マルコ
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あの一件以来、○○は今まで以上にマルコを避けるように生活をしていた。だが、マルコもあの一件で覚悟を決めたようで、○○を捕まえて話をしようと必死だ。
いつも以上に近づくマルコと、いつも以上に避ける○○。マルコが何か言おうとする度に逃げるものだから、サッチに「お前らなんかあったのか?」と心配されてしまった。今更、何かあったわけじゃない。
ずっとずっと前のことを○○は忘れられないでいる。
そして、ずっとずっと前のことをマルコは今更どうにかするつもりなのだ。
(……冗談じゃないわよ)
隙なんか見せてやるものか。
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束の間の休戦といったところだろうか。
マルコは仕事に追われているようで部屋から出てこない。いつものように眼鏡をかけて、難しい顔をしているのだろう。好都合だ。あの一件以来マルコは○○に考える余地を与えないように追いかけてくる。ひとりで冷静になれるのは寝るときだけだ。
サッチ率いる四番隊は食糧を探しに行くと出て行った。オヤジは新世界では珍しく穏やかな気候に、デッキでいびきをかいて昼寝をしている。つまり○○は暇であった。
停泊中の船を降り、海岸へと向かう。前回の島とは違ってこの島に街はない。それどころか無人島だ。暇を潰すには泳ぐほかない。久々に水着に着替え、ひとりの時間を過ごすつもりだった。
(その方が何も考えずに済むし…)
小さく溜め息をつき、程度のいい岩に腰掛ける。
腰に巻いたお気に入りのパレオが風に揺れていた。
不意に砂浜を歩く音が聞こえ振り向くと、そこには釣竿を持ったサッチがいた。魚が大量に獲れるポイントに当たったのだろう。バケツいっぱいに魚が入っていた。今夜は魚料理に違いない。
サッチは○○の姿を上から下へと流れるようにじっくりと観察し、口笛を吹いた。
「お前の水着姿、控えめに言ってもサイコーだな」
「あ、り、が、と。でもあんまり見ると料金が発生するわよ」
その言葉に「そりゃねェよ」とサッチががっくりと肩を落とす。
「お前っていい女だよな。仲間じゃなかったら手ェ出してんだけどなァ」
間違いない、とサッチが腕を組んで頷く。
そう…、と返事をしたが心ここにあらずといった様子が伝わったのだろう。
「あいつもそう思ってるさ」
そうサッチが小さく呟いた。
“あいつ”が誰を指しているのかなんて訊かなくても分かる。
「お前ら、いつからか話さなくなったよな」
「……」
昔は仲良かったのにな、とサッチが少し寂しそうな顔をみせる。
用事もないのにマルコの部屋に入り浸ったり、オヤジの治療をしているマルコにじゃれてよく怒られたものだ。昔はマルコの全てが好きだった。でもそれも遠い昔のことだ。いまこの胸に残っている想いはその頃の純粋なものとは違う。
○○は何も答えず、風になびく髪を手で制した。
「お前らが何でこうなったか知らねェが、いい加減素直になれよ○○。お前もマルコも見てるこっちまで苦しくなりそうだ」
「だって今更…どうしろっていうのよ」
「……」
まあ、そりゃそうだな、とサッチが釣竿で肩を叩く。
あの仲の良かったふたりが一切口をきかなくなったのだ。理由を知らないにしても、それを修復する事が容易ではないとサッチも分かっているはずだ。
何か得策を思いついたのだろう。サッチが悪い顔をしてこちらを見てくる。この顔をしているサッチは“良くない事”を考えている証拠だ。
「じゃあおれで手を打つってのはどうよ?」
にしし、と笑いながら肩を抱いてくる。呆れながらその手をつねった。
「ない、絶対」
「絶対!? ひどくないか!?」
「馬鹿言ってないで早く持っていかないと魚がダメになるわよ」
分かったよ、ったくよ~、とぼやきながらサッチが船に戻っていく。
本当は元気づける為にあんなことを言ったのだと分かっている。サッチはいつでも○○の味方だ。最近マルコとの関係に変化が現れたことを気にしていたのだろう。ありがとう、と遠ざかる背中に向かって小さく呟いた。
さて泳ぐか、とパレオの結び目をほどく。
すると急な強い風にみまわれ、手からパレオがすり抜けていった。慌てて飛んでいった方に振り返る。
「マルコ……」
そこにはマルコの姿があった。ざくざくと砂を蹴りながらこちらに向かってくる。仕事に煮詰まり、一息つきにきたのだろう。眼鏡の奥に疲労が見えた。
その手には○○のパレオが握られていた。
「これお前のだろい?」
「ありがと…っ!?」
パレオを受け取ろうと手を伸ばした。不意にその腕を取られ、マルコの胸に引き寄せられる。そのはずみでパレオが砂浜に落ちたが、それを気にしている余裕など無かった。驚いて顔を上げると、こちらをじっと見つめるターコイズの瞳に自分が映っていた。
「お前は本当に…綺麗になったな」
遠い昔の姿を重ねているのだろうか。目を細めたマルコが小さく呟いた。大人の女として成長した○○を、マルコは一体どんな気持ちで見ているのだろうか。
