デフォルトは「水無月咲涼(ミナヅキ キスズ)」となります。
最も偉大な発明家は誰か?
What's your name?
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
38.両想い=恋人、で間違いない?
「うぅ、ん……」
光が眩しさに耐えきれず瞼を開いた。今何時だろう。
もぞもぞ動くものの、アイアンハイドの腕ががっちり拘束していて抜け出せない。目の前の彼は眠っているみたいだし、あんまり動いて起こしても可哀想だよね。
かといって二度寝しようにも、すっかり目は冴えてしまっていて。
せっかくだからアイアンハイドの観察でもしよっかな。
こんなに近くで見るのは初めて。そりゃあ今まではそれなりの距離を保っていたし、想いが通じあったのは昨日だし。
まつ毛は意外と長い。唇は薄い方だと思うけど、荒れはなく綺麗。うーん、そもそもトランスフォーマーも肌荒れってするのかなぁ。
……あ。寝てるときですら眉間にシワが寄っている! もう癖になっちゃってるんだろうな。
伸ばすようにぐいぐい押すと、アイアンハイドは「んぐ……」と小さくうめいた。
「ふふ。早く起きないかなぁ」
朝起きて、ベッドで抱き合いながらおはようなんて言うの、恋人みたいじゃない?
……あれっ? そう言えば私達、両想いなのは分かったけど付き合うとかどうのとか、そんな話したっけ?
両想いって時点で自然と恋人になるものなの? よく分からない。というか、トランスフォーマーにもお付き合いって文化あるのかな?
「ぅん……? どうなんだろ……?」
「くっ……ンンッ……」
「……ん?」
あれこれ考えていたら、不意に笑い声が聞こえた。アイアンハイドを見ると目を閉じたままくすくす笑っている。
「アイアンハイド」
「……悪い、面白くてついな」
なに、その悪いと思ってない感じ。別にいいけどさ!
「朝から何を悩んでるんだ」
「……うーん、私達って両想い……でしょ?」
「あぁ」
間違いなく、と頷く。
「だったら、その……恋人、なのかなっ?」
「……」
驚いたような顔。呼吸すら忘れたみたいに固まっている。
ど、どういう気持ち? なに? なに? 表情だけじゃ読み取れない。
「恋人、か。考えたこともなかった」
「そ……そっか」
じゃあ、お付き合いとかは、ないのかな。まぁ、恋人になったって何が変わるってこともないし、アイアンハイドはアメリカに行っちゃうし……そう、だよね。
「俺は咲涼が好きだ。俺の命はお前に懸けられるほどに」
「なっ……!」
そんな熱烈な言葉……聞いてるだけで、頭が蕩けそうになる。
でも直後のアイアンハイドの言葉で、そんな甘い気持ちは消え失せた。
「だが俺達は生きる時間が違う。咲涼の人生を奪うのは……悪いだろ」
「……はぁっ!?」
また私の気持ちは聞かないでそんなこと考えてたの? アイアンハイドっていっつもそうなんだね。
思わず腕を振りほどいて起き上がった。
アイアンハイドは目を見開いている。
「……じゃあ他のひとの所に行ってもいいんだね」
「それは駄目だ!」
何を言ってるんだ! と言いたげな顔で、彼もまた起き上がった。
そんな無茶苦茶な。お付き合いをしないとそういう可能性もあるんだよ。
……アイアンハイド以外の誰かを好きになることがあるのかは、分からないけど。
「ダメじゃない。私はアイアンハイドのものじゃないので」
「だが……お前が他の男と居るなんて耐えられない」
「ワガママ! あっはは!」
思わず笑ってしまった。私の人生は奪いたくないけど、他の男には盗られたくないって……アイアンハイドの中で葛藤があるのかな。嬉しいような、そうでもないような。
彼の不満気な視線を浴びながらひとしきり笑う。笑いすぎたせいで涙が出てくるくらい。
「一つだけお願いがあるんだけど……」
「いきなり何だ?」
どうする? わたし。今なら何でもないって誤魔化すこともできる。
……うーん、本当は好きだって気持ちすら言うつもりはなかったんだ。ここまで来たら言っちゃえ!
「私をアイアンハイドの恋人にしてください」
一緒に過ごして、話したり笑ったりしたい。それに、“このひとはこの宇宙のどんなひとよりも素敵でしょ”ってみんなに自慢したいの。
「それは、……いいのか?」
「聞いてるのは私なんですけど! ……だめ、かな」
アイアンハイドは困惑しながら、何度も深呼吸をした。視線をあちこちに巡らせて何かを噛み締めている。
……なんかデジャブだなぁ、と思いながらその様子を眺めていたら、アイアンハイドは一度ぎゅっと目を閉じた。
「──駄目じゃない。むしろ光栄だ」
開かれたその目は真っ直ぐ私を見つめている。何の迷いも戸惑いもない、綺麗な色で。
「よかった。……よかったぁ」
ちょっと不安だった。例え両想いでも、恋人は作らないって言われるかも、と思ったから。もしくは……そんなことに何の意味がある、とか?
実際どんな意味があるのかと聞かれたら複雑だけど、そのひとだけのものになるっていうのは少し気分がいい。
「……伴侶になってくれ、ってのは、男から言うべきだったのか?」
「は、伴侶っ? う、ん……そうだね、男の人からだとすごくかっこいいかも?」
イメージ的にはその方が強い。でも好きって気持ちを伝えるのに男も女も関係ないと思うなぁ。
「やはりか。……しくじった。どうにかやり直せないか?」
「えぇっ? 気にしすぎだよ」
苦々しい表情をする彼は、どうやら本気でやり直したいようだった。
私としては、あの日死にかけたときに言われた言葉の全てが胸に残っているから……わざわざやり直しなんて必要ないのにな、と思ったり。
「いや、こんな情けないまま終われねぇ。頼む」
「わかった、わかったから! じゃあ、お願いします」
頷いたアイアンハイド。咳払いをして口を開く。
「──愛してる。俺を咲涼の人生の一部にさせてくれ」
どくん、と心臓が大きく鳴った。顔が急激に熱くなっていく。息が止まって声も出ないような、こわいくらいの熱。
柔らかく細められた青い光から目が離せなくて、瞬きも忘れて魅入った。
あぁ、好きだ。この目に惹かれて離れられなくなっちゃったんだ。不思議だな。みんな同じように見えるのに……彼だけは、違うような気がしてしまうの。
「……ずるい。させてくれ、だなんて」
それはわたしの方なのに。
長い長い人生を歩む貴方の、ほんのひとときを一緒に過ごすだけ。わたしはそういう存在なのに。
わたしの人生の、一部にさせてくれ。……そんな風にお願いされたら、頷くしかないじゃない。
「……もう、なってるよっ」
またぽろぽろ涙が溢れた。あんな言葉を貰えたのが嬉しくて、それにすっごくときめいちゃったのが悔しくて。
そういう感情をどうにかする方法は色々あるはずなのに、私の脳は涙を流すことしか分からないみたい。
アイアンハイドは頬を撫でて涙を拭く。
「どうしてすぐ泣くんだ」
「そんなの私も分かんな……っ」
近付けられた顔に言葉が途切れる。
何の予告もなくちゅ、と穏やかに唇が重ねられ息を呑んだ。ちかい。息がかかってしまうくらい、ちかい。
触れるだけのキスをしたアイアンハイドはすぐに離れて緩く笑う。
「涙は止まったか?」
「と、とまった、けど……さきに、いってよ……!」
「悪い。体が動いてた」
これからもそんな言い訳が通用すると思わないでね! ……ぜ、絶対だから!