デフォルトは「水無月咲涼(ミナヅキ キスズ)」となります。
最も偉大な発明家は誰か?
What's your name?
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31.She is popular girl.
久々に駐屯地に戻ることになった。業務は若人達に割り振っているから問題はないが、仮にも責任者として様子を確認しなければならない。
水無月を置いてはいけないので、彼女が休みの日に少し顔を出す程度だが。
「みんなに会えるの久しぶりだなぁ」
彼女は俺の運転席でステアリングに手を触れながらにっこり笑った。傍から見れば彼女がトップキックを運転しているように見えるだろう。
『やりたいことがあれば済ませておけ。トランプとかな』
「あははっ、根に持ってるかもしれませんね、サイドスワイプ」
上等だ。そんときゃ一戦やるか? たまには訓練も悪くないだろう。
「アイアンハイドもトランプしようよ」
『時間があればな。用が終わればすぐ帰るつもりだ』
「えー、一回くらいならいいでしょ?」
水無月が「そんな時間もないの?」と首を傾げるから、『まぁそうだな』と曖昧に返事をした。
……帰る? あの家に? 俺が?
おかしなもんだな。俺の帰る場所はあそこではないはずなのに、どうしてそんな言葉が出てきたのか……。水無月は特に気にした様子もないが。
「アイアンハイド? 何かありました?」
『いや……』
本当に最近の俺はおかしい。自覚できるほどだから、程度で言えば手遅れかもしれない。原因さえ分かれば何てことはないのだろうが、ラチェットならともかくジョルトに聞くのは少々癪だ。
もちろん、若いとは言えひとりで医療担当を任されるくらいだから、技術は申し分ないはずだが……気持ちの問題だ。
『もうすぐ着くぞ』
「ほんと?」
街から外れだいぶ人気がなくなってきた。木々が生い茂る道を進めば見えてくる寂れた建物が、俺達の拠点。出入口には銃を持った隊員。俺を見て敬礼をするから、ライトを点滅させて返事とした。
隊員の敬礼を見ていた水無月が、何を思ったのか窓を開け敬礼を返した。隊員は思わずと言った様子で笑っている。
『……何している?』
「え……挨拶されたから、返そうと思って……」
『そんなことしなくていい……』
その挨拶は俺に対するものだから、お前は愛想を振りまくんじゃない。ふざけてやっているのか? いや、至極真面目な顔をしているな……ちょっと変わってるよな……。
窓を閉め、開けられた門を越え敷地に入る。建物の中へ入れば音を聞き付けた若造達がすぐさま姿を現した。
『咲涼!』
『久しぶりですね!』
「サイドスワイプ! ジョルト!」
パッと笑顔になる水無月。ずいぶん嬉しそうだな。
水無月は俺から降りると彼らの元へ駆け寄る。ふたりは小さな人間に合わせてヒューマンモードに変化し、人懐っこい笑顔を見せた。
「元気だった?」
「あぁ、それなりにな」
「仕事に追われてましたけどね」
おう、俺には何も無しか?
同じようにヒューマンモードになり水無月の隣に立つ。ふたりはげぇ、と言いそうなしかめっ面をした。正直すぎるだろ。
「鬼教官のお帰りだ」
「そうか、お前らは俺のレッスンを受けたいわけだな? お望みならいくらでもやってやるが」
「勘弁してくれ! サイドスワイプ、余計なこと言うなよ!」
ふたりは慌てて首を振った。心なしかぐったりしているようにも見える。きっと書類仕事で疲れているんだろう。
机に向かって文字の羅列を眺めるよりは、外に出て敵と戦う方がよっぽど楽だ。それは俺もよく分かってる。
毎日のように書類にサインするオプティマスはある意味すごいな。俺は……正直もうやりたくない。やれと言われればやるしかないけどな。
「バンブルビーも元気そう?」
俺達の会話に笑っていた水無月だったが、思い出したように辺りをきょろきょろし始めた。
確かにバンブルビーが居ない。アイツも水無月に多少懐いてるようだったから会いに来るだろうと思っていたが……。
「あぁ、バンブルビーなら……帰ってきたかな?」
ジョルトが言いかけるのと同時に後ろからエンジン音が聞こえてくる。そこそこの勢いでやってきた眩しいイエローは変形しながらこちらに歩いてきた。
手には何やら袋を持っている。
「《咲涼》!」
「バンブルビー! でかけてたの?」
「《パーティに必要なものってなーんだ?》」
袋の中身見ると、菓子やジュースがいくつか入っていた。こんなのどうするんだ。
「ビー、まさかお前が食うわけじゃないだろ?」
「《あぁ、もちろん違うさ》」
「じゃあ……私にくれるとか!?」
「《That's right!》」
にこにこしながら袋を水無月に差し出すバンブルビー。わざわざ買いに行ったのか? このためだけに?
「わぁ……ありがとう!」
大切に食べるね、と水無月は袋を抱えた。普段は金がないと言ってこういうのを買わないから、わりと本当に嬉しいんだろう。中身も水無月好みのものが多そうだ。サイドスワイプとジョルトも絡んでるな?
「なぁ咲涼、ちょっとみんなで話すくらいの時間はあるよな?」
「うん、あると思う!」
……仲が良さそうで何よりだな。俺の居場所はなさそうだから、とっとと用を済ませてくるか。大して時間はかからないが、久々に会ったコイツらのためにどこかで時間を潰すとしよう。
盛り上がっている彼らの邪魔をしないよう、そっとその場を離れた。まずは隊員達と状況報告し合って、それから簡単に書類の確認もしておくか。
そんなことを考えていた俺の背中に、声がかけられた。
「アイアンハイド!」
振り返ると、水無月がこちらを真っ直ぐ見ている。
「用が終わったらでいいから、一緒にトランプしようねっ」
「……一回だけな」
花が咲くような笑顔を向けられちゃ、こっちが折れるしかない。