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01. テレフォンナンバー777 (マルコ) ♪Melting 倖田來未
○○は狭い電話ボックスの中、受話器を耳に付けてコール音を数えていた。彼はいつもコール四回で電話に出る。必ず、だ。
いち……に……さん……
カチャ、という受話器を上げた音に心拍数が跳ね上がる。
「もしもし、マルコ?」
『ああ……○○かい』
聞えてきた彼独特の低い声に思わず笑顔になる。つい二日前にも電話したばかりだというのに、もう何年も聞いていなかったように懐かしく感じる。胸にじわり…とあたたかいものが広がった。
「そっちの調子はどう?」
『まずまずだい』
お前は?と訊かれ「わたしもそれなり、かな」と返す。そうかよい、そりゃ何よりだい、とマルコが苦笑する。今まで仕事でもしていたのだろうか。マルコの声からは確かに疲労が感じられた。
(また仕事が増えたのかしら……)
彼の一番の理解者でもある四番隊隊長のサッチが「マルコ、手伝ってくれよ~」と仕事を持ってきた話は一度や二度ではない。今回もそうなのだろうか。きっと目頭を抑えてのけ反っているのだろう。受話器越しに椅子が軋む音が聞えた。
小さな溜め息のあと。
『おれらが次会えるのはいつ頃になるのかねい?』
その言葉に、うっと言葉を詰まらせる。
「会えないのはわたしのせいだって言いたいの~?」
『お前のせいじゃねェのかよい?』
「……わたしのせいかも」
ちょっとふざけた口調で話してみたがマルコに一刀両断され、大人しく認める。するといつもより重い、はあ……という溜め息が聞えて○○は言葉を探す。
「で、でもっ今回の異動が決まれば会えるから……ねっ?」
その言葉に苦い表情をしていた電伝虫がゆっくりと瞬きした。不満そうな表情をしていたが、納得したのだろう。○○を思い浮かべるように、その眼は遠くを見つめていた。
『おれはお前に早く会いたいんだよい』
マルコの愛しさが込められた声に「うん…わたしも」と小さく頷いた。
新世界を渡り歩く白ひげ海賊団一番隊隊長マルコと、ある“一定の場所”に留まる○○。そのふたりが会えるのは年に数回ほどだ。マルコが近くに滞在しているときは毎日のように会えるが、それだって長くはない。
○○の近くに居れば、常にマルコの身に危険が及ぶ。本当は一番近くに居たいのに、近付けば近付くほど“立場の違い”に引き離されるふたり。それを痛い程に感じていた。
『○○、』
「マルコ……」
溢れんばかりの愛しさにガラス張りの壁に額をつけると。それを不思議そうな顔をして白電伝虫がじっと見つめていた。まるでマルコにするように目の下を優しく撫でてやると、気持ちいいのだろう。目を細めて寄ってくる。
「マルコ…わたしのこと、好き?」
その確認するような問いにマルコはくくっと笑った。そんなこと聞かなくても分かるだろい、と思っているのだろう。それでも彼の口から聞きたかった。
『好きだよい、どうしようもないぐらい』
「………」
マルコの穏やかな表情が電伝虫を介して伝わってくる。ならば、向こうにも伝わっていることだろう。この嬉しさに染まった頬が。
不意にマルコが『お前は?』と訊いてくる。分かるんじゃないの?と返せば、『確認しとかねェとな、飽きられたら困るからよい』と冗談っぽく言うのだ。マルコに飽きるなんてありえないから、と心の中で呟いた。
受話器を持ちかえ、その赤い唇を開いた。
『わたしはマルコのことあ………』
のだが、マルコの受話器越しに聞えてきた騒音に言葉を遮られる。その騒音に当事者であるマルコは深い溜め息をついた。
「どうしたの?」
『……敵襲みたいだい。面倒だけど行ってくるよい』
とは言っても自分が出る幕もなく終わると思っているのだろう。その口調から焦りは伝わってこない。どころか、恋人との電話を阻害されたのが腹立たしいのだろう。マルコは、よりによってこんな時に……と呟いた。
不意に思いだしたようにマルコが小さく笑った。
『さっきの続き、聞かせてくれよい』
「もう言った」
『聞えなかったんだい』
「………じゃあ、今度会えたときに言う。それでいいでしょ?」
それもそれで恥ずかしいけど、と頬を染めると。電話口で言われるよりも会って、お互いのあたたかさを確かめながら言われた方が嬉しいのだろう。納得したようにマルコが小さく頷いた。
『楽しみだい。……今度はおれからかけるよい』
「うん、気をつけてね。じゃあ」
そう言って受話器をそっと置く。ついさっきまで不機嫌になったりはにかんだり意地悪に笑みを浮かべていた電伝虫は眠りについていた。
「………」
壁に張られた“海兵以外使用禁止”の文字に、○○は狭い電話ボックス内で苦笑する。
(海兵が海賊と付き合ってて……しかも白電伝虫があるからってここを利用するなんて……。我ながらすごい度胸)
MARINEの帽子を目深にかぶりながらしみじみとそう思う。お互いの立場を捨てることなど出来ないほどマルコは海賊を愛しているし、○○も海兵を誇りに思っている。けれど、どうしようもなく惹かれてしまったふたり。お互いの立場を捨てることができないように、芽生えた愛を捨てることなど到底できなかった。
だからこうして電話をし合い、愛を確かめ合うのだった。
