other
name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
01. 真夜中の誘惑 (マルコ) ♪カリソメ乙女 椎名林檎
その女は“メドゥーサ”と呼ばれていた。
何でも、その女に見つめられたら身体が石のように固まって動けないのだとか。最初聞いたときは「大げさだよい」と笑っていたのだが。酒場で彼女を見た瞬間マルコは一歩も動けなかった。その呼称は彼女にぴったりの呼び名であった。今まで出逢った“美女たち”が霞んで見える程に美しく、マルコは喉の渇きさえ覚えた。
酒場の奥でひとり酒を飲む彼女を誰もがチラチラと窺っていた。ただ、彼女は……メドゥーサと呼ばれる○○は慣れているのだろう。気にすることなく酒を煽っている。
マルコは隣で自分同様に佇むサッチに「おいサッチ、あいつに手ェ出すなよい」と低い声で言った。その言葉通り“彼女に声をかける”つもりだったのだろう。サッチは「はあ!?」とすっとんきょうな声を上げた。「なんでお前にそんなこと……」「お前には彼女がいるだろい」ナースの、そう言うとサッチは気に喰わないように唸りながらも納得したようだった。
(あんな女が居て手が出ねェってのも不思議なもんだい)
誰もが彼女を“物欲しそうな顔”で見ているというのに、あまりにも美しすぎるからか。誰も声をかけようとはせず、ただ見つめているだけだった。
そして当然、マルコはその男共と一緒になる気はさらさらなかった。
ふたり用の席に座る○○。マルコは彼女に断ることなく、そのもうひとつの空いた席に座る。すると、今までそんな“命知らず”の男は見たこともないのだろう。周りも驚いていたが誰より一番、目の前の○○が驚いていた。
マルコは微笑しながら○○に問いかける。
「海賊に興味あるかい?」
彼女の腰から垂れる剣から、少なくとも彼女が“剣を扱える人間”と判断した。不躾な男、と酒をぶっかけられるのも想定したマルコだが、どうやらそれは免れたらしい。○○はくいっと酒を煽り、その細い酒瓶をテーブルに静かに置いた。
その顔には笑みが浮かんでいた。
「そうね、興味はあるわ」
初めて聞いた彼女の声はその顔と違わず美しいものだった。やっぱりな、と思ってマルコが上機嫌で微笑んでいると。
○○が小さく笑いながら身を乗り出してきた。揺れるテーブル、ぶつかりあって騒ぐグラス、揺れる髪、腕に触れる冷たい爪先、魅力的な唇、挑戦的な目、鼻先が触れ合うか…触れ合わないか、危うい距離で○○は言った。
「わたし海賊は大好物なの。……賞金稼ぎだからね、白ひげ海賊団一番隊隊長不死鳥のマルコさん?」
「………」
賞金稼ぎだったのかよい、と顔を苦くすれば。この道では結構有名なんだけどね、と○○は楽しそうにまた酒を煽った。けれど、そこで“ひく”マルコではない。彼女はオヤジに引けを取らない酒豪だ。仲間に、と船に連れて帰ればオヤジも喜ぶことだろう。
なにより、
(本能がこいつを欲しがってるみたいだい…)
そう思えるほどマルコの胸は情熱に熱くもえていた。
彼女の手から酒を奪い取り、マルコも勢いよく煽った。
「じゃあ、どうだい。ここらで海賊になるってのは」
ここらで「なら仕方ねェな、」と手を引くと思っていたのだろう。○○は苦笑しながらガラスに口を付ける。
「ミイラ取りがミイラになっちゃうわね、それじゃあ」
「何か不都合でも?」
「そんなにわたしを仲間にしたいの?」
「お前ほど魅力的な女は居ねェよい」
その言葉に「理解しかねる」といった表情で肩をすくめてみせた。それはまるで“男共は節穴ね。他にいくらでもイイ女はいるのに”とでも言いたそうな表情だった。
(もしお前が言うようにお前以上の美人が目の前に現れても、おれは惹かれねェだろうよい)
美人を前におれも焼きが回ったよい、とマルコは酒を煽る。そんなマルコの様子を観察するように、頬杖をついてこちらを見ていた。それは興味を持ったような眼でもあったし、呆れたような眼でもあった。
「わたしが仲間になったフリして寝首をかくって思わないの?」
腰の剣は“まだ”抜かれていないが、いつ抜かれるか分からない。こうして微笑んでくれてはいるが、内心“おいしい首”と思ってるかもしれない。
狙う者と狙われる者……敵同士なのだから、もっと危機感を持った方が良い。○○の言葉はそんな風に聞えた。
マルコは小さく笑いながら指先で○○の爪をなぞる。
「お前になら寝首をかかれてもいいよい」
「モノ好きな男ね」
「わたしがその気ならとっくのとうにやられてるわよ」、その彼女の言葉に、少なくとも“その気”じゃないのを知り、マルコはほくそ笑んだ。
この男について行くべきかどうか、悩んでいるのは目に見えて分かった。ただ、彼女はそんな素振りも見せずにマルコの指先を遊んでいる。
