デフォルトは「水無月咲涼(ミナヅキ キスズ)」となります。
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その顔で言うのはずるい!
私は、旅行好きの日本人。旅行のために仕事をして、節約もして、必死にお金を貯め、旅行先で豪遊するのが人生の楽しみ。せっかく旅に出たなら、お金のことを気にしてケチケチするのは嫌だもん。
今日は、友人とアメリカに来ていた。海外旅行はちょっと特別。やっぱりお金もかかるし、言葉が通じないのは不安だし、ホテルをとったり飛行機を予約したり……国内よりも大変なことは多い。
それでも日本では味わえない空気を感じることができるから、数年に一度は行きたいものだ。
「じゃあ、一時間後にここの噴水に集合ね! 遅れそうだったら電話すること!」
「了解!」
お土産選びのため、友人とは一時別行動をとる。
私はしばらくウインドウショッピングをした。歩いてるだけで楽しい。途中で適当な店に入り、ストラップやお菓子なんかを買い漁って、ほくほくでお店を出た。
……そこで、若い男に袋を引ったくられた。
「え……うそ……っ……ど、泥棒ーッ!!」
叫びながら全力で追いかける。けど、全っ然追いつかなかった。
足が早すぎる。せっかく買ったお土産だけど、お金もそこそこ使ったけれど、もう、諦めるしかないのかな。買い直し、かな。
酸欠気味の頭でぐるぐる考えていたら、ガタンッ! なんて大きな音が聞こえて、引ったくり犯が道端に倒れてしまった。引ったくり犯の目の前には赤いトレーラーヘッドが停まっている。……どうやら、突如現れたこのトレーラーヘッドに激突し、気絶してしまったらしい。
「やばいっ……起きる前に、集めなきゃっ……!」
私は慌てて荷物を拾い、息を整えながら未だ停まっているカッコイイその車に近付く。センキュー、と何度か言いながら運転席に向かって……それはもう、驚いた。
「……だれも、いない」
今しがた動いていたはずのトレーラーヘッドには誰もいなかった。影も形も。どうして何も乗ってないの? いっそ、子供のいたずらで動いていた方が納得できるのに。
でも、私はファンタジー小説やSF映画が好きだ。順応性があり、妄想癖もある。いつか宇宙人が地球に攻めてくるかも! なーんて考えたりしてね。
そんなわけで、私は無人で動く車に驚きはしたものの、怯えはしなかった。この車は私にとって恩人だから。
最近は無人運転の実験をすることもあるらしいし、ひょっとしたらAI搭載型の特別な車なのかも。
そう思った私は、小さな声でお礼を言った。
「……ありがとうございます、引ったくり犯を止めてくれて。貴方は私のヒーローです!」
この言葉は伝わるだろうか? ここはアメリカだから、英語の方が良かったかも。でも、英語だと何て言うのか……。
私は少し悩んだが、何か言う前に車が小さなクラクションを鳴らした。
今のって返事? きっと伝わってるんだ!
嬉しくって、もっと話したいって思ったけれど……人が集まってきた。道端で長居はできない。
ありがとう、と再度お礼を言って、私は待ち合わせ場所に向かった。……いや、向かおうとした。
「あー、どうしよう……道わかんない……」
引ったくりを追いかけてひたすら走ってたから、どこを曲がってきたのか覚えていない。それに、一度通った道だとしても逆向きだと頭がこんがらがってしまうし……。
困ったなぁ。とりあえず電話だけでもしておこう。地図を見て辿るにしても、待ち合わせには間に合わない。
歩きながら友人に連絡すると、大丈夫? 迎えに行くよ? なんて優しく言ってくれたけれど……ここがどこなのか説明もできないし、買い物でもして待っててよ、と返した。
まぁ、こういうトラブルも旅行の醍醐味……ではないけど……とにかく、何事も楽しまなければ旅は旅でなくなってしまう。焦ってはいけない。パニックになるのもだめ。
地図を見つつ、街並みを眺めながら歩く。
しばらくして、どうも目的地に辿り着かないな、と疑問が浮かんだ。地図だとこっちのはず。
『進む方向が全く違う』
「……えっ?」
どこからか声が聞こえた。周りを行き交う人は何人も居るが、私に話しかけている人は居そうにない。でも、日本語で声が聞こえた。低い声が。
『真反対だ』
「うそ……」
ここまで歩いてきた時間は何だったの? そして一体この天の声は誰なの?
