マルコ
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※エース←○○←マルコ
エースが酷い男になっています。
格好良いエースはいません。ご注意を!
「エースお前さ、えらく派手に女と遊んでるみてェだな」
「あー…はは、だっておれまだ若いしさ。女見りゃそういう気分になっちまうわけよ」
「最低だなお前……って人のこと言えねェけど。でもさ、そういうの知って悲しむ女いねェの? 恋人、とかさ」
「いねェよそんなもん」
どっと心臓が跳ねあがり、同時に鷲掴みにされたような痛みがはしった。何よ、こんなのいつものことじゃない、と自分に言い聞かせてみるが効果はなかった。
こんなことを聞くつもりはなかった。
オヤジからとあることを言付かり、エースを探していた○○。デッキを探してもエースの部屋を探しても見つからない姿。あとは食堂だけね、と訪れたその部屋。エースの姿が見つけ声をかけようとしたとき、会話が聞えて思わず入るのを躊躇った。そこから聞えたエースの本心。
サッチとエースの会話は聞くのも耐えないはずなのに、○○はその場から一歩も動けなかった。
エースに好きだと告白すれば、エースも好きだと言ってくれた。だがエースのそれは意味が違う。○○は恋人としてだが、彼は“博愛的”な意味でそう言ったのだ。
現にエースは女遊びを止めない。
オヤジを診ているナースには絶対に手を出さないが、港に降りるとすぐどこかに消えてしまう。久しぶりの上陸だというのに「○○、一緒にどっか行こう」と言わないのはそういうことだろう。エースの女遊びが激しいのは今に始まったことではない。付き合う前から…この船に乗ったときからずっとそうだ。付き合えば少しは変わるかもしれないなんて、とんだ慢心だったのだろう。現に彼は何一つ変わっていないのだから。
「おれたちがさ付き合ってるって知ったら多分、オヤジ怒るだろ? ほら、オヤジはお前のこと本当の娘みたいに可愛がってるし」
だから付き合ってることは秘密な、そう無邪気に笑ったエースに○○も頷いた。けれど、本当は知っていた。そうした方が都合がいいもんね、と心の中で呟いた。
現にオヤジたちと輪になって酒を飲む時も、そんな雰囲気をちらりとも出さない。嘘つきな男、そう恨めしい気持ちでエースを見るがどうしても嫌いになれない。そんな○○に「○○、お前疲れてるのか? 顔色悪いぞい」とマルコが言うのだ。感情を顔に出さない自信はあったのに、と俯いた。
エースは若いから仕方がない、と自分を慰めても倍寂しくなるだけだ。
彼が海の上で性欲を満たすためだけに、付き合っているのは分かっている。好きだと囁いてくるのも、優しく抱き締めてくるのも全部…思い通りにするためだ。分かってる……分かっているのに離れられない。「おれエースっつーんだ。お姉さんは?」とあどけなさの残る笑顔を向けられた時から、心が帰ってこない。いつまで経ってもエースの掌中にあり、奪われたままだ。
全部分かっていた。どれだけ愛してもエースは愛してくれないことも。自分はいつも“都合の良い女”でいつでも切り捨てることができる存在だということも。
(そう…割り切らなきゃって思ってるのに……)
いつまで経っても期待を捨てられない自分がいる。期待をしていた分、エースの“彼女はいない”という言葉に深く傷付く。
そうとは露知らず、エースはサッチと楽しそうに笑っている。
どうしようもなく胸が締めつけられて動けない。ともすれば溢れ出てしまいそうな涙を流さないために、俯いてじっと固まっていた。
すると不意に、涙でゆれる視界によく見知った男の足元が見えた。ゆっくりと顔を上げればその動作で涙が頬を伝う。それを見た男は苦い顔をしてそっと手を伸ばした。大きな手が頬を包み、長い親指が涙を拭った。
「マルコ……」
助けにきてくれたの、と言おうとした唇は震えて言葉を紡げなかった。ぼろぼろと溢れる涙を見て、掠れた声で「○○」とマルコが名前を呼んだ。そして顎を軽く上に向けられたかと思えば、まるで“すべてを許すような”優しい口付けを落とされる。
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マルコとこういう関係になった時のことを、今でも鮮明に覚えている。
あれは雨の日だった。その日もエースはひょいとどこかに消えてしまって、○○ひとりだけが部屋に残された。こんなのはいつものことだ。エースは行き先を告げずにどこかへ行ってしまう。○○はただそれを待つだけだ。
だが、その日は少し違った。
バタン、とドアを閉じられ、自室にひとりだけ取り残された○○。窓の外は激しく雨が降り、ひとりだからかいつもより寒く感じた。ぽす、と頭をベッドに乗せると鼻腔に広がる匂いに肩が震えた。
ひとり残された寒い部屋。先程まで繋がっていた温かさに少し曇った窓、湿ったベッド。……エースの匂い。
気付けば涙が頬を濡らし、肩を震わして嗚咽を漏らしていた。ぎゅうっとベッドを掴めばよりリアルにエースの匂いを感じ、ベッドに顔を埋めた。もうどうすればいいのか分からなかった。本当に愛しているのに愛してはもらえない。愛してると言われる度に泣きたくなる。それを「わたしも、」と微笑むことで隠していた。