暗いバーの中、オレンジ色の灯りが○○の顔を照らし、より美しさを強調していた。彼女の眼がオレンジ色に染まっているのが不思議で、マルコは眼を逸らせずにいた。一方で○○は自分の青い眼の方が気になるようだったが。
もしわたしが仲間になるとして、と彼女が口を開いた。
「空き部屋はあるの?」
「いや、今のところねェな」
なら駄目じゃない、と彼女が肩をすくめる。
指と指の間を引っ掻かれ、マルコは眉を顰めた。だがマルコはくく…と喉で笑いながら○○の細い手を取り、
「だから当分はおれと“同居”してもらうよい」
見せつけるように、彼女の眼を見ながらその白い甲に口付ける。ぴく、と指が動いたのを見逃さずにもう一度口付けた。
○○は笑いもせず怒りもせずただ無表情でこちらを見ていた。どちらかというと周りのギャラリーの方が「あの男ついにやりやがった!」「羨ましいよ」「命知らずだな…」と沸いていた。
(………………………)
絶対にいけると思っていたが、マルコは口内の水分がなくなるのを感じていた。それだけ本気、ということなのだろう。らしくねェよい、と自嘲しつつも願わずにはいられないのだ。どうか頷いてくれますように、と。
誰もが固唾を呑んで○○の返事を待っていた。
すると、くすっと小さく笑った○○。その笑顔に誰もが胸を撫でおろした。ただ、こんなに強気で迫ってくる男など居なかったのだろうか。あなたみたいな男は初めてよ、と肩を揺らしておかしそうに笑っていた。
「いいわ、もうこの仕事は潮時だと思ってたの」
「○○」
「あなたについて行くわ、マルコ」
するりと手を抜かれ、マルコは逃がさまいと○○の手首を掴んだ。
「それはおれのものになるってことかい?」
「それはどうかしら?」
わたしはそんなに甘くないわよ、と予想外にひるがえされた手。
けれどその眼が絶えず揺れていたのをマルコは知っている。
(お前だっておれと同じ気持ちだろい?)
熱のこもった瞳にマルコは確かに勝機を見出した。
------------------------------------------------------
02. きつつきマスク (キラー) ♪これがFoll In Love KREVA
頭を優しく撫でる感触に○○が小さく鳴くと、くぐもった笑い声が聞えた。瞼をゆっくりとあけると、そこは昨日と変わらないキラーの部屋がひろがっていた。ただ、変わっていたのはベッドに沈む自身の身体だった。ぼんやりと映るそれはいつもの生白く細い腕ではなく、青く澄んだ空を自由に羽ばたくための翼だった。
きっと、寝ている間に隼に変身してしまったのだろう。
よくあることだ。
一緒のベッドで寝たはずなのに、朝起きるとなぜかキラーがソファーで寝ている。不思議になって訊いてみると「狭くてな、」誰かのせいで、と低い声で威圧されることはままある。
今回もそうなのか、と少し冷や汗を感じながら視線を巡らす。ベッドに腰掛ける、見慣れたジーンズが見えた。フリンジが揺れる度、優しく頭を撫でられるその感覚。○○が寝ている間もずっと撫でていてくれたのだろうか。目の下を撫でられたくすぶったさに小さく羽ばたくと「起きたのか」とキラーが小さく笑った。
「くすぶったい」
ぺし、と軽くキラーの手を叩いても止める気はないのだろう。優しそうな顔で(多分)ずっと撫でてくるのだ。キラーがこんな優しいのも甘やかすのも久しぶりのことで、○○は思わずキラーに擦り寄った。
わたしって愛されてるなあ…とすりすりしていると。
「ずっとそのままだといい」
不意にそんなことを言うキラーを不審に思いつつ、○○は顔を上げた。
「…なんで?」
「その方が素直で可愛いからだ」
そのキラーの言葉に甘やかな雰囲気はどこへやら。○○の顔は徐々に険しいものとなり、黙ったまま起き上がる。すると彼を見下ろす形となり、威嚇するように大きく羽を広げ、そして静かに折りたたむ。
ゆっくりと彼の顔に顔を近付け、鳥類とは思えない低い声で囁いた。
「……その穴に
それは勘弁してほしい、とキラーは肩をすくめた。
どうせわたしは喋らない方が可愛いんでしょ、といじけてベッドにもぐれば。シーツの上からキラーが覆いかぶさってくる。冗談だ、と彼は言ったけれどそれが紛れもない“本音”だったと知っている。もう知らないわよ、そう不貞寝しようとしたのだが。
○○、悪かった、誤解だ、…と焦るようなキラーが珍しくていつの間にか怒りは消えていた。その証拠に必死そうな彼の様子が可笑しくて堪らないのだ。きっとキラーは○○が怒りに震えていると思っているのだろう。違う、笑いを堪えて震えているのだ。
いつもわたしが意地悪されてるんだから、たまにはお返しだって必要よね?
そう思い、「好きだ」「愛してる」と囁きかけてくるキラーに小さく笑った。
fin.