デフォルトは「水無月咲涼(ミナヅキ キスズ)」となります。
最も偉大な発明家は誰か?
What's your name?
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3.夢じゃない!
大きな黒に怒鳴られても動けない。これは夢、これは幻覚、私はこのまま帰れる、大丈夫。だいじょうぶ……。
『ちっ……』
黒から舌打ちが聞こえた。
『Arcee!』
黒が何かを呼ぶ。すると私の体は何かに持ち上げられて、横抱きにされて黒と銀の戦いから離されていく。
『ごめんなさいね。危ないから離れてましょ』
「え……」
目の前の……金属の顔は、なに? 喋ってる? 日本語を?
怖いとも何とも言えない感情が頭の中をぐるぐる回る。何が何だか分からない。私は買い物袋をぎゅっと抱きしめた。
『あら……貴女、意外と肝が据わってるわね。袋を手放さないなんて』
「金欠、なので……っ」
驚いてはいる。もちろん。
だが、だからと言って使ったお金を無駄にはできない。中身が多少ぐちゃぐちゃになろうとも、この袋は守ってみせる。一円すらも無駄にしたくないんだから。
目の前の顔はやや間を置いて高らかに笑った。
『あははっ! そうね、お金は大事よね!』
目の前の金属の何かは、私を建物の影に下ろした。かなりの遠くまで来たようだ。
『ここまで来れば大丈夫よ。でも……念の為もっと先へ逃げて』
逃げてどこに行けばいいの。家は黒と銀の戦いの向こうにある。建物があぁやって簡単にぐちゃぐちゃにされているのを見ると、私の家も壊れてるかもしれない。
「い、家が向こうにあるんです。いつになったら帰れますか」
『家……』
彼女は少し悩んだ。嘘でもいいから、すぐに帰れると言ってほしい。唯一の安息の空間なんだ。
でも私の祈りは届かず、彼女はハッキリと答えた。
『分からない。彼が戦闘をすぐに終わらせたとしても、家に帰れるかどうかは、まだ』
そんな。どうして? 一体なぜ戦ってるの?
何が、何と、どんな理由で? ここじゃなきゃ駄目だったの?
あなた達は何者なの?
『とにかく今は逃げて』
そう言い残して去っていった赤い体の誰か。もう、どうすればいいのか……。
整理のつかない頭は真っ白になってしまって、全てを諦めた。とにかく帰りたい。ジュースもお惣菜もどうでもいい、とりあえず冷蔵庫に入れておけば大丈夫。
今は横になりたい。風呂も洗濯も何もしたくない。帰りたい。眠ってしまいたい。
どうやって帰ったのか記憶はなかった。目が覚めたら自分の家で、布団もかけずに寝ていた。
靴は脱いでるし、買ったものは雑だけど冷蔵庫に仕舞ってある。服はそのまま。スーツじゃないから良しとする。
外は……晴れてる。今日はとてもいい天気。
昨日のことは夢だったのかな? 疲れすぎてご飯も食べずに寝てしまって、あんな変な夢を見たのかな。
昨日見たのは……どの辺りだろう。
私は窓を開けてベランダに出た。狭いベランダだがちょっとの洗濯物を干したりするには使い勝手がいい。
「……うわぁ」
結論から言うと、全然、全くもって夢ではなかった。少し身を乗り出して横を見ると、ちょっと離れた辺りに建物がぐちゃぐちゃに崩れた一帯があって、電柱も何本か倒れている。ドラマで見るような黄色いテープで規制線が張られているようだ。
あれが昨日の、乱闘の痕跡ってこと?
なんかすごいの見ちゃったな。私、記憶消されたりしないのかな。変な団体が来て「昨晩の事は忘れなさい」って変な光線浴びせられて……いやだな、分かってる! ドラマや映画の見すぎだ。
──ピンポン、とベルが鳴った。
「…………なに、……」
うそだ。本当に変な団体が来たの? 怖い。出たくない。
「……Not here?」(ここじゃないのか?)
「That can't be right.」(そんなはずはない)
扉越しに聞こえるくぐもった声。英語だ!
びくびくしていると再度ベルが鳴らされる。間を置いて扉が直接叩かれるようになって、出ない方が怖くなってしまって「開けます!」と叫んだ。
「どちらさまですか……えっ!?」
扉を開けた先に居たのは迷彩服を着た……あの黒髪の外人さんだった。厳密にはもう一人、同じような格好をした外人さんも居るけれど、こちらは見たことがない人だ。
「……我々はNEST。昨晩のことで来た」
今の私の脳内は、外人さんが目の前に居ることもそうだし、やっぱり変な団体だ、昨日のことで来たんだ、予想が当たった、なんて考えが占拠している。
なんかぐちゃぐちゃになりすぎて、いよいよ一周回って冷静になってきたな。
こういうときどうすればいいんだろう。わざわざ来てもらったわけだし……うん、そうだ。
「立ち話もなんですから、良ければ中に入りますか?」