そんなこと思ってないくせに口にするエースが嫌いだったし、嘘だと分かっているのにほだされる自分も嫌いだった。
そうしてどれぐらい経ったのだろうか。ドアがノックされたが無視していた。するとドアの向こうから「○○」そう呼ぶ男の声が聞えたが、食い気味で「ほっといてよ!」と叫んだ。顔を見なくてもそれが誰だか分かった。……マルコだ。彼は五つ年上で○○が所属する一番隊の隊長だからか、とにかく世話をやきたがる。それも○○にだけ、だ。だか今はマルコの優しさが鬱陶しかったし、怖くもあった。マルコに縋りつけば自分という存在がもっと脆くなる気がしたからだ。
するとドアが開き、マルコが部屋に入ってくる。目線を合わせるように膝をつき、マルコは「○○」と名前を呼んだ。恨めしい気持ちでゆっくりと彼を見上げる。すると優しい手つきで頭を撫で、また名前を呼ぶ。頬に添えられた手が濡れた目元を撫でた。
何を訊くわけでもなく、名前を呼ぶだけマルコ。今まで胸にしまっていた苦しみや悲しみが溢れだし、○○はまた涙を零した。言葉にしなくても、どれだけ心配してくれているのか分かったからだ。
思えばこの透き通った瞳にいつも心を見透かされていた。
そっと抱きしめてくれるマルコが温かく、子供のように泣きじゃくった。嗚咽で震える体は大きな胸にすっぽりと包まれていた。炎の体をもつエースの方が温かいはずなのに、○○はそう思わなかった。それは気持ちの有無だろうか、とまた少し悲しくなる。本当に欲しいものが傍にあるはずなのに、どんどん離れていく。それが耐えられなかった。マルコの優しさに満たされる一方で、心は補填を求めている。
不意に目元に口付けされ驚いていると、「○○」低い声で囁いたマルコにキスをされた。驚いて彼を見ていると、前髪を掻き上げられ「おれが紛らわせてやるよい」また口付けられる。マルコわたし本当は淋しかったの、ホントは…ホントは……。そう告白すると、「もう何も言うなよい」覆いかぶさってきた彼に唇を奪われた。
それからマルコとの不義の関係が始まった。
大体がエースが港に降り船から居なくなったときだ。何もする気になれず、ひとりベッドの上で横になっていると、ドアを叩く音がする。その音で誰だか分かるが○○は返事をしない。すると勝手にドアが開き、マルコがやってくる。ギシ、とベッドが軋む音で彼が腰かけたのが分かるが、それでも振り向かない。
マルコの顔を見るとなぜだか泣きたくなる。その瞳を見ていると分かるのだ。本当に自分のことが好きなのだ…と。エースのように身体目当てではない、本当に心から好きだと訴えている。ただ、マルコが「好きだ」と言ったことは一度もなかった。それは負担をかけさせないためなのか、それとも……一種の覚悟なのか。
そのせいもあって、あまりを眼を合わせようとしない○○。だがマルコは顔が見たいのだろう。エースの温かい手とは対照的に冷たい手が頬に添えられ、そっと口づけられる。その優しい口づけに胸が締め付けられるのを感じながら、マルコの背に腕を伸ばすのだった。
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腕を掴まれ、マルコの部屋へ連れさられたのは数時間前。
そして彼が○○を愛し終えたのはついさっきのことだ。
その筋肉質な太い腕からすり抜け、背を向けて服を身につけていく。
マルコは○○の背中がお気に入りらしい。情事の最中は必ずそこに口付けるし、額をすり寄せる。きっと今も背中を見ているのだろう。彼の熱い視線を感じた。
思えばエースが船に居るこの状況で抱かれたのは初めてだった。○○もエースが船に居るときに泣いたことはなかった。それだけ…限界が近づいているのだろうか。
わたし破滅するかもしれない、と思うと悪寒がした。思わずワイシャツのボタンをかける手が止まる。
するとベッドが軋んだかと思えば、不意に後ろから抱き締められる。金色の髪が首筋に擦りつけられ、くすぶったさに身を捩ると抱く力が強くなった。
「おれじゃだめなのかい」
そのマルコの言葉に驚きを隠せなかった。
マルコはいつだって何も要求しなかった。ただ、○○がひとりのときにやってきて慰めてくれる。好きだなんて口にしたことはなかったし、ましてやおれのものになれと言ったこともない。
いっそのことマルコを好きになれたら、と何度も思った。マルコは無条件で恐ろしいほど優しい。いつだって想ってくれるし、その手は優しい。本当に好きなんだと伝わってくる。
けれど、どうしてもエースを振りきれないのだ。例えどれだけ傷付けられてもそれは覆らないだろう。
「そう…できたらいいんだけど」
微かにではあるがマルコの表情に悔しさと悲しさが垣間見えた。長い付き合いである○○にしか分からないそれをどうすればいいのか分からず、マルコの腕をそっと外そうとした。
「ごめん、こんな話するもんじゃないね」
だが逆に強く抱きしめられる。触れ合う背中からマルコの激しい鼓動が伝わり、どうしようもなくぎゅっとその腕を掴んだ。
「それでもこの腕の中にいるお前は…おれのモンだい」
「マルコ……」
わたしは一生、あの人を愛し続けるのだろう。
マルコも一生、わたしを愛し続けるのだろう。
わたしは一生あの人に愛されることはない。
けれどマルコもわたしに愛されることはないのだ。
星に願いを
fin.