ドフラミンゴ
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※一部暴力的な場面があります、ご注意を
○○はドフラミンゴのパートナー兼恋人だ。
彼がそう断言するのだから、そういうことなのだろう。
確かに、○○は彼のもつ会社の殆どの運営を担っている。シャボンディ諸島を中心に、人間屋、ショッピングモール、ホテルにカジノ……。いくつもの会社を動かす日々。暇な時間など無に等しい。
大きな交渉に成功したり、店の売上が上がると、ドフラミンゴは決まって「○○、お前は本当デキる女だな」と褒めてくれる。後ろから抱きついてきた男を心底愛しく感じる。しかし、○○は素直ではない女だ。売上表で彼の頭を軽く叩き、「当たり前でしょ、」と軽く受け流していた。本当は褒めてくれる度、嬉しくて仕方ない。だが性格的に素直に甘えることなどできないのだ。
それでもドフラミンゴは○○の胸中などお見通しなのだろう。
「褒めて、って言えよ」と唇を撫でてくるのだ。そうやって素直になるきっかけを与えてくれる優しさは、○○しか知らないものだ。冷たい指先を辿り、そっと振り向く。彼の首に腕を伸ばし、「……ドフィ、褒めて……」と小さく囁いた。するとドフラミンゴは、「フフフフ! 素直じゃねェなあ…お前は」と楽しそうに笑いながら○○を抱きしめた。最初から言えば可愛げもあったのにな、という言葉に多少むっとする。
ドフラミンゴはまるで甘えるように、○○の首筋に頬を擦り寄せる。裏社会の住人で、“ジョーカー”の通り名を持つドフラミンゴ。その彼をまさか「可愛い」だなんて言えない。けれどそんな一面を知っているのは自分だけだと思うと、自然と頬がほころぶのだ。
(ドフィが喜ぶだろうな……)
そう思えば、どんな面倒な仕事でもはかどった。ドフラミンゴの喜ぶ顔や甘えた顔を見たい一心だった。
………そう、頑張っていたのに。
(その結果がこれなの?)
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交渉成立の知らせの書類を手に持ち、○○は早速、自社ホテルへと戻った。
全会社の社長とはいえど暇を持て余す男。仕事に打ち込んでいるかと思いきや、「つまらねェ」と放ってしまうことも多々ある。きっと一階のクラブで一杯やってるだろうと思って訪れたのだが。
“CLOSE”の看板がぶら下がったクラブ。鍵が閉まってないことから、ドフラミンゴがそこにいるのだと確信した。重工なドアを押し、店内へと入る。夜の煌びやかな印象とは違い、今はあたたかな昼の陽ざしが差し込んでいた。店の“商品”である女が躍るお立ち台も、今はがらんとしている。ドフラミンゴはいつもカウンターに座ってウィスキーを飲む。だがその姿は他の場所にあった。
丸いテーブルに置かれたウィスキーのボトル。飲みかけのグラス。椅子に腰かけたドフラミンゴ、それを跨ぐように彼の膝の上に座る女。
女は際どい格好でドフラミンゴを誘惑していた。彼をその気にさせるように身体を擦りよせ、首筋を舐める。その“最中”のような動きにドフラミンゴも満更ではないようだ。フフフフ!……と薄い笑みを浮かべている。
(ねえ…わたしが馬鹿だって言うの? こんなにあっさり浮気されて)
その様子をまるで“観察”するよう見る○○。それに気付きもしないでふたりは深みへと
それが発進の合図のように○○は歩き出す。
するとバーに響くヒールの音。最初から気付いていたのかいなかったのか。ドフラミンゴは「○○、」といつもと変わりなく、何でもないようにこの名を呼ぶのだ。
(あんたはいつだってそうよ……)
その音にやっと女も気付いたようで、「副社長っ!」と急に声を上げる。その声、その顔、その姿。何をとって弁解するつもりなのだろうか。
(わたしを試すような真似して、)
いっそここで「何やってんのよ!」と怒鳴り散らせばよかったのか。無表情のまま近付いてくる○○に、女の顔は恐怖で引きつっていた。けれど構うことなく足を進める。空気を読まないドフラミンゴの笑い声が癪に障った。
(…どうしたいわけ?)
テーブルの上に置いてあったボトルを手に取る。ウィスキーのボトルはかなり重い。だが何の躊躇いもなく、振り下ろした。ガラスが割れる音と、鈍器が“なまもの”にぶつかる低い音。倒れる肢体。大理石の床に広がる赤い海と、散ったガラスの破片。
「………」
勿論女は意識を失っていたが、どうでもいい。その女は店の“商品”だった。出勤したところにドフラミンゴがおり、どちらかが誘ったのだろう。それさえも今となってはどうでもいいことだ。
ドフラミンゴにべたべたと触っていた女よりも、この状況で薄ら笑いを浮かべている男が憎くて仕方がないのだ。何ならこの割れたガラスの破片を顔に突き刺してしまいたい。
「オイオイいいのかよ? こいつ店のナンバーワンだぜ?」
「………」
確かにそこに血塗れで転がっているのは、このクラブで行われるショーの一番人気の女だ。自社のホテルの“商品”が駄目になった。それは売上にも繋がるし、もちろん客の信頼度にも関係してくる。
(だから何だっていうのよ……)
一番人気の商品だから許せばよかったというのか。馬鹿馬鹿しい、と女を軽く蹴飛ばした。替わりなどなどいくらでもいる。店の“商品”もそうだが、“○○の替わり”もはいて捨てるほどいる。
やってられない、とばかりに溜め息をつき、黙ってその場を後にした。
クラブを出てホテルのフロントを通り過ぎる。「副社長、あの…」とマネージャーから呼びとめをくらったが、相手をしている暇はない。裏切られた怒りがこみ上げ、熱湯のようにふつふつと沸騰する。自分でやりなさいよ、と目で伝えるとマネージャーは下がっていった。
カツカツ……!