きょろきょろ見回すと、見覚えのある車が目に付いた。あの赤いトレーラーヘッド。無人運転の特殊車両。そっと近付いて、地図で口元を隠しながらコソコソと話しかける。
「もしかして、話しかけてるの貴方ですか……?」
『そうだ。あまりにも見ていられなくてな』
「すごい、ちゃんと会話ができてる……!」
やっぱりAIか何かが搭載されてるんだ。そんな私の考えを読んだかのように、彼(?)は『私は金属生命体だ』と答えた。
「金属、生命体?」
『いや……忘れろ。それより、急いでいるんだろう。乗せていってやる』
「それはありがたいけど……何でですか? 貴方に何の得が?」
『特にない。気まぐれだ』
ひとりでに開いた運転席。こんな大きな車の運転席なんて初めて乗る。高い目線に圧倒されていたら勝手に扉が閉まり、やや乱暴に走り出す。慌ててシートベルトを締め、自由に動くハンドルや流れる景色を呆然と眺めた。
目的地に着くまで、時間にして五分もかからなかった。集合場所の噴水はすぐそこ。友達は……袋をたくさん持って待っている。
「ありがとうございます! えーと……お名前は?」
『……オプティマス』
「オプティマス! ありがとう、本当に」
何度もお礼を言っていると『早く行け』とぶっきらぼうに言われた。冷たい言い方だけど、心根は優しいんだろうなぁ。
「私、日本に住んでるんです。オプティマスも今度、機会があれば来てください。いい所ですよ!」
あー、でも、車だけでどうやって渡航するんだろう。というかオプティマスは結局、人工なの? エイリアンなの? どうして車の姿で、アメリカに居るんだろう……。
色んな疑問が現れては消えていく。こういうのは、あんまり踏み込んじゃいけない。映画の始まりじゃないんだし。
「じゃあ、さよなら、オプティマス!」
軽く手を振ってトレーラーヘッドから離れた。けれど一つ忘れていたことがあった。
振り返るとまだそこにオプティマスは居た。
「私、咲涼って言います! 名乗ってなかったなーと思って!」
今度こそお別れ。よく分からない車との不思議な出会いだったけど、旅行の思い出としては最高。非日常であればあるほどいい。……これは少し、非日常すぎるかも、だけど。
それから一年か……二年くらい経っただろうか。相変わらず旅行は好きで、今はそのためにお金を貯めている最中だ。次もアメリカにしようと思ってる。あのファンタジー体験は未だ私の心に深く刻まれていて、忘れることはできずに居るから。
彼のことが気になる。聞きたいことがたくさんある。奇跡が起きて彼と再会したとして、彼が全部教えてくれるのかは分からないけど。
でも……また会いたいな。
ねぇオプティマス、貴方は一体何者なの? 金属生命体ってどんな生き物なの? 家族や友達は居る? それってどんなひと? 教えてほしいな。
仕事終わり、残業続きで疲れている体を引きづって帰ると、アパートの前に見知らぬ男性が立っていた。青い髪の、ずいぶん背の高い男性。誰だろう。
「こんばんは……」
素通りも変だと思って小さく挨拶しながら横を通る。私の声掛けでこちらを向いた男性はすごく整った顔立ちで、綺麗な青い目をしていて、そして何故か……安心したように笑った。
「──咲涼」
「えっ? な、何で名前、知って……」
知り合い? いやいや、こんなイケメンの知り合いが居たら覚えてる。友人の友人……ってこともないだろう。見るからに外国人だし。
「えっと……ごめんなさい、私達、どこかで会いましたか……?」
「あぁ。だがこの姿ではない。分からないのも無理はないさ」
男性は優しく微笑むと、私の手を取った。
「私はオプティマス・プライム。また会えて嬉しい、咲涼」
「オプティマス・プライム……オプティマスっ?」
あの車? 赤くて大きい、あのトレーラーヘッドのこと?
「人間なの!?」
「いや、人間というわけでは……話すと長くなる」
長くなってもいいから聞きたい……! けど、まず聞くべきことが他にある!
「どうしてこんな所に来たんですか? 日本はいい所だって言ったけど、もっと観光地とか……」
この辺なんか、普通の住宅街だよ。元気な小学生が走り回って、うるさい大学生が自転車を乗り回して、大人はやつれてお疲れモード。そんな場所に来たって仕方ないのに。
オプティマスは首を振って、私の言葉を否定する。
「君が居なければ意味がない」
「……え?」
思考が停止した私に追い打ちをかけるように、彼は言葉を続けた。
「私は君に会いに来た。好きな女性には告白するものだと、インターネットに書かれていたのでな」
──その顔で言うのはずるい!
(オプティマスがあまりにも優しく甘く微笑むから、簡単になびきそうな自分が怖いよ。せめて車の姿で口説いて!)
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