ドフラミンゴ
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○○は今、大変に焦っていた。
いや、焦っているという言葉では収集がつかないほどに。
重要な資料を胸に抱え、無駄に広く長い廊下を走る。聖地“マリージョア”で働けることは誇りに思っているし、やりがいのある仕事だと日々実感しているわけなのだが。
(せ、せ、せ、センゴクさ――――――――――んっ!!!!!)
今にも泣きだしそうになりながらその姿を追っていた。背の高い彼が見つからないはずはないのに、その姿はどこにも見えない。
寂しさと、またセンゴクさんに怒られるという恐怖で思いきり動揺していた。海軍本部の一員だというのに、足がもつれ、こけてしまいそうになる。
それは数十分前のこと。
まだ新兵である○○はセンゴクの元、その腕を磨いている。しかしのほほんとした性格もあってかドジが多く、一日に一回はセンゴクに怒られていた。その上、必至で作った書類はセンゴク最愛のヤギに食べられそうになったりと、とにかく忙しない。毎日ひーひー言いながらも、センゴクのおかげで成長している自分を感じていた。
今日は定期的に開かれる“集会”で、マリージョアでは海兵たちが急ぎ足で各々仕事に打ち込んでいた。それは○○も同じことで、センゴクに怒られながらも仕事を片付けていた。“集会”が開かれる際には○○も参加している。だが新兵である○○の仕事は主に資料を持ち、それを七武海に配るだけだ。
そして今日も集会に参加するため、いつものようにセンゴクの後を歩いていた。まるで一国の城のようなこの建物。何度訪れても、その構造を覚えられずにいた。○○は元々抜けてはいるが、更に重度の方向音痴であった。
そして、考え事をしているうちにセンゴクと離れ離れになってしまったのだった。
そして現在にいたる。
「せッ、せ、センゴクさ―――――んッ!」
走るなッとセンゴクにいつもなら怒られるがしかし、今はそうも言ってられない。後で怒涛のごとく叱れるのは目に見えていた。アホだのドジだの言ってくるセンゴクでも、まさか○○がこんなに頭が悪いとは思っていなかっただろう。何せ後ろをついてきていたはずの○○がなぜかいないのだ。なぜ迷子になってしまったのか、自分でも謎だ。
そして大変なことに○○は重要な書類を持っていた。この書類がなければ集会は開けないし、本題に入ることもできない。そうなれば、元々集会には消極的な彼らのことだ。せっかく集まった七武海も帰ってしまうだろう。
自分でもこんなにアホだとは思っていなかった。
先程から書類を胸に走っているのだが、しかし。どこもかしこも同じような構造で、自分が今どこを走っているのかも分からない。階段を目指そう、と走ってみたが見つかりはしない。
「センゴクさーんっ」
そう呼ぶのだが、ただ広い廊下に反響するだけで、センゴクが「○○、貴様ァ!」と激昂して出てくる様子もない。
肩で息をすればサイズの合っていないキャップがずれてくる。それを片手で直しながらも、センゴクの背中を探す。
書類を持っている責任にも、センゴクに怒られる恐怖も、そして…誰もいない部屋に閉じ込められたような寂しさにも。もう、さすがに耐えきれずに泣きそうになってしまう。
「センゴクの奴なら向こうへ行ったぜ」
「!!!!!!!!」
いきなり廊下に響いたその特徴的な声に、○○は瞬時に後ろを振り返る。
(ドンキホーテ・ドフラミンゴ……!!!)
