デフォルトは「水無月咲涼(ミナヅキ キスズ)」となります。
最も偉大な発明家は誰か?
What's your name?
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8.信用のしかた。
「送っていただいてありがとうございます」
勤め先のパン屋から少し離れた場所で降ろしてもらった。いくら何でも目の前でゴツイ車から降りるのは、同僚の皆さんから変な視線を浴びるに違いなかったから。
「気にするな。帰りは何時になる」
「え……六時、くらいですかね」
今日はちょっと早い時間からの仕事だから、帰りも同じくらい早い。
それを伝えると、アイアンハイドさんは「分かった」と頷いた。
「帰りも送ることになるだろう。その辺で待っていろ。くれぐれも勝手に動くなよ」
「でも……」
「分かったな?」
強く言われると黙るしかない。はい、と小さな声で返すと、しょぼくれる私を見据えてアイアンハイドさんは車に乗り込んだ。そして喧しい音を立てて走り去る。
「おはようございます……」
「おはよー。……なんか水無月さん、元気ない? 大丈夫?」
井上さんが怪訝そうな顔をする。「具合悪いなら無理しなくていいんだよ?」なんて珍しく優しい言葉をかけてくれた。
「大丈夫です。寝不足で……はは」
適当に誤魔化して仕事の準備を始めた。
焼きたてのパンを並べながら、外を歩く人を眺めた。平日の昼間なんてあんまり人は居ないけど、大学が近いしお洒落なカフェもこの通りにあるから、賑わうときも意外とあるんだよね。
「暇だなぁ」
暇になると、ぼーっとして考え事をしちゃう。
なんか……本当に信用していいのかな。NESTってネットで調べても全然ヒットしないし。ほんとにそんな組織あるのかな?
トランスフォーマーだって全くの嘘ってことはないんだろうけど、そんな漫画みたいな話……。
彼らの服装は軍人そのものって感じだけど、似たような服はどこでも売ってると思う。私みたいな素人には本物と偽物の違いなんて分かんないし。
ストラップは持ってかれちゃったし。っていうかそもそも、いつの間にか家がバレてるし!
え? あれっ? 何で私の家知ってるんだろう。こわい。彼らは軍人さんだから警察みたいに特別な権限を持ってて、住所を調べるくらい簡単ってこと?
こわぁ……。
私、完全に変なことに巻き込まれてるよね?
「どうしよう……」
「何が?」
井上さんがきょとんとした顔でこちらを見ている。話したところで分かるまい。
首を振るのを返事として、何も答えなかった。だってこれは、考えたって仕方ないことだ。非現実的なことばかり起きてるんだもん。誰に相談しても信じてもらえやしないだろうし、ネットで調べても知恵袋は解決法を教えてくれやしない。
「ふぅん。じゃあ俺、ちょっと休憩入ってくるからよろしくね」
「はい」
奥に下がっていく井上さんを見送る。
──ぶっちゃけ逃げたい。私はあの日デカブツの戦闘を目撃してしまっただけで、あとは何っっにも知らないのに、金属の宇宙人に狙われてるっぽいよ! とか、俺達は特殊組織だよ! とか言われても……。
まぁ、逃げると言ったって、NESTだかに家がバレてる以上逃げた先もバレそうだし、そのトランスフォーマーってのは頭がいいらしいから私なんか簡単に捕まえられるだろうし、逃げ切るのは無理そうだよね……。
改めて考えてたら頭パンクしそうになってきた。
もう、なるようになれ!
「……ん?」
不意に、外から店を覗き込む怪しい人影が見えた。アイアンハイドさんのような軍服を着た二人の男性のようだ。髪は銀色と青色、太陽の光を反射してキラキラ輝き、青い瞳でこちらを見ている。若そうだけど……。
右往左往の末、扉をくぐったその男性達。物珍しそうにキョロキョロ見回してこちらにやってきた。
近くで見ると二人ともイケメンで、髪色が奇抜な分とてもよく目立ちそう。なんというか……両方やんちゃしてそうな顔してる。
「Hello. Ah……オススメは何かありますか?」
「オススメ?」
発音のいい英語だと思えば、今度は流暢な日本語。アイアンハイドさんみたい。知り合いかな?
いきなりオススメを効かれてもなぁなんて思いながら、期間限定の甘いパンや、しょっぱ系の食べ応え抜群ボリューミーパンなんかを教えた。
「いいね。俺らは食えねぇけど、みんなここのパンが美味いって喜んでるんだ。今日は俺が買い物当番だからな、あのパン屋で買ってこい! って言われたんだ」
「へぇ……」
みなさんに好評で何よりです。今度、作ってる人に伝えておこうっと。
「食べれないって、小麦アレルギーとかですか?」
「え? あぁ、まぁ、そんな感じだ」
「えぇーっ! アレルギーなのにパン屋まで来たんですか!? 買いに来た人が食べれないなんて、ちょっと酷いですね」
私ならショックすぎてちょっと泣く。大変な思いしてまで自分が食べれないものを運ぶなんて絶対嫌だもん。買っていく量が桁違いだし。
もし私が小麦アレルギーだったら、そもそもパン屋に行くことすら嫌だと思う。っていうか二人とも小麦アレルギー? 確かにそんなに珍しくはないだろうけど……。
「まぁ当番は当番ですから。な?」
「あぁ」
「優しいんですね」
「ははっ、そんなんじゃねぇさ。ちょっと興味あったからだよ」
「興味?」
そっ、と頷いた青年。
「水無月咲涼、だよな? 俺はサイドスワイプ。アイアンハイドの弟子なんだ。よろしくな!」
「俺はジョルト。サイドスワイプの……同僚です。よろしく」