デフォルトは「水無月咲涼(ミナヅキ キスズ)」となります。
最も偉大な発明家は誰か?
What's your name?
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29.遠くの友人より近くの護衛。
──好きだなぁ、と思うと、生活の全てが輝いて見えてくる。
ちょっと目が合えばそれだけで幸せだし、ゆったりとソファに座っているだけでかっこいいし、ビークルモードからヒューマンモードに移行して服をぱっぱと整える些細な動作すら良いな、なんて思ったりとか。
要は盲目的になってしまうのだ。
ふとした瞬間に無意識に見つめてしまうから、「何だ?」とアイアンハイドに変な顔をされたことはもう数え切れないほどある。
「……用があるなら言え」
「ううん、何もないですよ」
「じゃあ穴が空くほど見てくるな」
軽いため息をついたアイアンハイド。トランスフォーマーという高度な知的生命体ゆえか、人の視線や気配には敏感みたい。それとも私が分かりやすすぎるだけ?
洗い物を終え手を拭いた。最近寒くなってきたから水仕事がちょっとつらい。
「……電話だぞ」
「えっ? 誰だろう」
テーブルの上で振動するスマホ。電話なんてそうそう来ないのに、と思いながら通話ボタンをタップすると、聞こえてきたのは元気な声だった。
『《Hey, my friend! 元気か? 俺だぜ、俺!》』
誰かは分かってる。でもちょっとだけ意地悪したくなっちゃった。
「えー? どちらさまですか? オレオレ詐欺かな? 切りますよ?」
『《おいおいおい、ちょっと待ってよ咲涼! サイドスワイプだって!》』
「ふふっ、分かってるよ! 冗談っ」
ひどく焦ったようなサイドスワイプの声に思わず笑うと、向こうからやや不満気な声が聞こえた。ごめんね。
それにしてもサイドスワイプの声を聞くのは久しぶり。基地でお世話になってからは会ってないし、そのとき教えてもらったサイドスワイプ直通の連絡先もなかなか使う機会はなかったし。
ジョルトもバンブルビーも教えてくれたけど、やっぱり彼らは忙しいだろうから私から電話するのは気が引けちゃうんだよね。
「どうしたの?」
『《んー、いや、元気かなってさ。ほら、俺達みんななかなか会えないからさ》』
『《羨ましいね、アイアンハイドは! 毎日咲涼の顔を見れてさぁ》』
「ジョルトも居るの? 元気そうだね」
みんなから好かれて私はとても嬉しいです! こんなにモテモテなのは小学生くらいのとき散歩中の犬にモフモフされたときくらいよ。異種族に好かれる体質なのかな。
「バンブルビーも元気?」
『《あいつは今アメリカの大好きな相棒と話してるよ》』
『《サムって言う人間なんだけど、離れたくないって泣くくらい彼のことが好きなんですよ、バンブルビーは》』
へぇ、そうなんだ! どんな人なんだろう。サムさん……相棒っていうくらいだから、きっと色んな困難をくぐり抜けたんだろうな。かっこいいなぁ。人とそうでない存在のコンビなんて、まるで映画みたい。
「今度その人の話聞かせてよ!」
『《あぁ、もちろんいいぜ。サムのことはアイアンハイドもよく知ってるから試しに聞いてみな》』
通話しながらアイアンハイドを見ると、思いがけず彼は私の方をじっと見ていて肩をびくっ! と震わせて驚いてしまった。
だってこっち見てると思わなかったんだもん。しかもガン見。
アイアンハイドもみんなと話したいのかな? 彼らはスマホなんてなくても通信できるみたいだけど……どうなんだろう。
一応「アイアンハイドも話す?」とスマホを見せる。彼はわずかに頷いてそれを受け取った。
『《それでさ、咲涼、今度家行ってもいいか? 顔見たいし、みんなでトランプとかしようぜ》』
「……」
『《咲涼?》』
トランプいいね! ババ抜きとかしよう! なんて思ったものの、今スマホを持っているのはアイアンハイド。それを伝えることはできない。
うんともすんとも言わない通話相手を不審に思ったサイドスワイプは、何度か私の名前を呼ぶ。
アイアンハイドは何も言わないし……ど、どうすれば……。
「そうやって遊ぶ暇があるなら仕事をしろ。バンブルビーが増えたところで余裕は生まれていないはずだが?」
『《アイアンハイドォッ!?》』
スマホを耳に当てていなくとも分かる、ガタンガタンッと何かが倒れたり落ちたりする音。サイドスワイプが、あるいはみんながどれほど焦っているかが表されている。
『《いつから変わって……》』
「トランプの辺りだ」
『《なんだよ! 野郎を遊びに誘ったって仕方ねぇじゃん!》』
「そう思うなら仕事に戻れ。片付かない内はこっちに来るな」
アイアンハイドは、不満の声を上げるサイドスワイプを無視して通話を切った。
そのまま返されるスマホ。相変わらずの師弟に苦笑いしか出ない。
仲は良いんだけど、やっぱりアイアンハイドは厳しいところがあるよね。スパルタレッスンがお得意なお師匠さまだから。
「こんな電話がよく来るのか?」
「うーん、たまに? 会えないと寂しいこともありますから」
前は毎日顔を合わせて色んなことを話してたし、そういう日課がなくなれば多少の喪失感はある。
「俺の知らないうちに……」
呆れ半分、怒り半分、といった表情で「あまりアイツらを甘やかすな」と低く言われて、久々にアイアンハイドが怖く感じた。
どうして怒ってるんだろう? 彼らを甘やかしているというよりは、私が甘えているような気がするのにな。
「どんなことでもいい。話があるなら俺が聞く」
彼の言葉に一瞬ポカンとしてしまった。
「……すごく小さなことでも?」
「あぁ」
「嫌な客が来た! みたいな愚痴も?」
「あぁ」
だからわざわざアイツらに連絡するな。
そう言ったアイアンハイドは真剣な目をしていて、何て返事をしたらいいか分からなかった。
目を合わせているのもドキドキしてしまう。視線を逸らすと「分かったか?」と問われ、小さく頷いた。
「私の話なんてつまらないですよ」
「それは俺が決めることだ」
「そ……そう、ですか」
変なの。前は無駄話なんて面倒だって雰囲気すら感じたのに。すごく、変だ。