マルコ
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お題【マルコで甘。カッコ綺麗なバーテンヒロイン】
夜散様から頂きました。
新世界に浮かぶある小さな島。
一年中雨期であるその島は光が入らず、どこへ行っても闇が付きまとう。その上、新世界まで登りつめた“兵”が集まるのだ。島の治安といったら最悪のもので。海賊がのさばるその島に“普通の人間”は到底住めない。そのため酒場や市場などの店主は皆兵隊くずれの者が多かった。
○○もその中のひとりである。この荒くれ者が集う島でバーを営んでいた。地上で賑わう酒場と違って、地下のバーは酷く静かだ。ここに訪れる客の多くはなれ合うのを嫌い、酒を片手にひとりで飲んでいる。
○○はこの店のマスターであり、店でたった一人のバーテンダーである。ここでは話しかけてくる客は殆どいない。○○自身もべらべらと喋るのが嫌いであるから、この生業は自分に天職であると思っている。
ただ不満があるとしたら……それは何分暇すぎるということだ。
頼まれた酒を作り、出せばそれで終わり。あとは掃除をして、決まった時間に店を閉じれば一日が終わる。食べるのに苦労はしていない、“楽な仕事”だ。
ただ何せ“刺激”がない。
日々を同じように過ごし、また同じ一日が始まる。ならば“刺激”を求めて今の環境を捨てればいい。……そう、思うのだが。何分にもそれには勇気がいる。○○にはもう“今の環境を手離してでも刺激を求めよう”という勢いもない。勢いだけで行動できる程の若さは失ってしまったのだろう。また二十代なのに情けない、と苦笑する。だからこそ無い物ねだりだと分かっているから、えも言われぬ空虚感をやり過ごすしなかいのだが。
カラン……とドアに取り付けてあるベルが鳴り、○○はカウンターへと移る。地上はまた大雨なのだろう。開いたドアから打ちつけるような雨音が聞えた。ゆっくりとドアが閉まると、階段を下りる音が聞えてくる。階段を下りる度に、地上の騒がしさとは打って変わって静けさを帯びてくるその感覚。それがバーの落ち着いた雰囲気を織りなしていた。
カウンター内でグラスを磨きながらゆっくりと瞬きをした。
すると見えてきた客の足元。顔を見ずともその客が誰であるか気付く。そしてこれ見よがしに溜め息を吐いてみせた。
「……また来たの」
暗に「もう来るな」と言えばその男はククと小さく笑った。自分に対する態度が辛辣なのも新鮮なのだろう。
「お前が仲間になるまで来るよい」
刺々しい言葉ものらりくらりとかわし、愉しそうに笑う男。食えない男、と思いながら○○は顔を上げた。すると暗い階段から姿を現した、ひとりの男。
この三日間で見慣れた、歩く度に揺れる左足のフリンジ。獲物を捕らえる女豹のようにゆっくりと視線を這わすと、男は小さく笑った。この三日間で彼はどれだけ笑顔を向けてきただろう。
その厚く魅力的な唇。噛みつきたい衝動を、熱情をはらんだ彼の青い瞳が制止する。正確にいうと、その綺麗な瞳の色に「何しようとしてんの、わたし」と自分を取り戻したのだ。
魅力的な男だと分かっているからこそ、彼を遠ざけようとしていた。そのことを知ってか知らずか、彼は挫けずに近づいてくるのだ。光の入らないこの島では彼の金色の髪すら眩しいというのに。
男は鍛え上げた胸板を惜しげなく晒したままカウンターに座る。胸に彫られた青のシンボル。店内の暖色の照明が当たり、まるで燃えているように見えた。
………白ひげ海賊団一番隊隊長、不死鳥マルコ。
その男を目の前にしても○○の素っ気なさは変わらない。
「しつこいわね、マルコ。わたしは海賊にはならないわよ」
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それは三日前のこと。
今日も何の変哲もない一日だった、と思いながらカウンターでグラスを磨いていた。深夜のこの時間帯は客が落ち着き、各々が気に入った席で酒を飲んでいる。手のあいた○○は大抵グラスを磨いているか、盛り合わせのフルーツを切っているかのどちらかである。
すると店に響いた木片が飛び散る音。蹴り破られたドアが階段を滑り落ち、店内へと流れてきた。ゆっくりとグラスをカウンターに置けば、入口から下卑た男共の笑い声が聞えた。ひとりの客が「マスター、」と声をかけてきた。きっと「おれが片付けようか」という提案だったのだろう。けれど○○は小さく首を横に振り、手で制した。するとダラダラとした足取りで現れた海賊ども。船長と小隊の隊長たちだろうか。四、五人の男たちは各々に武器を手に持っていた。
『ここがどこだか分かってる? 只のバーよ。武器はしまって』
カウンター内で酒を作るだけの“バーテンダー”が強気で出てくるとは思っていなかったのだろう。海賊は顔を見合わせ、そして腹を抱えてゲラゲラと笑いだした。
それを冷めた目で見ている○○に気付いたのだろう。笑いを堪えて船長が一歩前に出た。
『やけに強気な女だな。おれたちは酒を飲みに来たんじゃねェ、酒を奪いにきたのさ。分かったらとっととそこをどきやがれ』
じゃなけりゃ…てめェごとぶった斬るぞ、と剣を振りまわす。
