デフォルトは「水無月咲涼(ミナヅキ キスズ)」となります。
実写TF【short】
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降参です、私はまだまだ子供です!
「ただいま帰りました」
『遅いぞ』
拠点に帰ってくるなり、私がお世話になっている組織ディセプティコンのリーダー、メガトロン様に怒られてしまった。
素直にごめんなさいと謝れば、彼はふんと息をつく。心配してくれたのかな? ふふ、嬉しい。
『申し訳ありません。全て私の不徳の致すところです』
恭しくお辞儀をしながら謝罪するのはサウンドウェーブ。私が買い物に行くとき、よく乗せていってくれるひとだ。
私は慌てて彼の前に立って弁明した。
「違うの、私があちこち連れてってもらったから! 必要なものがたくさんあったんです」
メガトロン様は機嫌が悪そうだったけど、サウンドウェーブに『任務に戻れ』と端的に指示した。彼はメルセデス・ベンツに素早く変形しビュンと走り去った。いつ見てもカッコイイ車だわ。
残された私は、荷物を冷蔵庫に仕舞ったり倉庫に置いてきたりして、またメガトロン様の所に戻った。
『何も無かったか』
「はい。サウンドウェーブが居たので、何も」
『それならいい』
笑顔で頷く私に、メガトロン様は満足そうに頷き返した。
私がディセプティコンと共に居るのは、まぁそれなりの経緯がある。
数年前まで私は、とある会社で秘書を務めていた。当時スケジュール管理やらに追われる日々を送っていたんだけど、突然地球にやってきたエイリアン、トランスフォーマーのサウンドウェーブに脅され、あらゆる情報をディセプティコンに渡すようになった。人生って何があるか分かんないよね。
私にはその情報が何の役に立つのかは分からなかったけど、死なないためにはそうするしかなかった。
仕事に追われ、指示があればディセプティコンに情報を渡す。そんな毎日を過ごしていたある日、仕事でヘマをして退職することになってしまった。情報漏洩がバレたとかではなく、単純にミスをした、それだけ。
正直、ディセプティコンに殺されると思った。利用価値のなくなった私は用済み。存在を知る者を生かしておく必要もないはずだから。
そんな怯えに反して、どういう訳か私はディセプティコンの拠点に連れて行かれ、親玉のメガトロン様と対面し、何やかんやで囲われている、というわけ。
……え? その“何やかんや”が大事なんだ、って?
確かにそうかもしれないけれど、それはまぁいいじゃないか。
『こっちに来い』
ちょいちょい、と指先で呼ばれ、言われるがまま近くに寄る。すると彼はその大きな指で私の頭をさらりと撫でた。とてもとても優しい手つき。
破壊大帝だなんて呼ばれてるらしいけど、その呼び名は少なくともメガトロン様の私の扱い方には相応しくない。
「くすぐったいです!」
『我慢しろ』
メガトロン様にとって私はペットみたいなものだろう。人間の配下が居れば都合がいいっていうのもあるのかもしれない。
私もその立ち位置に不満はない。出会いが最悪だったとはいえ、今はディセプティコンのみんなが好きだ。特に、メガトロン様は。
彼らは地球人にとって悪そのもの。だけど……彼らが悪であることと、彼らを好きになることは、ちょっと違う話だから。
かといってみんなの悪事に加担するのかと言われるとそうでもない。うーん、まぁとにかく、彼らが好きだから一緒に居るってだけ!
「あっ、そうだ。メガトロン様、今日は家に帰りますね」
私の言葉を聞いた彼はむっと顔をしかめて私を持ち上げた。
『何故だ。ここに居ろ』
赤い目は怒っている。
何故って……週の半分くらいは家で寝て、もう半分はここに泊まってるのはいつものことなのに。
「家に帰るくらいいいでしょ? お仕事もありますから」
『だがお前は俺のものだろう。近くに居るべきだ』
俺のもの。
そういう言葉を聞くと、胸が熱くなる。どくんと心臓が高鳴って、きゃーっ! と黄色い歓声をあげたくなっちゃう。……けど、我慢、我慢。
内心盛り上がって落ち着かない私をよそに、メガトロン様は苛立った顔をさらに怖ーい顔にした。
『そもそも帰るつもりならもっと早く言え。サウンドウェーブを呼び戻すのも面倒だ』
「ここからなら一人でも帰れますよ!」
メガトロン様は、いつも私に部下をつけてくれる。さっきみたいにサウンドウェーブがついてくれることが多いけれど、たまにバリケードも来てくれるし。パトカーで街中を走るのはすごく恥ずかしいけどね!
この拠点から私の家はわりと近い。歩いて数十分、ってところ。だから車がなくとも帰れるというのに、彼はいっつも部下を呼んで私を送らせる。
嬉しいけど、心配しすぎ!
「私はとっくに大人なんです。子供扱いしないでください!」
『ほう』
彼はわずかに微笑んだ。いや、微笑むというよりは、悪いことを思いついて思わず笑ってしまったような……そんな顔。
珍しい。笑うなんて。かなり嫌な予感がするけれど。
『大人、か。ならば相応の扱いをしてやるか』
「え……」
彼の大きな顔が近付いてくる。さすがに怖くなってぎゅっと目をつぶると、冷たくて固い感触が口周りに触れた。
「ひゃっ!?」
パッと目を開ければそこにはシルバーの輝き。ふ、と笑った彼は少し移動して、私の首から肩にかけて大きな唇を押し当てた。
「ひゃあっ」
『いちいち喧しいな』
「だ、だって……!」
メガトロン様にこんな、き、キスされてるなんて、し、心臓が破裂しそう……! 夢か幻? こんなことがあっていいのかしら!
彼は顔を離し、意地悪な笑みを浮かべた。
『大人の扱いをしてやってるだけだが?』
「ぅぅ……うぅ……!」
私は真っ赤な顔で肩を震わせて、か細い声で叫んだ。
──降参です、私はまだまだ子供です!
(何千年も生きている貴方に“大人”を見せつけられたら、敵うわけないでしょう!?)
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