デフォルトは「水無月咲涼(ミナヅキ キスズ)」となります。
最も偉大な発明家は誰か?
What's your name?
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52.Even if this body is to decay.
久々に会った咲涼は、最後に会ったときとあまり変わらない姿でそこに立っていた。もちろん変わった部分もある。髪は記憶よりも長く、着ているナイトウェアは初めて見るもの。咲涼の好きそうなデザインだ。
それより気になったのは、真っ赤に腫れて痛々しい目。俺が泣かせたんだ。俺が……「会いに来る」と言いながら全く来なかったから。
全て俺が悪いのに、咲涼は決して怒らなかった。嘘つきだと頬を引っぱたいても、あるいは腹を殴っても良いのに、そうしなかった。
良い奴、なんてレベルじゃない。どんな善人よりも善人だ。咲涼が俺を好きでいてくれることに、心から感謝しなければならない。
「あったかいね」
二人で寝るには狭いベッドの上で、そっと抱き締め合う。
「あぁ、そうだな。こんなに暖かいのは久々だ」
こうやって咲涼を抱き締めるのを、焦がれていた。
電話や手紙だけじゃどうにもならない感情は、ディセップ共を蹴散らしたって治まらなかった。二年もの間どうやって耐えていたんだろうな。自分でも不思議だ。
「嬉しくって寝れないかも……」
咲涼は俺の胸元に擦り寄った。その顔は暗がりでも分かるほど赤い。心拍数が上がっているのも一目瞭然だ。
「眠らないと明日に響くぞ」
「二年ぶりに恋人に会えたのに、のんびり寝られるわけないでしょ……」
「ははっ……それもそうだな」
正直、俺も休む気なんてない。一晩中、咲涼の顔を眺めているつもりだ。寝顔すらも愛おしい。
彼女の柔らかな頬を撫でていると、咲涼は俺の服を掴んで控えめに目線を合わせた。
「あ……アイアンハイド……」
「何だ」
「あの、ね……そのー……」
言おうか言うまいか、きゅっと口を結んで悩み始めた。そんな姿さえも可愛いと思えるのは末期なのだろうか。そもそも、俺が何かに対して“可愛い”と思うことも驚きだよな。
未だ悩んでいる咲涼の顎を軽く掴み、上の方を向かせる。それに合わせるように俺は体を動かして、結ばれた唇にキスをした。
咲涼は驚いて顔を真っ赤にする。キスくらい、何度かしているだろ? 恥ずかしがることじゃない。
「んっ……」
「……好きなだけ悩め。俺はいつまでも待てる」
そう言いながらまた唇を重ねた。一度そうすると止まらなくなり、空白を埋め尽くすようにキスを繰り返した。
何度も、何度も、何度も、触れるだけのキスを浴びせた。
「ぁ、アイアンハイドっ……ちょ、と……まっ……」
「悪い、もう少し……」
口を開いた隙に舌を押し込んで、深く絡めた。味なんて分からないのに甘いような気がして……我ながら馬鹿だとは思うが、それが恋ってやつの効果だろう。
……あぁ、まずい。耐えられそうにない。
咲涼の肩を押し、ベッドに押し付けて唇を食んだ。こんなの、まるで捕食だ。
「んぅ……は……」
咲涼は吐息を漏らしてこちらを見た。つらそうなのに抵抗せず、ただされるがままにキスを享受するのがあまりにも健気で、スパークが締め付けられる感覚がした。
「ッ! ……悪いッ……」
ハッと気付いて唇を離す。咲涼は肩で息をして苦しそうにしている。
……完全に、やり過ぎた。ガキみてぇにがっついて、理性が吹き飛びかけた。むしろここで止められたのが奇跡なほど。
咲涼は涙目でキッとこちらを睨む。
「……キスしてほしいとは思ったけど、めちゃくちゃにしてなんて、いってない……!」
……あぁ、さっきのは、キスしてくれっていうおねだりだったのか。言ってくれればいくらでも……いや、言わなくても散々したわけだが。
「悪かった、咲涼。つい、止まらなくなって……嫌だったよな、もうしない。約束する」
だから許してくれ、と眉を下げると、咲涼は睨むのをやめ、緩やかに首を振った。
「……いや、じゃ……なかった……」
「咲涼……!」
スパークがぐちゃぐちゃに掻き乱される。ブレインサーキットなんてショート寸前だ。どうにもならない俺は、咲涼を潰れてしまいそうなほどぎゅっと抱き締めた。
……もう、離れない。一生俺が守る。例え咲涼が死んでも、その墓石が朽ち果てるまで俺はそばに居る。
いいや。墓石が朽ち果て、石ころのようになり、いつしか砂と混じりあって分からなくなっても。骨すら風に拐われてしまっても。この地球のどこにも、咲涼が居なくなっても。
こんな俺の思考を知る由もない咲涼は、「苦しいよっ……!」と笑いながら抗議した。
「あのね、アイアンハイド……」
「どうした?」
咲涼は俺の背中に腕を回し、強く抱きついてくる。耳元で聞こえる声は、やはり電話とは全く違っていた。
「アイアンハイドとなら、何をしたっていいの。キスもいっぱいしたいし、こうやって抱き合うのも好き。それに……」
「……それに?」
「…………何でもない! おやすみっ!」
「咲涼!?」
俺を引き剥がし、頭までタオルケットで覆った咲涼。気になるだろ。どうして言ってくれないんだ。
「……何も言わないなら、俺の都合のいいように解釈するぞ」
「どっ……どうぞ! お好きに!」
そうか。じゃ、好きなように受け取るとしよう。
俺だって男だと、何度も口うるさく言ってきたはずだ。
しかし、今夜はゆっくり眠ろう。咲涼の温もりを腕の中に感じて、懐かしいこの部屋で穏やかな夜を過ごしたい。
お化けのようにタオルケットを被ったままの咲涼を抱き締める。顔が見えないのが残念だ。
おやすみ、咲涼。良い夢を。