カウンター内にずらりと並んだ酒がお目当てらしい。同じ手口で上の酒屋も襲撃したのだろう。あの気の弱い店主のことだ、ありったけの酒を渡したに違いない。助けてくれと懇願する店主を余興ついでに斬っただろうか。
一向に退こうとしない○○に焦れたのか。「斬られてェのか、さっさとしろ!」とカウンターに荒々しく剣を叩きつけた。「分かった、分かったわよ」、“降参”とでもいうように両手を上げた。そしてカウンターから出る。
男たちが下卑た笑いを浮かべてカウンターに入ろうとした……そのとき。
油断した船長の手から剣を叩き落とし、回し蹴りを繰り出す。クリーンヒットした蹴りに船長はカウンターに
性根のない男、と思いながら峰で自身の肩を叩いた。
『悪いけど、ここはお金を払ってお酒を飲むところなの。お金も払えなければ力で奪うこともできないお子様は出て行ってもらえるかしら』
海賊でもない“只の女”にやられるなんて屈辱的なのだろう。悔しそうにこちらを睨んでいたが、「ん?」と剣先を顔に近づける。すると、この女には敵わないと悟ったのか、船長を抱えて走っていってしまう。
逃げ足だけは速いのね、と呆れていると。
『男は出る幕もねェってのかい』
不意に階段の暗闇から男が現れた。今まで“事の様子”を見ていたのだろうか。青い眼を優しく細めてどこか楽しそうに笑っていた。
その胸のマークで白ひげ海賊団の者だと分かったが、しかし。
『そう。だからあなたもお金払わないって言うならさっさと出ていって』
片付けで忙しいんだから、と素っ気なく返す。
白ひげ海賊団だと分かっても尚、不遜な態度をとった奴は初めてなのだろう。男は鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしていた。が、次の瞬間堪えられないように笑いだす。
一体なんだっていうのよ今日は、と呆れながら剣をカウンターに置く。そしてカウンターに入れば、かけられた声。
『なァ、おれはマルコってんだい』
訊いてないわよ、と無視を決め込んで整理していると、増々マルコの興味をそそったのだろうか。マルコがカウンターに腰掛けた。
『おれの仲間にならねェかい?』
『は………?』
その衝撃的な言葉に顔を上げれば。
少年のような微笑みを浮かべたマルコがいた。
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そうしてこの三日間、マルコは飽きることなくバーにやって来る。最初はからかっているのかと適当にあしらっていたが、それは違うと分かった。彼は本当に仲間にしたがっている。
それと………。
いつものようにカウンターに腰掛けたマルコ。彼が頼むのは決まってウイスキーのオン・ザ・ロックだ。それかテキーラサンライズ。
強い酒を何杯も飲むマルコに「お酒は強いの?」と珍しく問いかける。すると気分をよくしたのだろうか。氷を鳴らしながら、「まあまあだい」と微笑んだ昨晩のことを思い出した。
オーダーされたテキーラサンライズをマルコの前に置く。すると当たり前のようにマルコが○○の手首を掴み、「○○、」と熱っぽい眼で見つめながら手首に口付けてくる。そして毎回のことながら○○は呆れ顔をしていた。
「マルコ……」
マルコは毎日「一緒に来いよい、○○」と誘ってくる。そしてそれと同時に“ちょっかい”を出してくる。
昨晩も今のように手首に口付けるのは勿論のこと、熱をはらんだ眼で見つめてきた。遊ぶように指先を擦っていたかと思えば、指と指の薄く敏感な場所を爪先で愛撫してくるのだ。アイスピックを片手に持てば「おっかねェ」とわざとらしく肩をすくめて手を引いた。
店仕舞いまで居た彼を入口まで見送りに出た○○。すると不意にマルコに抱き締められる。いつもならば、男が手を出してこようものなら容赦なく叩きのめす。けれど、そのときはなぜか拒むことができなかった。「○○」と耳元で囁くマルコの低い声が、身体を包み込む腕があまりにも心地よかったからだ。
それに、
(満更でもないっていうのが……一番やっかいなのよ)
別にいいかな、と思う自分がいるのも事実で。
「あなたはわたしにどうなって欲しいの? 仲間? それとも……彼女?」
確かめるように指先でマルコの唇をなぞる。その指先を甘噛みれ、“行為”を連想するような愛撫に微かに鳥肌がたつ。
「どっちもだい」
マルコはくく…と楽しそうに笑いながら指先に髭を擦り寄せてくる。そのちくちくとした痛みに○○は目を細めた。
「欲張りね」
「海賊ってのは強情なんだい」
そうして指先にキスを落とすマルコ。
彼は知っているのだろう。
○○が変化のない日常に飽き、刺激のある日々を求めていることを。だからこそ毎日飽きずに通い「仲間になれよい」と誘うのだ。
彼は知っているのだろう。
アプローチも悪い気はしていないということを。○○が「魅力的な男だ」と毎回感心するのと同時に、“それを手に入れてみたい”と思うことも。
彼は知っているのだろう。
○○が「それもいいかもね」とマルコに口づけるのを。
心内にあれば色
外にあらわる
…――マルコの傍で自由きままな生き方も案外悪くない。
fin.