隙なんかみせない、そう誓ったはずなのに、マルコの腕の中から逃げ出せずにいた。まるで壊れ物を扱うように、そっと優しく○○を抱き締める。マルコの匂いにつつまれ、目の前がくらくらする。それは○○から冷静な判断を奪っていった。
「船に来たときはただの小娘だったのによい…」
…――…子供のお前になんか、その気も起きねェよい。
マルコに言われたあの言葉と重なって聞こえた。
「こんなに綺麗になっちまって、おれはお前が心配で仕方ねェよい」
どんっとマルコの胸を強く押すと、まさかそんな行動にでるとは思っていなかったのだろう。○○を包み込んでいたその腕は容易くほどけた。
ぼろっと、涙が溢れ出る。○○の中で均衡が崩れた瞬間だった。
「やめて! そんな嘘…聞きたくないっ!」
マルコが再び手を伸ばしてきたが、力任せに振り払った。零れ落ちる涙を隠すようにマルコから走り去る。後ろからマルコの声が聞こえたが、○○は決して振り返らなかった。今度こそ捕まれば、もう逃げられない。そう分かっていたからだ。
水着姿のまま全力で自室へと走る。何だ何だと仲間たちが部屋から出てきたが、気にしている場合ではない。マルコが追いかけてきているからだ。ただマルコも今度こそ逃がすつもりはないのだろう。
ぼっと目の前に何かが爆ぜたかと思うと、それは青い焔だった。
気付いたときにはもう遅かった。
「○○!」
「マルコっ」
走る○○をそのまま抱きとめたマルコ。
その眼を見た瞬間、“マルコはわたしを逃がすつもりはない”のだと確信した。
「どうした?」「喧嘩か?」「大丈夫か?」と仲間たちがどよめく。マルコは「喧嘩じゃねェよい。大丈夫だから、ちょっとふたりきりにさせてくれ」と落ち着いた口調で周りをさとす。だがその口調とは裏腹に、マルコは乱暴にドアを開けた。そして言葉を失った○○の腕を引っ張り、部屋に押し込む。マルコの部屋は昔と何も変わっていなかった。夕暮れの赤く染まった部屋に“あの時”のことを思い出す。それがより一層、胸を締め付けた。
「○○、」
引き寄せられ、抱き締められる。マルコはしっかりと○○を抱いて離さなかった。
「…あの時のこと、悪かったと思ってる。お前はまだ子供だったし、おれは護る立場だからよい…。必要以上に傷付けちまった」
頬に触れるマルコの胸から幾分か早い鼓動が聞こえる。
「それにお前を突き放した手前、おれが何か言える立場じゃねェって…思ってたからよい」
でも、とマルコが苦しそうな顔をした。
「おれはあの時から変わらずお前を愛してるよい」
それが嘘ではないことぐらい、分かっていた。ただ夢のようで、涙だけが静かに頬を流れた。そっとマルコの背中に手を伸ばし強く抱きしめた。驚いたように「○○」と名前を呼び、頭のてっぺんにそっと口づけるマルコ。
ずっと好きだったマルコと両想いだと分かって、これほど嬉しいことはない。たが、心はいまだ浮かばれないままだ。
マルコ、と呼ぶと「ん?」とマルコが覗き込んでくる。
「…あの時は、本当に心のそこからあなたを愛してたの。おままごとなんかじゃなかった。嘘じゃないの」
そのターコイズの瞳をじっと見つめる。その瞳には涙にぬれた○○が映っていた。
「でも…今はただ、マルコに突き放された恨みがわたしを動かしてるの。あの時の純粋な“好き”とは違うのよ」
あの時のマルコの行動を今なら理解できる。それなのにあの時のことを忘れられないのだ。それはマルコの愛ほど純粋なものではない。きっと、歪んだ愛に違いない。
マルコは低い声でふっと笑った。それはまるで○○の不安を「馬鹿馬鹿しい」と一蹴するようだった。
「恨みだって? 上等だよい。それだけおれを今でも愛してるってことだい」
「マルっ…!」
噛み付くように唇を奪われ、○○の胸があえぐ。苦しさに唇を離すと、それすらも許さないのだろう。首に添えられた手が○○を引き寄せ、すぐに唇を塞がれる。激しく絡み合う舌に唾液が顎を伝う。マルコはそれを獣のように荒々しく舐めとった。ぞくぞくとした快感が火花のように身体を走り、あまりのことに腰が抜ける。気にすることなくマルコは○○を抱え、ベッドに向かう。力の入らない○○はマルコにされるがままだ。ベッドに投げられ、マルコを仰ぎ見た。床にワイシャツを脱ぎ捨てるマルコ。鍛え上げられた肉体が夕暮れに赤く染まっていた。
マルコがベッドに片膝をたてるとギシ、と唸った。
「マルコ…無理よ」
「何がだよい」
呟くように言葉にすれば、「今更なんだ」とマルコが眉を顰めた。覆いかぶさってきた彼の体温に肌が粟立つ。
「もう死んじゃいそうなの…」
どくどくと心臓がうるさい。このままはじけて死んでしまいそうだ。ましてやこれから起こることに耐えきれる自信など、これっぽっちもなかった。
だが、マルコはやめるつもりなど毛頭ないのだろう。○○の左手をとり、薬指に噛み付いた。その痛みに小さく声をあげると、まるで祈るように薬指に口づけた。
「おれがどれだけお前を大切に思ってるか、お前は知らなきゃいけねェ」
slave of love...
もう黙れよい、と低い声で囁かれ、ざわめく胸にぎゅっと目を閉じた。
fin.