デフォルトは「水無月咲涼(ミナヅキ キスズ)」となります。
最も偉大な発明家は誰か?
What's your name?
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
7.狙わないでください。
休みが過ぎるのはあっという間。家でダラダラしてぼーっとテレビを見て、そんなこんなで夜が来て布団に潜る。
眠ってしまえば朝が来る。そうしてこの日も仕事に向かうんだ。
「行きたくないなぁー!」
はぁあ~、と大きな溜め息をついた。
朝ごはんを食べる気にはなれなくて、軽く済ませてお弁当を多めに用意した。お昼になったら食欲が戻ってるかもしれない。ご飯くらいが唯一と言っていい楽しみなんだから。
部屋を出てバス停に向かって歩いていると、後ろからちょっとうるさいエンジン音が聞こえてきた。だんだん近付いてくる。横を通る時すっごくうるさいだろうなぁ……。
心の中で覚悟を決めたら、その車がわずかに視界に入る。そして私の横を爆音で通り過ぎ、停止した。
なに!? なに、こわ!
なんて焦っていたら助手席の扉が開かれる。そして現れたのは……
「あ、アイアンハイドさん!?」
「“さん”は要らない」
「あ……すみません、だって慣れてなくて……」
アイアンハイドさんは私よりずっと大人びてて年上に見えるし、そんな人を呼び捨てにするなんて恐れ多くて……気をつけようっと。
っていやそうじゃなくて!
「何でここに居るんですか?」
「迎えに来た」
「……え?」
「あのパン屋まで送ってやる」
あぁ……そういうこと……。
迎えに来たって言うから、シンデレラストーリー的な何かでも始まるのかと思っちゃった。そんなわけないですよね!
「ありがたいんですけど、何で?」
「いいから乗れ」
私の質問には答えずさっさと車内に戻ってしまうアイアンハイドさん。どうしよう、どうしよう、と突っ立っていたら「さっさと乗れ!」と怒られた。
慌てて後部座席に乗り込んだ。運転は昨日の外人さんがやっていたようで、にこにこ笑って「Hi!」と軽く手を上げた。
私は英語なんて全然分からないから、とりあえず笑顔を返して頷いた。
「お前はディセプティコンに狙われている可能性がある」
車が走り出すと、アイアンハイドさんが話し始めた。
ディセプティコン……悪い奴ら!? 悪い奴らが私を狙ってる!?
「なんで! 私なんて、何もありませんよ!」
「そうだろうな」
ねぇ、それはそれでちょっと酷くないですか?
「そいつらは私の何を狙ってるんですか?」
「分からん。だからお前が何か持っていないか聞こうと思っていたが……」
「何にもありません!」
お金もない、地位も名誉もない。あと……なんだろう、恋人も居ないし、家族はまぁ近くに住んでるかな……。
でも、別に資産家の娘ってわけじゃないし、知り合いに偉い人が居るわけでもないし、宇宙人に狙われるような人間じゃない。
「……待て、お前それ……」
「え、何ですか? ……これですか?」
アイアンハイドさんが指差したのはカバンについていたストラップ。鈍く輝く石のような金属のようなものがついた、地味なストラップだ。
「それはどこで手に入れた?」
「二年くらい前に、道端で占いやってるお婆さんに貰いました。なんか、運気を上げるとか何とかって」
その頃は元気がなくて、占いみたいな不確定で胡散臭いものにも縋りたいくらいだった。今なら絶対やらないけど、商店街のど真ん中でたまたま見かけた怪しいお婆さんに見てもらったら「お嬢さん、あんた目も当てられないほど運が尽きてるね」なんてボロクソに言われて……。
そしたらお婆さんがこのストラップをくれた。地味で可愛くはないけど、運気をとても上げてくれるありがたいものだから、カバンにでも括って身につけておきなさいって。
ぼったくられるわけでもなく、ストラップもなんと無料でくれたし、とりあえず言う通りにしてみようかな~なんて軽い気持ちでつけていたんだけど……これがどうかしたのかな?
「ちょっと見せろ」
半ばひったくるようにカバンを持っていったアイアンハイドさん。ストラップをまじまじと眺めて眉間のシワを濃くした。
「まさかな……。いや、念の為このストラップを借りていく」
「え!」
「何か都合が悪いことでも?」
いや、そういうわけじゃないんだけど……。
なんだかんだストラップはラッキーアイテムとして持ち歩いてたし、不安だなーなんて……。
それに、光に当てると淡く青っぽい光を反射して、すっごく綺麗なんだよね。ちょっと癒されたり。
あと、普通に、そのー……あんまり信用できない人に私物を渡したくないかも。
「悪いようにはしない」
「……分かりました……」
たぶん、ここで食い下がっても結局は持っていかれちゃうだろうし。仕方なくストラップを外してアイアンハイドさんに渡した。
「Thank you」
「ユア ウェルカム……」
「……お前、英語ができるのか?」
英語でお礼を言われたので、拙い発音の英語を返した。するとアイアンハイドさんは酷く驚いた顔でこちらを見た。
「学校で習った単語がちょっと分かるくらいです」
あとは、I can't speak English. ……とかかな? この英語だけは忘れないようにしてるの。万が一にも外人さんに絡まれたら困るから!