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01. 掌中の珠 (白ひげ) ♪The Meaning Of Us 安室奈美恵
「オヤジ、どうしたら子供じゃなくなるの?」
膝に座る○○が突如口にした言葉に、彼女の頭を撫でていた白ひげの手が止まる。○○は少し頬を染めて恥ずかしそうに、どこか辛そうに見上げてくる。
○○はとある冬島で仲間になった少女であった。いつもと同じように昼過ぎにやってきて膝に座ったかと思えば、一体どうしたのだろうか。
「グララララ……どうしたんだ、急に」
白ひげのその言葉に○○は覚悟を決めたように口を開く。
「わたし…早く、大人になりたいの」
「大人になってどうする?」
「……」
そう訊くと更に頬を染めて俯いてしまう。大方早く大人になってマルコに似合う女性になりたい、と思っているのだろう。彼女がマルコを想っているのは仲間になったときから知っているし、いつもマルコのことで頬を染めていた。まだ少女だからか、反応も面白いほど分かりやすい。この船の誰もがその気持ちを知っている。
マルコに相応しい女性になりたい、という微笑ましい彼女の思いに、グララと笑って頭を撫でてやる。
「そんなの歳とりゃ嫌でも大人になる」
「でも……」
今すぐ大人になりたいの、という○○の言葉を遮って白ひげは言葉を続ける。
「そんなに急いで大人になろうとするな。おれも寂しい」
白ひげとしても息子であるマルコと、目に入れても痛くない愛娘である○○が結ばれたら嬉しい。けれど放っておいても嫌でも大人になるのだ。それまでは手元に置いていてもマルコも怒らないだろう。可愛い娘をいつまでも手元に置いておきたいこの気持ちをマルコも分かってくれるはずだ。
“父親”に「寂しい」と言われたことが嬉しいのだろうか。先程までの哀しそうな顔はどこにいったのか、○○は満面の笑みで「うんっ」と頷いた。良い子だ、とでも言うように撫でていると。
ふと視線を感じて顔を上げる。
(それで隠れてるつもりか……グララララ)
甲板の建物の影、そこから見える男の背中。壁に寄り掛かって隠れているつもりなのだろうが、こちらからはその金髪と赤く染まった大きな耳が見えている。
(これで分かったかバカヤロウ)
○○も一時の感情でお前のことを「好きだ」と言っているわけじゃないと。
(お前も覚悟しとけよ。おれの可愛い娘に惚れたってことはそういうことだ)
両想いになったときには拳の一発でもお見舞いしてやろうか。きっとマルコも覚悟していることだろう。オヤジに一発殴られてもおかしくねェよい、と。
おれもまだまだ長生きしたいもんだ、と白ひげは大いに笑った。
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02. 鈍光の指先 (キッド) ♪人魚姫 倖田來未
なァおい…あんたいい女だな、と手を掴んできた男。人の都合も聞かずに“連れて行こうとする”男を伸すために○○は手を振り上げる。
しかし、その手は振り下ろされることはなかった。その男のこめかみをナイフが貫通したからである。
これまで何度も目にしたことのある光景に深く溜め息をついた。勢いよく倒れた男に「海賊だっ」と周りにいた人々が走って逃げていく。
(あなたは勝手に船を出て行ったわたしが悪いって言う?それとも無防備に歩いてたわたしが悪いって言う?)
どっちにしてもいつもわたしが悪いって言うのよね、と溜め息交じりで振り返れば。
想像していた通り、そこには怒気を帯びた顔つきで立っている男が居た。突き出された手からナイフが飛んできたのだろう。その黒い指先は太陽の光を浴びて鈍く光っていた。
その男こそ我らがキッド海賊団船長ユースタス・“キャプテン”キッド。
そして………。
痛みだした額を手で押さえながらキッドに問いかける。
「キッド……何でそうやってすぐ殺すの?」
自分勝手で強引な男は面倒で仕方ないが、なにも殺すことない。平手打ちを喰らわせばそれで済むことなのに、キッドはそれを許さない。○○に絡んできた男をひとり残さず殺すのだ。
「あ? 何でかって……?」
不機嫌なのを隠しもせずに近づいてくるキッド。黒いファーコートが風でひるがえり、それが真夜中の獅子を連想させた。辺りに漂う血の匂いがそうさせているのかもしれない、とゆっくりと瞬いた。
ざっ、と目の前に立ったキッド。
自分よりも幾分も背の高い彼を見上げると、伸びてくる手。いつ首をへし折られてもおかしくないと思うのに、その指先は酷く優しいのだ。
黒い指先がツツツ……と頬をなぞる。
「苛つくんだ、他の男がお前に触れてるとなァ……。それだけだ」
「………」
有無を言わさないつもりなのか。強引に肩を抱かれ、○○は口を噤んだ。キッドの強引さはいつも遠慮がなく、思いきり脚が絡みそうになるのだが。
(なんでいつも……)
彼はわたしの肩を抱いて歩くのだろう。
船員は基本的に船長の“所有物”である。そして船で唯一の女戦闘員である○○は当然“そういう意味”でもキッドの所有物であった。キッド海賊団の船員になったその日から、その関係は続いている。けれど、その関係は“恋人”なんて生易しいものではない。キッドがその気になれば、「おい、○○」と腕を掴まれベッドに連れて行かれる。キッド、わたし……、そう言葉を紡ごうとする。だが忍びこんできた冷たい手に声を奪われ、「もう黙れ」と唇を塞がれる。
割り切った関係なら、と情事が終わりすぐに帰ろうとすれば。もっと居ろ、と腕を掴まれてベッドに引き戻される。またするのかと思えばそうではないのだ。厚い胸板の上に乗せられ、ただ優しく頭を撫でられる。
“なに”をするつもりはなくても、キッドは「傍に居ろ」と言うときがある。船長室、そこで何するわけでもなく抱き寄せられて。本を読むキッドの脚の真ん中で、彼の吐息を感じながらそっと目を閉じる。天国にも地獄にも感じるこの時間を、○○は泣きそうになりながら過ごすのだった。
言葉もない…気持ちもない“只の女”ならばこんなこと、しなくてもいいのに。それでもキッドは○○に触れた男は許さないし、傍に置いておきたがる。○○はそれが辛くてしかたないのだ。
(こんな男に惚れるなんて……)
馬鹿な女、と自嘲する。それでも期待せずにはいられないのだ。彼がいつか……この行為に言葉をつけてくれることを。
(それがわたしにとって幸せなのかどうかは、……もう分からないけれど)
fin.