デフォルトは「水無月咲涼(ミナヅキ キスズ)」となります。
最も偉大な発明家は誰か?
What's your name?
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9.来訪者の多いパン屋さん。
「アイアンハイドさんの? ってことは……」
そこまで言って私は言葉を切った。誰かに聞かれちゃまずいだろうから。
カウンター越しに二人に近付いて囁く。
「……軍人さんですか?」
「そうそう! NESTってとこの」
同じように小声で言う銀髪のサイドスワイプさん。
そして青髪のジョルトさんがにこやかに続けた。
「アイアンハイドが女性を送迎してると聞いて、どんな方か見てみたかったんです」
「俺のお師匠サマはまぁ……無骨な感じだしな。女っ気なさそうだろ?」
「確かにそうですね……想像できないかも」
大量のパンを袋に詰めながら、アイアンハイドさんの隣を女性が歩くのをイメージしてみた。ぼんやり雲みたいなモヤが浮かんでるだけで、全っ然想像できなかった。
性格を引いても、見た目からして女の人からは敬遠されそうな雰囲気がある。男性でも人によっては近寄り難いんじゃないかな。
でもポジティブに考えるとワイルドで逞しいってことだよね? 右目を走る傷痕も軍人だと言われたら納得できるし。
見た目はかっこいいと思う。青い目は綺麗だし、彫りは深くて鼻は高い。低い声も素敵だと思う。
ただ、無愛想な性格が損してるかな~、なんて……。
「だよなぁ、想像しろって方がおかしいよ! アイアンハイドは根っからの軍人気質だから」
「仕事の一環とはいえ、わざわざ女性のために時間を割いているなんて……気になるのは当然ですよ」
そういうもんか。じゃあ私は面白半分で見物に来られたわけだ……。
「美人じゃなくて申し訳ないですねぇ」
「え? そんなことないだろ、咲涼は可愛いと思うけど」
「かわっ……」
可愛い!?
初対面の人に可愛いなんて言われたの初めてだよ! そもそも可愛いなんて他人に言われることないし! せいぜい母親くらいじゃないかな!
「ジョルトはどう思う?」
「一目惚れ……って言ったら?」
「っえぇ……!?」
ジョルトさんは変わらない笑みを浮かべている。ずっと微笑んでいるから感情が読み取りづらい。サイドスワイプさんは屈託のない無邪気な笑顔を見せているし。
私は顔に熱が集まるのを感じて、慌ててレジを打った。
この……若い人達は……私をからかってるな!?
「お会計は三千五十円ですっ!」
「わぁ、ほんとに来てくれるんですね」
「下らん嘘はつかん」
仕事を終え店の周辺で待っていたら、朝乗ったのと似たような車が近くに停まった。アイアンハイドさんは顎で指して「乗れ」と言うので、そんな雑な対応しなくても……と苦笑いをする。
私は巻き込まれた被害者だ、って言ってはくれたけど、そのわりに怖いというか、圧をかけられているというか……。
アイアンハイドさんはみんなにこういう態度なのかな?
「あっ、そういえば、サイドスワイプとジョルトがお店に来ましたよ。アイアンハイドさんの仲間なんですよね?」
「何? あいつらが?」
私の言葉にわずかに驚いた様子のアイアンハイドさん。盛大に舌打ちをして眉間にシワを寄せている。
「チッ……余計なこと言ってねぇだろうな……」
帰ったら問いたださねぇと、と呟く顔は鬼教官って感じがした。
サイドスワイプもジョルトも気さくですごく話しやすかった。ノリのいい若者だし、人懐っこい感じだし、からかわれたのは気に食わないけど……そんな冗談を言う軽さも良いところなんだろう。
お会計の後もお客さんが居なかったから少し話していた。呼び捨てで良いから、と言われたり……あと何だったかな。
あ! バンブルビーさんとか、ディーノさんとか、他にも仲間が居るから今度連れてくるって言ってた! いつになるかは分かんない、とも言ってたけど……。
それに、あのパン屋にぞろぞろ来られてもちょっと困る。
「あの、私を助けてくれた方ってまだ日本に居るんですか? 赤い体の、女性みたいな声をした……」
「アーシーのことか? まだ居るが、すぐにアメリカに戻る」
「そうなんですか……」
一言お礼が言いたかった。あのとき彼女が助けてくれなかったら、私は落とした卵みたいに哀れな死に方をしたと思うから。
「黒い大きいひとは? まだ居ますか?」
「それは……」
少し言葉に詰まるアイアンハイドさん。何か考えてるのかな?
「……ディセプティコンをあらかた片付けるまでは日本に居るだろうな」
「そうなんですね!」
また会えるかなぁ。人間よりも遥かに大きくて怖いけど、たぶん優しいひとだ。逃げろって言ってくれたもの。
あのひとにもお礼を言いたいな。
……でも、トランスフォーマーに会える機会なんてないんじゃない? 存在が機密なんだから。
「あの、助けてくれてありがとうございましたって伝えておいてくれませんか?」
「……あぁ、分かった」
仏頂面だけど頷いてくれた。良かった!
そうしてるうちに家の近くに着いた。お礼をしてアパートに向かうとアイアンハイドさんに呼び止められる。
「ストラップの件だが」
「もう返してもらえるんですか?」
「……、いや、悪いが返すことはできない」
「そうですか……」
残念。これを機に、買ったはいいけど封を開けてすらいない他のストラップを使おうかな。そういうのって、どんどん溜まってくんだよね。買う時は何かにつけようって思って買うんだけど、結局どこにもつけないの、何でなんだろうね。
「じゃあ……ありがとうございました」
軽く礼をして帰宅した。
夜ご飯はどうしようか。食材はそれなりにあるから……適当にチャーハンとお味噌汁でも作ろう。余れば明日食べれるし。
そんなことを考えながらカバンをほっぽってお風呂に入ってご飯を食べる。面倒にならないうちにお茶碗を洗ったら、テレビを見ながらダラダラしていた。寝たくないけど、することもない。
「……チョコでも食べよっかな!」
冷蔵庫を開ける。近頃は冷えてきたとはいえ、常温だと柔らかくなっちゃうから冷蔵庫に入れて……あると思っていたチョコは一つもなかった。あれ? 食べちゃったっけ?
困った。もうチョコを食べたい口になってるのに。
「しょうがない……」
買いに行こう!