背に腹はかえられない、とはよく言ったものだ。
盗聴されない白電伝虫付きの公衆電話(マリンフォード内に設備)を使った方が、自分の携帯電話を使うより安全なのだ。
これがばれたら投獄も免れないと分かっていても……。
「少なくとも正義の味方じゃ、ないわね……」
そうひとりでごちていると。コンコン、とガラス状の壁を叩かれ顔を上げる。そこには電話ボックスよりも長身のクザンが居た。やる気のなさそうな顔はいつも通りだが、何か用事があるのだろう。小さく手招きをしている。
電話ボックスから出ると、その身長差は一目瞭然だった。
「よお、○○。お前いつも誰と電話してんだ?」
ここから“誰か”と電話しているのをクザンに何回か目撃されていた。その度に彼は不思議そうな顔をしていたのだが。
ん?ふふ……秘密ですよ、とはぐらかそうとすると。アレだな、とクザンがにやつきながら指摘してくる。
「男か」
「違いますよ。……て、それより異動の件どうなりましたか?」
あっさり否定され、「じゃあ誰なんだよ」と不満そうな顔を見せる。しかし○○の問いかけに「ああそうだった」と思いだしたように頷いた。
「ああ、センゴクさんも承諾した」
「本当ですか!よかった~」
ばんざーい!とひとりで喜んでいると。“問題”だらけのあの地に何故わざわざ志願してでも行きたいのか、分からないのだろう。なんでG5なんかに……、とクザンがぼやく。
海軍G・L第5支部……つまりは新世界。
○○は前々からあそこに配属してほしい、とクザンに頼み込んでいた。マリンフォードに配属され数年たち、今やっとその願いが叶った。だからマルコも会いたいのに会えないと文句を言っていたのだ。
けれど、それも今日で終わり。
「もっと、強くなりたいんです」
首を捻るクザンを納得させるように言えば。お前もモノ好きだねェ、と頭を撫でられる。勿論、その言葉は嘘ではない。海兵として更なる強さを求めているし、自分ならば新世界の“
だが、マルコに会いたい気持ちの方が何倍も大きい。
(色恋沙汰で異動を願うなんて……)
ばれたら大問題ね、とキャップを目深にかぶる。
「でもまあ、あれだな。○○にセクハラできなくなると思うとおれも胸が痛いよ」
クザンさんの基準はそこですか、と足早に去ろうとすると。ああ、それとこれね、と何かを投げてくる。それをキャッチするとそれは今日付けの新聞だった。一面に打たれた【白ひげ海賊団大躍進】の文字に目を見開く。ナワバリ拡大だってよ、いやだねェ…また仕事が増えて、とクザンは溜め息を吐く。
だが、○○は記事の内容云々よりも大きな写真に意識を取られていた。白ひげの新たなナワバリとされた街々の写真。そこに異変はなく、ただのどかな暮らしが写っているのだが。
人々が行きかう商店街。
その中に見知った男の背後が写っていて。
誰も気づかないであろうその姿に思わず笑みが浮かぶ。
…――好きだよい、どうしようもないぐらい。
先程囁かれた言葉が頭の中を反芻する。
(愛してるわ、マルコ。……どうしようもないぐらい)
そっと新聞を抱きしめ、青く澄んだ大海原を見つめる。
待っててマルコ…と○○はそっと呟いた。
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02. 愛が焦げてしまう前に (ルッチ) ♪No,No,No Destiny's child
…――お前、禁煙するつもりはないのか。
ルッチの言葉は突然だった。驚いて後ろを振り返ると、そこにはいつもと変わぬ表情でソファに腰掛けたルッチが居た。一体何だというのだろうか。ふーっと白い息を吐いた。
「……なに、きゅうに」
「別に、何もないさ。そう思っただけだ」
「………」
そう言って、自分で作ったオンザロックを舌で味わうように煽るのだ。
○○が煙草を吸いだしたのは今日昨日の話ではない。それこそ、ルッチとそういう関係になる以前からだ。ルッチは○○が喫煙することに対して何か言ったことはない。ただたまに「煙いぞ」「最近吸いすぎじゃないか」と苦言を漏らす程度だ。
だが、今回はそうではなさそうだった。
どこか“禁煙して欲しそうな”その言い方。
(わたしのこと心配してるの?)
そう口に出して言えばきっと、その眉は不機嫌そうにくっついてしまうだろう。でもやっぱりそういう風にしか思えなくて。
いつも冷酷で仲間にさえ恐れられているルッチが他人のことを気遣うなんて。それもわたしだからかな、わたしが特別だからかな、自惚れてもいいのかな、そう目くばせする。が、気付かれないようにしたいのか、ずっと彼は酒を煽っていた。
(だめ、にやけちゃいそう…)
愛しくてにやけてしまいそうな頬を煙草を噛むことで耐えていた。じわりとにじみ出る苦い煙草の味。それが彼からの不器用な愛の気がして、落ちそうになった灰を灰皿に落とす。
そしてルッチの隣に座り、ルッチに見えるように煙草を捻り潰した。
「じゃあ…努力はしてみるわ」
「そうか」
彼の言葉は素っ気なかったが、それでもきっと喜んでいるのだろう。子供にするように頭を撫でてくる。○○はそれに素直に甘えて彼の肩にしだれかかった。
fin.
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