明るい日の光が差し込む大きな窓。そこに腰掛けているのは、確かにドフラミンゴだった。“王下七武海”の彼にその明るさは似合わない。人身売買をしていると聞いたせいか、あるいは彼自身の性格からか。どちらも正解な気がした。
ピンクのファーコートに、そのオーバーフレームのサングラス。
そのすべてがドフラミンゴ本人だと示していたのだが、まだ信じられずにいた。
(いつの間にそこに……)
背後に居た彼だが、○○がその存在に気付くことはなかった。物音立てずに近づいたのか、それとも気配を消していたのか…。新兵である○○には到底分かるはずもない。
まだ言葉を発せられずにいると、ドフラミンゴは心底楽しそうにほくそ笑んだ。
「フフフ!フッフッフッ……迷子になったんだろう?」
「そ、そうです……」
思わずたじろきながらも、肯定するように何度も頷く。すると、まるで追い打ちをかけるようにドフラミンゴが立ちあがった。ファーコートが揺れ、それだけで○○の恐怖心をあおった。ドフラミンゴとは五メートル強離れているが、そのあまりの威圧感に冷や汗が流れる。
彼と会うのはこれが初めてではない。
毎回ではないが、ドフラミンゴも時折集会に参加することがある。しかしいつまで経ってもその威圧感に○○が慣れることはなかった。彼を目の前にすると、えも言われぬ恐怖と何らかの衝動、そして…不思議な疼きを感じるのだ。
「どうした…? フフ、フッフッフッ…おれが怖いのか」
「いえ……、そんな…」
首を横に振りながらも、○○はじりじりと後退していた。胸に抱いた書類がグシャ、と嫌な音を立てたが力を込めずにはいられない。
ドフラミンゴに話しかけられたのはこれが二回目だ。
それは初めて集会に参加したときだった。
七武海と同じ部屋に居るだけで、押し潰されてしまいそうになる“威圧感”。しかも集会の間は何もすることはなく、直立で難しい話を聞いているだけなので、かなり疲れる。集会が終わった頃には疲労がピークに達していた。脚が絡まりそうになりながら、何とか歩いているといきなり腕を掴まれた。驚いて顔を上げれば「どうした、今にも倒れそうじゃねェか」とクククと笑うドフラミンゴがいた。この場合、助けてくれたと思うのが一般的だろう。だが、相手は七武海だ。何を考えているのか――特にこのドンキホーテ・ドフラミンゴという男は――分からない。ありがとうございます、と一様感謝したものの、その腕が離れる様子は一向にない。熱と共に伝わった何かを感じ始めたとき、やってきたセンゴクによりふたりは切り離された。こいつに触るな、と低い声で忠告するセンゴク。それにドフラミンゴは笑うだけで、彼の真意は分からなかったわけだが……。
今回も何を考えているのか分からない、目の前の男。分かりたいような、分かりたくないような気持ちに頭を振った。
「あ、の……ありがとう、ございましたっ」
それだけ言うと
ドフラミンゴといると何故か気持ちが高ぶり、落ち着かなくなる。それが怖くて仕方なくて、一刻も早く逃げ出したかった。
「えっ、な、にっ!?」
しかし○○の思いとは裏腹に、身体が勝手に彼に向かって走り出す。ドフラミンゴはというと心底楽しそうに笑っているだけだ。だが何か企んだその微笑みと曲げられた指で“能力”を使ったのだと気付く。所詮、新兵だ。それに気付いたところで何もできないし、抗う手立てを○○は知らない。
サイズの合っていないキャップはとうにどこかへ飛んでしまった。そんなことを気にする暇もなく、ドフラミンゴの胸に飛び込んでしまう。
「っ、ん…!!」
どん、という音と共に腕の中から書類が落ちる。風に舞い広がるそれを集めることもできず、ただ抱きしめられる感覚に身体を固くしていた。
なぜ、ドフラミンゴに抱きしめられているのか。
答えを訊こうとしても口はぱくぱくと動くだけで、何も言葉にできない。その上逃げようと抗えば更に抱きしめられる。
「○○、お前はおれに本当の自分を暴かれるのが怖いんだろ…?」
まるで胸中を見透かしているような発言に動揺を隠せない。更に逃げ出したくなったが、ドフラミンゴの腕からは逃れられない。
「おれを“知って”自分が変わるのが怖いのさ」
唇を指で撫でられ、それは微かな愛撫だというのに至極気持ちがいい。わななく唇にドフラミンゴが笑った。
「ド、フラミンゴさん…」
「フフフッ…逃がしはしねェ」
囁かれた言葉はその顔に似つかないほど甘く、鼓膜が震えそうだった。ドフラミンゴは微かに身震いした○○の顎をすくうと、その震える唇に口付けた。唇から広がる何かが胸を甘く、そして激しく刺激していく。
怖くて仕方がないのに、欲しくて仕方がない。
危機感を裏切る、心の矛盾。身体の矛盾。
どれをとっても正確に言い訳できるわけもなく、ドフラミンゴのされるがままになっていた。
触れ合う舌に思わず目を開ければ、サングラスの奥、ドフラミンゴと目があった。きっとこの濡れた瞳も、サングラス越しでも分かるのだろう。キスの角度が変わればカチ…とサングラスに軽くぶつかる。初めて見た彼の瞳は驚くほど美しく、○○の心を奪い去った。それと同時に、疼く胸。どっと噴き出すその感情は潮のように荒く激しい。
そっと離れた唇に甘いため息をつきながら問いかけた。
「なんでこんなこと……」
シンプルではあるが、それが一番訊きたいことであった。その問いかけにドフラミンゴは「ん~……」と何か考えているようだった。そして何か思いついたように、長身を屈めて覗きこまれる。
惚れたんだ
囁かれた言葉はあまりにも甘く、とろけてしまいそうになる。けれど、ここで頷いたら負けなような気もした。彼の言葉をすぐに信じてはいけない…、と。
「そんなの…信じませんよ」と彼の腕から逃れようとした。だが「つれねェなァ…」と言葉とは裏腹に、楽しそうに笑いながら○○を抱き寄せた。
fin.
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