遠慮するなよ、といきなり足を掴まれる。そして驚く間もなく疲れた足を揉みほぐされていた。拍子抜けもいいところだ。あまりの恥ずかしさに顔が赤くなる。自分から言い出したこともあって、なかなかに上手い。気付けば○○は眠っていた。そのときは幸せだな…と思っていたのだが。
この頃ドフラミンゴは変だ(元々変人ではあるが)。
何か難しい顔をして雑誌を読んでいたり、プライベートビーチでぼーっとしていたり、かと思えば何か想像してにやついていたり……など。元々の“変人さ”に輪を掛けておかしいのだ。
そこは彼女である○○が「ドフラミンゴ、あなた最近変よ?」と言うべきなのだろう。だが、○○もドフラミンゴが手を出した“ウエディングチャペル事業”で忙しく、彼を気遣う暇もないのが現実だ。
(あー……もう)
書類をパサッとデスクに置き、手で顔を覆う。
ここはいわゆるふたりの“愛の巣”だ。いくつかの中のひとつ…大きなプール付きの別荘に来ていた。愛の巣、とは言ってもそれは夜だけで、昼はもっぱら○○の仕事部屋だ。
(……ドフィ……)
ドフラミンゴのことを考えればすぐにこれだ。集中力が途切れ、他は何も考えられなくなる。元々、恋愛と仕事を両立できる器用な女ではない。よくあんな適当男と続いてるものだ、と小さく溜め息をつく。
もやもやする気持ちとは裏腹に、心地よい風が身体を撫でていく。顔を覆っているため見えはしないが、白いカーテンが揺れているのだろう。パタパタと小さな音が聞える。
組んだ足が宙で力無く揺れ、パンプスがタイル張りの床に落ちた。
「オイ、どっか痛ェのか?」
「っ! ドフィ…」
驚いて顔を上げれば、ドフラミンゴが珍しく心配そうな表情で覗き込んでくる。いつの間に帰ったのだろうか。まったく気付かなかった。
風に誘われ、ふわふわと踊るピンクのファー。触れれば意外と柔らかい金髪。○○を強く抱くその腕、頬に触れる厚い胸板。冷たいデスクに触れる節くれだった指。サングラスの奥の瞳。
無言で彼を見つめていると、心配になったのだろうか。「ん?」とこたえを催促するように髪を梳いてくる。その感触に現実味を取り戻し、「大丈夫よ、ちょっと疲れてただけ」と微笑んだ。
その返事に満足したのだろう。不意にドフラミンゴが長方形の平べったい箱をデスクに乗せる。そして○○の方に寄せてきた。
「なに、これ?」
「いいから開けてみろ」
首を傾げると、ドフラミンゴはぞんざいに椅子を引っ張ってきてドカッと座る。箱のブランドのロゴですぐに服だと分かった。しかし一体何だというのだろうか。急なことに意味が分からず、首を傾げる。箱を手に取り、赤いリボンをといていく。そしてゆっくりと開けた。
「わー……綺麗なドレス……」
そこに入っていたのは綺麗な色をしたドレスだった。箱から出して広げてみると、まるで人魚の尾ひれのように美しいドレープが特徴的だった。ドフラミンゴが選んだにしてはシンプルだが、○○にはドストライクだった。きっとそれを分かっていて、買ってきてくれたのだろう。見事にこのドレスに一目惚れし、○○は珍しくはしゃいでいた。
「すごく、いい」
うっとりしながら言うと、ドフラミンゴは手の甲に顎を乗せたまま「だろ?」と低く笑った。
「何かパーティーでも?」
「いや、おれの気分だ。お前の喜ぶ顔が見たくてな」
「……」
予想外の言葉に驚き、ドフラミンゴを見つめる。服を贈るのは大抵何かのパーティーか、ディナーの誘いが多い。今回もそうだと思っていたのだが。
しかし、冗談を言っているわけではなさそうだ。「似合うと思ってな」と服をプレゼントされたことはあっても、「喜ぶ顔が見たくてな」と言われことはない。
(一体どうしたっていうの?)