廊下に響くヒールの音。それははからずとも怒りの大きさを表していた。
(あんたはわたしを裏切ることばかり)
それでもわたしを求める意味はどこにあるっていうの?
「フフフフ、フッフッフッ! おい待てよ」
浮気するぐらいなら捨てればいいのに。それでも追ってくる男に心底苛立つ。
能力を使えばすぐにでもこの身体を“静止”できる。だがそうすることなく、笑いながらぐだぐだと追いかけてくるのだ。まるでこのときを愉しんでいるようだ。
顔も見たくない。
ホテルの最上階はドフラミンゴとの“愛の巣”である。けれど今はそれもよそよそしく、空虚なものに感じる。絶対に出てってやる、と自分に誓うようにエレベーターへと乗り込む。いつもは人が多く、エレベーターが来るまで待たなければいけない。それなのにこんなにすんなり乗れるということは、出ていった方が賢明だということだろう。
誰かが乗ってくる前に、素早く開閉ボタンを押す。ゆっくりと閉まっていくドア。
「!」
不意にガッとピンク色の腕が差し込まれた。閉まりかけたドアはその反射でゆっくりと開く。すると迷いもなく乗り込んでくる男。その顔にはいつも通り笑みが浮かんでいた。
「…なによ、」
ドフラミンゴは何も言わず○○の目の前に立っているだけだ。一度に多くの客を乗せれるよう、このエレベーターは普通のものよりもかなり大きめに作ってある。しかし、ドフラミンゴが目の前に立つだけで急に狭苦しさを感じた。
すっと伸びてきた腕。しかしそれは抱きしめるわけでもなく、ただ○○の背後にあるボタンを押しただけだった。自分の意に反して動きだすエレベータにも、抱きしめられるかと期待した自分にも心底苛立つ。
エレベーターは“愛の巣”の階層へ向かうことを表していた。
軽い浮遊感を感じながら、目の前の男をじっと見つめた。ドフラミンゴの両手は壁に付いており、○○はその腕の中に閉じ込められていた。○○は決して目を逸らさなかった。そのサングラスには、好戦的な顔をした自分が映っている。
そしてドフラミンゴがくだらない言い訳を並べる前に、ふーっと溜め息をついた。
「浮気するならもっとマシな女にしなさいよ」
趣味丸出しよ、と苦笑する。
すると何を思ったのだろうか。フフフフ!フッフッフッ……と低く笑い、
「お前が最近構ってくれねェからよ…」
そう囁くのだ。
確かに最近、ドフラミンゴといちゃついた記憶はない。けれどそれはドフラミンゴが渡してきた案件に追われていたからだ。なァ○○、と抱きついてきたドフラミンゴを「今忙しいんだから後にしてよ」とその腕からすり抜けた。喜ばせたいと仕事に没頭するあまり、いつもより素っ気なく感じたのだろう。そんなことが続き、「あいつも最近冷てェし、」そう適当に遊んでいたのだろう。女の心中、男は知らず……というのはこのことだ。
「おれはこんなにお前のことを愛してんのになァ」
頬を撫でるドフラミンゴの指先。その冷たい指が唇をなぞると、肌が粟立った。とろけた表情をおくびにも見せず、○○は目であしらう。
「…あんたが言うとどんな言葉も嘘くさいわね」
大体、そんな理由でいちいち浮気されたらきりがない。
すると少しいらついたように、どこか困惑するようにドフラミンゴは肩を竦めてみせた。
「じゃあ、おれにどうしろってんだ」
そういうの逆ぎれっていうのよ、と○○は溜め息をついた。
愛の言葉を言えば言うほど嘘くささが滲み出るドフラミンゴ。つくづく信憑性に欠ける男だ、と思った。けれど信じられなくても心底憎くて苛立っても、この男でなければいけないのだ。浮気をされても「もうこれっきりよ」と関係を切らないのは、きっとそういうことだろう。そしてドフラミンゴも、フラフラしても結局戻るのは○○の元だった。“替わり”はいくらでもいる。だがドフラミンゴもこの面倒な女じゃないといけないのだ。
ふう…、と諦めたようにゆっくりと息をはく。それはドフラミンゴを誘惑するような、甘い溜め息だった。ピンクのファーコートを伝い、首の後ろに手を回す。そして強引に引き寄せると、「ウ~…!」とドフラミンゴが唸る。鼻先が触れ合う距離。もったいぶるようにヒールで彼の脚を擦り上げる。いつもの“最中”のようにその薄い唇を舐めると、快感の吐息がもれた。
耳に小さく口付け、まるで内緒話をするように囁きかける。それはとろけるような、甘い声音だった。
そんな言葉はいらないから身体で…その腕で、強く
繋ぎとめてよ
そう言うとドフラミンゴがにやりと笑って、「あァ…それがいい」と強く抱き締めてくる。苦しい程の抱擁。「もう淋しくさせんなよ、」という彼の囁きに、息苦しさを感じながら「そうね…」と苦笑する。誓えよ……、そう口付けられ、鼻から甘い吐息が抜けた。
この小さな箱庭の中、愛を確かめられるのはお互いの腕の中だけだ。
fin.