デフォルトは「水無月咲涼(ミナヅキ キスズ)」となります。
最も偉大な発明家は誰か?
What's your name?
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32.オールドメイドに親近感。
まず私達はババ抜きをした。トランプと言ったらこれでしょ? ジョーカーを一枚足して、最後までそれを持っていたひとの負け。お馴染みのルールだよね。
でも、外国ではちょっと違うみたい。
「……こっちがクイーンですか?」
「さぁ、どうかな」
「では……こっち?」
「うーん、それもどうだろうね?」
最後に残ったジョルトと私。ジョルトの青い瞳が、手札を見透かすみたいにこちらをじっと見つめる。
ハートのクイーンとスペードの七。残る二枚はそれだ。先にスペードを取った方の勝ち……なんだけど。
「……あっ!」
「よし、上がりっ!」
ジョルトは私の手からスペードを抜き去った。手元に残るハートのクイーン。あぁ……。
「婚期逃しちゃった……」
オールドメイド。それがババ抜きの、英語の呼び方らしい。意味は“婚期を逃した女性”。
日本ではジョーカーを足すけれど、オールドメイドではクイーンを一枚抜く。すると、奇数になってしまったクイーンは最終的に一枚残ってしまう。
それを婚期を逃した寂しい女性に例えている。
だからオールドメイド。年配の給仕係、ってことらしい。
意味を知ったらひどすぎる。もうちょっとこう……手心というか……。
「咲涼はちょっと表情で分かりやすすぎますね」
「まぁ、思ったことが顔に出ちゃってる感じ?」
「《素直》《悪いことじゃないさ!》」
ポーカーフェイスが全然できてないってこと!? そりゃ負けるわけよ。
よし、次こそは。
「──なぁんで勝てないのかなぁ!」
私はクイーンの札をテーブルに投げ出した。正直に言おう、全戦全敗である。
「婚期逃した女の人に親近感湧いてきた……」
私もきっと、おばさんになっても一人寂しくご飯を食べる女になるんだろう。この先彼氏ができるとは思えないし。
「未来の私なんだよこれは……」
「あーあー、ジョルトが手加減してやんないから拗ねちゃった」
「《それはお前さんもな》」
「……咲涼なら良い人が見つかりますよ。素敵な女性ですから」
ジョルトの慰めも何だか虚しい。
「それは、どうだろうね……」
だって、私はアイアンハイドに恋をしてしまった。彼を好きになってからというもの日に日にこの気持ちは大きくなってくばかりだ。
決して気持ちを伝えるつもりはない……とは言え、この想いを簡単に忘れられるほど薄っぺらな感情を抱いたつもりはない。
アイアンハイドが海を渡って帰ってしまっても、彼が私のことを忘れ去ってしまっても、私は彼のことをずっと覚えている。
きっと、この恋心も。
だってあのひと以上に強烈な出会いなんて、その先あるとは思えないんだもの!
「ま、恋人なんて居なくても人生は楽しめるよ」
ずっと前は消えちゃいたいって思ってた時期もあった。でも今は生きてて良かったって思う。
アイアンハイドだけじゃない。みんなと出会えたことは、人生でいっちばん幸運な出来事だから。
「みんなだって恋人とか居ないの?」
「えぇ? 俺達ですか?」
私の言葉にみんな驚いた様子だった。
どうして驚くの? トランスフォーマーだって恋人くらい居てもいいんじゃない? 現に、宇宙人に恋する人間はここに居るわけだし!
「……想像できないな」
「《俺の恋人は仕事さ》……《サム》、《彼のことも大好きだけどね!》」
「……」
残念そうな顔で首を振るサイドスワイプ。大好きな友人のことを思い出したのか満面の笑顔を浮かべるバンブルビー。
ジョルトは無言だったけど、サイドスワイプの言葉に頷いていた。
「そうなんだ……」
恋愛話があれば聞きたかったのにな。私がそういうのと縁がない分、人の恋愛事情には大変興味があります。
でも話のネタがなければ仕方ない。
コンコン。
小さく溜め息をついたとき、扉がやや強めにノックされた。誰かが返事をする前に開かれた扉からはアイアンハイドが顔を出す。
「ここに居たか」
「もう終わったんですか?」
「あぁ、元々様子を見に来ただけだからな」
これでも色々やることがあって時間がかかった方だ、と言うアイアンハイド。時計を見れば確かに思っていたより時間が経っている。
「なぁアイアンハイド。アンタ恋人とか居ないのか?」
「あ? ……恋人?」
ニヤニヤしながら聞く弟子に、アイアンハイドは珍しく首をかしげた。あまりに急な質問で理解が追いつかない、って感じの顔だ。
私はというと、全然関係ないのにドキッとしてしまった。だって想い人の恋愛話だ。気にならない方がおかしい。
この場に居る誰よりも、私が一番彼の言葉を待っている。
「居ると思うか? 俺に」
「あっはは!」
サイドスワイプはそりゃそうだ! なんて大笑いした。まぁ……確かに居なさそうだけど。
とは言え、万が一にも美人な恋人なんて居た日には立ち直れないだろうな、なんて思ったりしたから助かった。
アイアンハイドは期待を裏切らない。良い意味で。
「《好きな人は?》」
「え」
バンブルビーの無垢な瞳はアイアンハイドに向けられる。茶化したりふざける様子のない口調に、私が驚きの声をあげてしまった。
当の本人は表情を変えずに口を開く。
「……同じことを二度も言わせる気か?」
そんな返答に、バンブルビーは「《やれやれ……》」と首を振った。
嬉しいような、嬉しくないような……何だか複雑な心境。
「じゃあ咲涼は? 好きな奴とか居ないのか?」
サイドスワイプの問いに、なんて答えるか迷った。でもまぁ、隠すようなことでもないし。
「……好きな人なら居るかなっ」
「《What's!?》《どんな奴だ!?》」
「それは内緒!」