デフォルトは「水無月咲涼(ミナヅキ キスズ)」となります。
その他【短編詰め】
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好物は最後のお楽しみ。
金田くんは常に女の影を纏っている。
アンニュイな笑顔はどこか心惹かれ、芯の強さは見習いたくなる。あの真っ赤なバイクを乗り回すことは男女関係なく憧れることだろう。ましてやバイクチームのリーダーだなんて、本当にかっこいい。
妙な薬を飲んでることはネオ東京では大した問題じゃない。私達にとってこの治安の悪さは普通だもの。よそじゃもっと……品のある生活が普通らしいけど。
とにかく金田くんは女にモテるんだ。彼を慕う人間は、欠点すら長所に見えてるんじゃないかな。
かく言う私も金田くんのことが好きだ。できるのなら彼のそばに立っていたい。だけど、私にはそれができなかった。
彼の腕にまとわりついて隣を歩けるほど美人じゃない。同じような薬を飲んだり、タバコを吸ってみたり……そこまで素行の悪い日々を送る度胸もない。保険婦みたいに、薬を作る知能もない。
金田くんにとって私は、たぶん大した価値はない。
「お遊びでもいいから手を出してくれたらいいのに」
「まァたそんなこと言ってんのかよォ」
そばに居た甲斐くんは呆れたように溜め息をついた。バイクに跨って手持ち無沙汰にゴーグルを弄っている。地面に座り込んでいじける私に「聞き飽きたよ……」と呟いたが無視した。
山形くんも同様に呆れていた。もはや呆れを通り越して笑うしかないって感じの顔。
「金田だってよォ、嫌いな奴と話したりしねーって」
そうかもね。でも金田くんは私のことが好きってわけじゃない。私は恋愛感情を抱いてるの。だから彼のそばに居たい。遊びでいいから抱かれたい。
両思いになりたいなんて、望んでないから。そもそも金田くんが恋とか愛とか語ってるの見たことないし。あの人は可愛い女の子とヤることヤれればそれでいいんでしょ。
金田くんが大切にしてるのは女じゃなくて、バイクとか、友達とか……今その瞬間の楽しいひと時とかじゃないかな。
「え、え、ちょっと待って。私って金田くんの何なんだろ」
「そりゃァ……なァ?」
「あー……おう、そうだなァ」
顔を見合わせる甲斐くんと山形くん。なに、分かってるなら教えてよ。視線で訴えるが、二人とも苦笑いをして無言を返した。
ずっと黙っている鉄雄くんの方を見ると「俺からは何も言えねェって……」と困惑していた。
「なんで?」
「何でもだよ!」
鉄雄くんに聞いたってダメか。元から引っ込み思案なところがあるらしいし、私とはあまり打ち解けていない。今だって私とは目を合わせようとしないもの。何か知っていても話してはくれないだろう。
「鉄雄に聞いたって無駄無駄。金田にどやされンのが嫌なんだろ」
「違ェよ! 俺はただ関わりたくねェだけ!」
「大して変わンね~」
三人でわちゃわちゃと楽しげに話している。……意味わかんない。みんなして私のこと除け者にしてさ。結局なんも解決してない。
しかも肝心の金田くんはどこ行ってるの? ……保険婦のとこ? また?
はぁ~あ、なんて大袈裟な溜め息をついて立ち上がる。三人は言い争いをやめてこちらを見た。
「何だよォ、帰るのかァ」
「だって私は邪魔者でしょ。みんなバイクで行っちゃうんだし」
金田くんが戻ってくるまで待ってても、どうせここで別れることになる。私はバイクなんて乗れないからみんなと一緒に走れない。
それはいつものことだからいいの。彼らが走り去る背中を見るのは好きだし。羨ましいとは思うけど。
まぁ……女がバイクなんて、ね。良い男の背中にしがみついて二人乗りしてナンボでしょ。
「……後ろに乗せてくれる男でも探そうかなァ」
何の気なしに呟いた言葉だったが、三人は目を見開いて顔を青くした。
「……変な顔してどしたの」
「おッ……おま……バカヤロッ……!」
顔面蒼白の鉄雄くんが私を指差す。いや、よく見ると私ではない。私の……後ろ?
不思議に思って振り返ると、いつの間にか金田くんが立っていた。それはもう、貼りつけたような笑顔で。こんな表情を見ることは滅多にない。バカにしたような、怒ったような……うーん、何とも言えない笑顔。
「聞き間違いかァ? なァ、咲涼」
「何が? 後ろに乗せてくれる男でも探そうかな……って話?」
「そうそう、それだよ」
なーんだ、俺の耳がイカれたのかと思ったぜ。
金田くんはケラケラ笑って私の方へと歩み寄る。何だか様子が変。思わず顔をしかめて金田くんを見つめた。
そのときバイクの排気音が鳴り響いて、三人は「悪い! 先行くわ!」とか何とか言いながら居なくなってしまった。ずいぶんと慌てた様子で。
「いきなりどうしたの! ちょっと……!」
「まぁまぁ咲涼、アイツらのことは放っておこうぜ。それより今は俺と話すことがあンじゃないの?」
金田くんと話すこと? そんなの無いわ。たぶん、後ろに乗せてくれる男がどうこう、って話と関係あるんでしょ?
「なぁに? 金田くんが後ろに乗せてくれるの? 好きでもない女を?」
「はァ? 好きでもないィ?」
「そうでしょ! 私、何回も言ってるよね? 遊びでいいから抱いてって!」
「あー、それね。確かに何回も聞いたわ」
他の女とはシてるのに、私とは何もしてくれない。そりゃあ私には魅力がないし? 抱いたところでメリットもないし? そんなことシても時間の無駄かもしれないけど? 欲の発散くらいはできるんじゃない!?
「咲涼チャンはさァ、好きなものって先に食う派?」
「え……何いきなり……」
いーから教えてよ、と言う金田くん。私は少し考えて「最後かな……?」と答える。正直そのときによって違うけど、好きなもので締める方が多いかも。
金田くんはにっこり笑って「俺も」と頷く。
「俺にとって咲涼はそーいう存在だよ」
「……というと?」
遠回りな言い方はきらい。私はバカだからハッキリ言ってもらえないと分からないの。金田くんって曖昧に言うところあるよねっ。
「だからァ」
金田くんは私の肩に腕を回し、ぐいっと引き寄せた。突然近付いた距離に胸が高鳴る。ただでさえ近いっていうのに、金田くんは更に顔を寄せた。
さっきまでへらへらと軽薄な笑いを浮かべていたけれど、今は真剣な表情でうっすらと頬が赤い。そしてやや苛立ったように声を張り上げた。
「好きなものにはなかなか手を出せねェ男なの、俺は!」
──好物は最後のお楽しみ。
(「だから男なんか探すなッ! 俺の後ろに乗ってろッ!」と顔と顔を真っ赤にした彼は、他の女に手を出していた不良少年とはまるで別人だった。)
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