こんなこと初めてじゃない、と“疑わしさ”がふつふつと湧きあがってくる。そこで可愛い女ならば「嬉しい、ありがとう」と心の底から喜べるだろうに。疑い深く“可愛くない女”の○○は少なからず疑わしさを抱いてしまう。
最近優しくなったと思えば、突然のプレゼント。まるで何かが起きる兆候のように感じてならないのだ。それが良いことなのか。はたまた悪いことなのか。
何考えてるの、とドフラミンゴを見つめていると。
「フフフフ! 着てみろよ。そのために買ったんだ」
疑いを抱いているなんてこれっぽっちも思っていないのだろう。上機嫌ですすめてくる。
「え、いま? カーテン開きっぱなしだし……」
「ここには誰も居ねェし、誰にも見られねェ」
「……」
あんたが居るじゃない、と呆れる。こういう関係になって長くても、こんな真昼間に裸になるのは躊躇われる。しかもドフラミンゴが手を出さず、じっとこちらを見ているだけだなんて……尚更だ。だがプレゼントしてもらった手前、無下に断るわけにもいかない。結局はドフラミンゴの言いなりになってしまうのだ。
公開生着替えなんてどんな罰ゲームよ、と思いながらジャケットを椅子に掛ける。ブラウスのボタンをひとつひとつ外していく度、露わになる肌。ドフラミンゴはあおるようにヒュ~…と口笛を吹いた。それはかぶりつきたくなるような鎖骨にか、白い肌に対してなのか。はたまた胸の谷間に散る、彼がつけた“所有の証”に対してなのか。
ぱさっ、とブラウスを脱ぎ捨てる。椅子から立ち上がり、パンプスを床にぞんざいに転がす。スカートのチャックを降ろす音が部屋に響いた。
サングラスをくいっと上げ、脚を組みなおすドフラミンゴ。何も言わなくても、その目を見れば彼が欲情していると分かる。触れ合ってもいないのに、そんな彼を見ているとこちらまでそんな気分になる。
するする…と脚を舐めるように滑り落ちたスカート。壁に備え付けてある鏡に映っている自分はブラジャーにショーツ、ガーターベルトと酷く蠱惑的な姿だった。
「…これでいい?」
さすがに裸になれとは言わないわよね?と暗に匂わせる。すると、裸にするつもりだったのだろうか。一瞬「おいおい…」と残念そうな顔をしてみせた。
「仕方ねェなあ…」
ドレスを投げて渡され、滑るような素材にうっとりしながら、裾を通していく。肌に吸いつくような感触がとても心地いい。肩まで手繰り寄せれば、先程まで観客になっていたドフラミンゴが徐に立ち上がった。なに?と上目遣いで見上げる。すると「おれがやってやるよ、」と背後に回ってチャックを上げた。
目の前の鏡に映る、ふたり。
上機嫌のドフラミンゴと、機嫌は良いが疑いの眼で彼を見つめる○○。
「よく似合ってる」
「ねえ…ドフィ、」
「嬉しいか?」
彼に本当のところを訊こうとした。しかし上機嫌のドフラミンゴの問いかけに言葉を飲み込んだ。
鏡越しに見つめてくるドフラミンゴ。腰に置かれたその手は熱い。
「……うん、すごく嬉しい」
○○も鏡越しに微笑む。するとククット笑らい、「そうか、そりゃァよかった」と言うのだ。こうなれば疑う、というのも無粋な気がしてきた。たまたま機嫌がいいのが続いてるだけね、と自分を納得させる。
「なあ、○○」
「なに?」
甘えるように頬を擦り寄せてくるドフラミンゴ。くすぶったくて小さく笑いながら返事をする。
「チャペルの件は進んでるか?」
「え?」
いきなりなによ、と鏡越しに首を傾げる。こんなときに仕事の話を持ち込むなんて彼らしくない。
こないだも同じようなことがあった。もつれ合うようにベッドに沈んだふたり。不意に企画書のことを思い出し、「ねえ、あの仕事のことだけど…」と切り出す。すると、少しむくれて「こんなときに仕事の話をするんじゃねェ」と機嫌を損ねてしまった。とにかくドフラミンゴはそういうときに仕事の話をされるのを嫌う。それ以来○○も、仕事とプライベートを分けるように気を付けていた。
しかし、そんな彼が一体どうしたのだろうか。そんなにチャペルのことが気になるのだろうか。
「チャペルなら順調に着工に入ったけど……どうかした?」
「いや、それならいい」
そして何事もなかったように抱き締めるのだ。本当にどうしたのだろうか。疑わない、と決めたはずなのに不安がこみあげてくる。
「なァ、○○」
「……今度はなによ?」
まだ何かあるの、と彼を見つめれば。最早言葉にするつもりもないのだろう。腰に置かれた手が這うように身体を滑るのだ。それは身体の凹凸を確かめるようでもあったし、すでに脆くなっている○○の理性をぶち壊すようでもあった。
先程下着を脱がさなかったのは、こうするつもりで“お楽しみ”をとっておいたのだろう。つくづく頭が回る男ね、と心の中で皮肉る。
右手が下肢へと、左手が上肢へと滑ると、○○は耐えきれず名を呼ぶ。
「ド、フィ……あ!」
「ん? なんだよ」
止めるつもりは一切ないのだろう。両手は身体を愛撫し続けているし、「早く味わいたい」とでも言うように耳を甘噛してくる。
「んっ、いま……着たところなのに」
吐き出された吐息は甘く、ずり落ちた肩紐は途切れそうなふたりの理性のようだった。
愉しそうにほくそ笑むドフラミンゴ。それが快楽へと誘うときと同じで、微かに鳥肌がたつ。なァ…知ってるか?と囁く低い声は欲情で掠れてた。
「男が女に服を渡すのは、脱がすため…っつー名言がある」
男に都合がいい名言ね、と笑いながらドフラミンゴの手に指を絡ませる。更にその長い脚を指先ですりあげれば、「ウ~…」とあおるように唸り声を上げる。そして、そっと息を吹きかけるように問いかけた。
「誰の?」
「おれの」
フフフフフ!と楽しそうに笑うドフラミンゴ。○○は呆れ顔で「馬鹿なひと」と言った。今ので冷めたわよ、と軽くあしらう。すると「嘘つくなよ」と確信的な部分を触ってくるのだ。快感に震える声で「やらしい男」と下唇を噛んだ。鏡越しにフフ…!と笑い、「今更」と首筋を噛んでくる。
不意に。
ドレスが入っていた長方形の箱に目が行った。だが重要なのは箱ではない。何かが箱と机の間に挟まっていた。雑誌のようだ。
(“HAPPY WEDDING”……?)
あからさまなタイトルと、“サイズ合わせ”のようなドレスのプレゼント。ウエディングチャペル事業に、最近の優しさ。
それに……指のサイズを測るような手つきに。
One thing remains
doubtful.
疑わしさって……“悪いこと”ばかりじゃないのね、と微笑した。
fin.
3/3ページ