デフォルトは「水無月咲涼(ミナヅキ キスズ)」となります。
最も偉大な発明家は誰か?
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54.観覧車ほどの機会はないはずでは?
久々に乗ったゴーカートは楽しかった。車を持っていないから、こういうのを運転するのはすっごく久々だったけど……うん、意外と何とかなるもんだね。
それに、アイアンハイドとの競走。自分が車になって走るのは息をするように……いや、それは比喩だけれど、とにかくトランスフォーマーの彼にとって自力で走るのはそれぐらい当然で簡単なこと。
だからかな、競走しようと持ちかけたときは自信ありげに見えた。
でも結果はどうだ。
「私の勝ちだね」
「……」
アイアンハイドは悔しそうに視線を逸らした。それでも手はしっかり繋いでるところが可愛らしい。
「……あんなものに乗れなくても、俺は俺が走る」
「うん、アイアンハイドは走ってるところもかっこいいよ」
「……そうか?」
うんうん、と頷くと彼は満足したように微笑んだ。むしろ、アイアンハイドはあの大きなトップキックで走ってるのが素敵なんだよね。
やっぱり運転はちょっと苦手みたい。ゴーカートだって、荒々しいハンドルさばきのせいで壁にぶつかりまくって大変だった。そもそも体を縮こめなければ席に乗ることができなかったから、運転中はかなり窮屈そうだったし。
「次コーヒーカップね!」
ふたりで乗り込んだコーヒーカップ。回り出してすぐはゆっくり穏やかな動き。アイアンハイドはまた「こんなもんか」って顔をしてる。
そんなに激しいのがお望みなら掻き回してあげる!
中央にあるハンドルを思い切り回し、カップの速度を上げていく。周囲のカップルはこんなに高速回転はしていない。
「おい、咲涼、これ……!」
「どう? これがコーヒーカップだよ!」
アイアンハイドは珍しく焦った様子。可愛いアトラクションがこんなに激動するとは思ってなかったでしょ。遠心力で飛ばされちゃいそうなくらい回ってるもんね!
その後はベンチでちょっと休憩。ゴーカートでも爆走したから疲れちゃった。
息を落ち着けていると、超回転が意外と楽しかったのか「また後で乗ろう」と誘われたので「もちろん!」と頷いた。今度はアイアンハイドに回してもらおう。
休憩を終えたらジェットコースター! 遊園地と言えばこれだよね。一言でジェットコースターと言ってもいくつか種類はあるみたい。
スタンダードに座って乗るもの、立って乗るもの、なんと宙吊りで走行するものまで。ある程度は制覇したいけど……まずは座って乗るものから。
人気アトラクションなだけあり、乗るには少し待ち時間があった。地図を見ながら次はここで、その次はこっちで……と話していたらあっという間だったけど。
「ッわぁぁあああっ!」
「……っ……!」
顔面で風を受け、腹の底から絶叫する。たった一回ジェットコースターに乗っただけで喉が枯れたんじゃないかと思うほど。
……正直、叫んでた記憶しかない。景色が綺麗だと聞いてたけどそんな余裕なかった。アイアンハイドですらよく覚えていないみたい。
途中のポイントで撮られていたらしく、現像した写真を貰うことができた。思い出にはぴったり……と思ったんだけど……。
「やだ、すごいブサイク…………」
写真を撮られることも知らなかったし、当然撮影ポイントの場所も知らない。だから笑顔を繕うことができなくて、目を瞑って歯を食いしばった救いようのない顔で写っていた。アイアンハイドはいつもとそれほど変わらない表情だから余計に私が哀れだ。
あまりにもショックで絶句していたら、アイアンハイドがあっけらかんと呟いた。
「別に、可愛いだろ」
「……そお?」
あぁ、と頷くアイアンハイド。単純な私は「じゃあいっか」と写真をカバンの中に仕舞った。
……いや、冷静に考えたら良くはないんだよね、全然。でもアイアンハイドが可愛いって言ってくれるならいいの。
それから片っ端からアトラクションに乗りまくった。気に入ったものは二回、三回と楽しんだ。
以前、大して興味ないような感じの発言をしていたアイアンハイドも、何だかんだ楽しそうにしてくれていた。無理して私に付き合ってるわけじゃなさそう。ほんと、良かった。
今日だって、デートしようと先に言い出したのはアイアンハイドだったから……彼も遊園地に来ることを楽しみにしていたんだと期待してもいいのかも。
だけど、こんなに楽しいのはアイアンハイドと一緒だからだろうなぁ……と、夕焼けを眺めながらしみじみ思った。
観覧車の中、向かいに座るアイアンハイドは穏やかに外を見つめている。夕日に照らされていつもと違う雰囲気だ。
そんな彼の横顔を見ていたら、視線に気付いたのかこちらを向いた。
「どうした?」
「……今日は楽しかったね」
「あぁ、そうだな。柄にもなく満喫した」
確かに、いつもは落ち着いた大人の男性って感じなのに、今日は子供っぽくはしゃいだ様子も見せることがあった。アイアンハイドもそんな顔するんだ! ってびっくりしたけど、色んな一面が見れて嬉しかったな。
「明日からは、また少しの間会えなくなる。連絡はこまめに取るようにする。時間が取れたら必ず会いに来る。……だから、俺の居ないところで泣くなよ」
昨日みたいにな、と呟いたアイアンハイド。
私だって泣きたくて泣いてたわけじゃない。止めたくても止められなかったんだもの、仕方ないでしょ! ……と言い訳したかったがやめておいた。泣いてたことは事実だから。代わりに、からかうように反論した。
「アイアンハイドの前で泣いたら“笑え”って言うくせに?」
「それは……まぁ、そんなこともあったが……」
言葉に詰まった彼は、誤魔化すように外を見た。
「……次会ったとき、話したいことがある」
「え、今じゃだめなの? 最高にいい雰囲気だと思うけど……」
「駄目だ」
何でよ。デート終わりの観覧車って、何をするんでも絶好のチャンスじゃない?
食い下がったものの、アイアンハイドは頑なに首を振り続けた。分かりました! それなら次会ったときまで待ちます。すっごい気になるけど。今すぐ聞きたいけど。
「……楽しみにしてるね」