デフォルトは「水無月咲涼(ミナヅキ キスズ)」となります。
実写TF【short】
What's your name?
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
俺達はよく、表情がないと言われる。確かに豊かとは言えないかもしれないが、笑うし、"眉間にシワがよる"という現象だって起こる。思わず目を細めたり、口をむっと閉じたりと、これでもかなり顔に出るのだ。
しかし人間にしてみればこんなものは微々たる差で、分かりやしないそうだ。言っとくがな、アンタ達がすぐ顔に出て分かりやすいだけなんだぜ。そんな分かりやすい生命体はいねぇよ。全く変化がないように見えて、目が全てを物語ってることなんかしょっちゅうだ。
まさに"目は口ほどに物を言う"。これは俺達、トランスフォーマーにも言えること。まぁ俺はバイザーをつけているから、目が語る言葉は誰にも伝わらないのだが。
『Ciao, Jazz.』
『Dino. Is it return of the mission?』
『Yes.』
任務帰りだという赤いフェラーリ。その車のせいか、挨拶もイタリア語混じりなのだからいけ好かない奴だ。
当然話し方は車とは関係ない。例えば俺がスペインに落ちて現地の車をスキャンしたとしても、恐らくスペイン語混じりで話すことはないだろう。インターネットで学習さえすれば何語でも話せてしまうのだから、わざわざ複数国の言語を混ぜ合わせることもない。
稀に、喋り方の癖が抜けずに苦労するトランスフォーマーも居るが。英語を話したいのにフランス語の癖が抜けずに上手く発音できない、だとか。やはり、どの国のインターネットを介して学習するかによって、変わってしまうものなのだろうか。
ディーノは疲れているようだった。俺達はそう簡単に傷付いたりしないし、よほどでないと死んだりもしない。呼吸らしい呼吸なんて必要としないから、人間にしてみれば疲れすらもないように思えるだろう。
だが実際は、案外疲れていたりするのだ。人間のように激しく動いたから息切れするのではなく、単純にエネルギー切れが起きる。俺達のエネルギーはエネルゴンと言われるものだが、大量に作れるわけではないので、手に入ったものを皆で分けると、それぞれの量はほんの少ししかない。十分生きていられるが、敵との一戦を終えたあとは多少調子が悪くなることだって当然ある。それは息切れと似たようなものかもしれない。金属生命体だって万能じゃないんだ。
『Ah! Don't have time!』
時間がねぇ、大変だ、と騒ぎながらビークルモードになり、走り去ったディーノ。任務の報告に行ったのだろうが、そんなに急いでどうするのだ。また任務に向かうわけじゃあるまいし、あとはゆっくりしていればいいだけのはずだ。武器のリペアはしなければならないとしても、あんなにも急ぐほどではない。なんなんだ。
しかし、まぁ、俺もビークルモードで移動すればいいのだと、ふと思う。俺はただ格納庫に戻って待機していようと思っただけだ。どこかに急用があるわけでもなかったから何の気もなしに歩いていたが、移動という観点で見れば当然車の方が早い。
俺は勢いをつけてソルスティスになり、出せる限りのスピードで走った。本当は基地内を暴走するのは禁止されているが、たまには規則を破りたい気分にもなる。なに、事故になんて絶対ならないよう、細心の注意は払うさ。全てのセンサーを全開。範囲内に少しでも生物の反応があればスピードを落とす。たまに角を曲がったりして……。
そうして、格納庫に着いた。そこにはいつも、ビークルモードでずらりと仲間たちが並んでいるのだが、今日は珍しくロボットモードで集まっている。何やら雑談をしているような和やかな雰囲気だが、一体どうしたというのか。
アイアンハイドが俺に気付き、『Jazz!』と呼びかけてきた。他の連中も同じようにこちらを見る。みんなの視線が嫌な感じだ。舐め回すような、じっとりとした目。もしくは、奇怪なものを笑いながら見るような目。
なんだなんだ、俺は珍しいもんじゃないだろ。どこか変なところでもあるか?いつだって俺はイカしてるはずだ。いや、確かに先日の戦いで少しばかり傷が増えたが……。
「ジャズ」
『What?』
聞きなれない、懐かしい響き。同じ言葉なのに、英語とはどこか違う、不思議な響き。俺の聴覚センサーはその小さな小さな音をとらえ、心を掻き乱した。
声の主はバンブルビーの影から姿を現した。それはここから遠く離れた日本に居るはずの、愛しい愛しい恋人。
『Why!? You……お、お前、いつ、なんで、ここに……』
彼女を手に乗せ、少し顔に近付けると、「びっくりしたでしょ?」と笑った。そりゃあもちろん、驚かないわけがない。
「やだ、泣きそうな顔しないで」
困ったように笑う彼女が綺麗で愛おしくて、俺はブレインサーキットを無理に稼働させることは諦め、本能のまま、彼女の声も表情も香りも全てメモリーに記録していった。
──Expressions.
(泣きそうな顔、だと。彼女にはお見通しらしい。)
1/4ページ