デフォルトは「水無月咲涼(ミナヅキ キスズ)」となります。
最も偉大な発明家は誰か?
What's your name?
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35.思い上がった私のせい。
「アイアンハイド……? アイアンハイド……!?」
ヒューマンモードになった彼は苦しげな表情のまま目を閉じた。近くに行きたくても力が入らず、呆然と座り込むことしかできない。
そうしているうちにジョルトも人の姿をとり、サイドスワイプは私を持ち上げて傍に置く。そしてジョルトを守るように立って、アイアンハイドの応急処置が始まった。
『……アイアンハイドは大丈夫なのか』
「恐らくな。少なくとも腐食した箇所は全部切り落としたから、これ以上進行はしない」
ついさっきのことを思い出す。触れた所から砂の城のように崩れ、アイアンハイドだったものになっていった。怖かった。強い体を持つ彼が、脆く淡く消えていくのが。
「アイアンハイド……し、死なないよねっ……だいじょうぶ、だよねっ……?」
「絶対に死なせない。俺を信じてくれ」
ジョルトは手元から目を離さずに言った。
彼はアイアンハイドの上着を脱がせた。そして彼を抱き起こし背中を露わにする。
顔も腕も体も、見た目は人間と変わらない。それは背中も同じこと。だけどジョルトがドライバーで何かを緩めると、背中が開き金属やコードが剥き出しになった。
ジョルトは背中に手を突っ込んだが、何をしているのかは分からなかった。ただ、スイッチみたいなものを押しているように見える。
「痛覚センサーは切った。変形も強制ロックをかけた。あとは部品がないとどうにもならない」
『分かった。とりあえず拠点に戻ろう。咲涼、どうする』
ジョルトはアイアンハイドを掴み自身に乗せるようにして変形した。サイドスワイプの問いは、どっちに乗る? ってことだろう。答えは決まってる。
「アイアンハイドと一緒にさせて……」
『分かった。それなら俺に乗って』
頷いてブルーのシボレーボルトに乗り込む。アイアンハイドは横たわっていて、痛覚センサーってやつを切ったせいか、穏やかな顔をしていた。
ロボットモードで切り落とされた腕は、ヒューマンモードでは変わらず存在していた。それは少しだけ、安心した。
人の姿で腕がなかったら、私はそれこそ落ち着いていられない。
拠点につくとアイアンハイドは医務室に運ばれた。ベッドで眠る彼を見ていると、それだけで不安になる。
「アイアンハイド……」
骨ばった手を握る。冷たい。金属だから、かな。元からこんなに冷たかったかな。分かんない。彼の手を触ったのは一回だけだから、記憶の中の彼の体温はこの冷たさに掻き消されてしまった。
「アイアンハイドは戦い慣れてる。でも今回は身体的にも精神的にも負荷が強すぎた。いつ目を覚ますのかは分からない」
「そっか」
ジョルトは至って冷静に言葉を並べた。事実だけを、淡々と。
「咲涼は隣のベッドを使うといい。ショックが大きかったでしょう」
「ううん……大丈夫」
少しでも離れたくない。私が知らないうちにいってしまったらと思うと、怖くて。
「目が覚めたら、真っ先に言いたいことがあるの」
一つ、ううん、二つ。これからもっと増えるかもしれない。とにかく彼と話したいことがある。
「それなら傍にいてやらないといけないな」
「そうでしょ? ……ねぇ、腕はどうなるの?」
体を抉るように斬られたアイアンハイド。肩から先は全て錆び、風に拐われた。ジョルトのおかげで全身が散ることはなくなったみたいだけど……。
「かなり斬ったからね。治すのは俺だけじゃ無理だ。本部に連れて帰ってラチェットやキューに相談しないと……相当どやされるだろうな」
彼は苦笑いを浮かべた。
でも、そうしなきゃアイアンハイドは助からなかった。あの場に居なかったひとにあれこれ言われたって仕方ないよ。
「ありがとう、ジョルト。アイアンハイドを助けてくれて。……私じゃ何もできなかった」
「いや、本当ならもっと早く駆けつけるはずだったのに、他のディセップに手間取った。だから遅れてこんなことに……。それに、アイアンハイドを救えるかはこれからに掛かってる。まだ安心はできない」
そう、なんだ。勝手に一安心だと思っていた。私は何もできないし何も知らない。ばかだな。
アイアンハイドがこうなったのは私のせいだ。弱くてお荷物でしかない私が、何かできるかもなんて思い上がったせい。本当に、ばかだ。
「彼の体は俺達がどうにかする。でも、心を救えるのは咲涼だけだと思う」
「こころ……? なんで……」
「“出会えて良かった”なんてことを言うのは、咲涼以外には居ないだろうから」
眉を下げて微笑むジョルト。なんて言葉を返したらいいか分からなくて、アイアンハイドの穏やかな顔を見つめた。
出会えて良かった。彼の口からそんなセリフが出てくるとは、きっと誰も思っていなかっただろう。
当然、私も。ましてや言い逃げされるなんて許せない。言いたいことだけ言って死のうとするなんて! 私だって、私だって……。
だから、目が覚めたら伝えよう。
出会えて良かったのは、私もだよって。